第33話 胸には五つの魔法陣

 俺が死を予感した時に天空に光が輝いた。

 急速に下降して来た直径一メートルの球体が、俺の体をまばゆい光で覆う。

 光の球体はレッドドラゴンの吐くブレスをかわして、空へと飛びあがった。


「誰だ……?」

 意識が遠くなりかけた俺は光の球体の中心にいた。

 深くフードを被った者は意識を失った俺を引き寄せ、一瞬で数キロ離れた場所へ飛ぶ。


 意識がもどった俺の胸に手を当てて、フードの者は回復魔法を唱えていた。

「あ、ありがとう……助かった……あなたは?」


 俺が礼を言うと、それを手で制しフードをおろして、懐かしい顔を見せてくれた。

「私の名はアイネ・クラウン。お久しぶりですね。かなり強くなったみたいじゃないですか」

「アイネ! どうしてここに」体を起こす俺を優しく抑えたアイネ。


「まだ君は十分に回復していないですよ。目をつぶって、回復に集中してください」

 アイネの言葉に従い目を閉じると、あたたかい光が俺の全身を覆っていく。

 神官クラスの使う、高度な回復魔法であった。

「アイネは剣士じゃなかったのか? プリーストなのか?」


 治療の為にフードをおろした、アイネの着る白いローブは赤く縁取られ、胸には五つの角を持つ魔法陣が刺繍されていた。その上からかけられた首飾りの中央には、青き光を湛えたクリスタルが輝いている。

 光の加減によっては純白にも見える、綺麗で明るい色で肩より少し長いくらいの銀髪が、少し気の強そうな眉を隠していた。


「君は何者なんだ?」

 俺が問うと、アイネはふいに顔を上げた。

「……来る!」

 俺の身体から手を放すと、アイネは立ちあがった。

 その目は東の空を見ている。すぐに俺もそのエナジィに気がついた。


 赤い点が東の空に小さく映ったかと思うと、一気に爆発するように大きくなり、次の瞬間にそれは地上に降りてきた。

 俺が呟いた。

「赤龍王……」


 赤龍王は人の姿に戻っていたが、そのエナジィはレッドドラゴンそのものだった。


 アイネが無邪気に言った。

「姿は関係無しですか……人間の姿でも凄いエナジィですね。初めて見ましたよ。高次元の実体を、この世界に展開することが出来るんですね」


 この世界で勝てる相手はいない。そう思わせる程の力が赤龍王には感じられた。

 それでも恐怖など微塵も見せず、どこか億劫そうな様子のアイネ。

「ふぅ~~う。そんな力なんて必要ないと思いますけど? 肩が凝りそうです」


 動じないアイネに赤龍王は小さな関心を持ったようだ。

「おまえはバカなのか? それとも……まあ良い。邪魔するな」

 まだ体がうまく動かせない俺が呟く。

「赤龍王よ、何故ここまでする? 今のあんたに敵う者など」

 完璧に負けた俺。それを承知する赤龍王が、しつこく追ってくるのが不思議だった。


 俺の言葉に赤龍王は笑った。

「フフ……そうだ。今のおまえは俺には絶対敵わない……今はな」

「どういう意味だよ! 赤龍王?」

「未来は分からない。明日、お前がどれほどの力を持つか……気をつけなければならない。おまえも竜の力を持つ者だから」


 そこまで話すと目線をアイネに移した赤龍王。

「それに世界は広い。こんな者も隠されている……もう一度聞こう、おまえは何者だ?」

 赤龍王の言葉にアイネは意外な返事をする。

「面倒ですね。どっか行ってくれませんか」

 アイネの両手に魔方陣が浮かび、力の循環が始まった。


「攻撃魔法だと!」

 驚いた赤龍王は動きが遅れた。素早く詠唱を始めるアイネ。

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