第31話 赤龍王のレべリオン


 俺は嫌な予感と手の震えを、握りつぶして振り返った。

「まだ続けるのか? 赤龍王」

 王が立ち上がり笑みを浮かべる。

「翠の竜よ。俺はまだ終わってない……来いよ!」


 赤龍王が右手で自分の首を指差す「俺の首を切れ」と。

 深くため息をついた俺は、立ち止まって口を開く。


「そのまま倒れていればよかったんだ、赤龍王」


 俺はため息とも、覚悟とも取れる、言葉を漏らし方向を変え、赤龍王へと歩を進める。


 俺は近づきながら緑の竜の力を発現させた。


 身体を風が包む。

 強い風の渦は空気を乱し空間の可視度を下げ、魔法の命中率を下げる。

 また、遠距離で放たれた矢やナイフなど、威力の弱い攻撃も弾く事が出来た。


「クク、勇者よ、先のようにはいかんぞ!」

 大型の片手剣ブルトガングを握り、俺の前に立つ赤龍王。

 必殺の攻撃を仕掛けようと待つ赤龍王に、俺は無防備に歩を進める。


「ダァアア」赤龍王の剣が真横から振られた。

 剣は周囲の強い風に軌道を外され、斬撃の力も速度も弱まった。


「ちっ!」赤龍王がため息を漏らす。

「どこを狙っている?」俺の言葉が赤龍王の背後から聞こえた。

「ふん、手応えが無かったな。勇者を切った割には剣の感触が軽すぎる」

 俺は振り向きながら赤龍王に向かう。

「それで今度はどうする? 俺を守る風で弱まった剣技、ましてや瀕死状態のおまえの剣など、俺には通じない」


「そうか、ならば」赤龍王は両手を広げた。

「この手で直接おまえを捉まえて、骨ごと砕いてくれる!」

 一気に間合いを詰めて、俺を捕まえようと迫ってきた赤龍王。


「なるほど……素手ならば風の影響を受けづらい……そう、考えたか? あさはかな」

 両手が俺に触れた瞬間には、周りを吹く緑の風と同化して消え、実体は赤龍王の後ろへ一瞬で移動する。今度は風を使わずに直接に、フルーレが赤龍王の背中を切り裂いた。


 赤龍王は深く傷つき倒れそうな身体を、懸命に踏ん張り支える、

 俺は赤龍王の背後から願うように言う。


「最後の忠告だ。黙って地に伏せろ……ドライクの長老達からはあんたを倒せと言われただけ……殺したくない」

「ふん、転生した勇者は肝要だな。古代の神だった六頭竜の血は、俺だけが持っているわけではない。勇者である翠の竜のおまえにも残されている」


「何を言っている?」俺は動揺を見せた。


「勇者よ。考えたことはないか? 今、この世界の均衡が揺らいでいる。古代の神の血を強く宿す俺や現代から来た勇者……大きな力がこれからぶつかる。その力で世界は壊れ、自分達に都合良く世界を作り替えた神人の呪縛を破る時がきたのだ」


 俺は首を横に振る。

「今更だ……古代の世界を呼び戻してどうする? 平和な世界を壊そうとは思わない。例えそれがあんたのいう偽りの世界でもな」

 ふらつく体を気持ち支えて、俺から視線を外さない龍の王。

「クク、勇者のおまえも見たんだろう? アガレスの持っていた機械人形を。勇者よおまえは強く古代の竜の血を引いた。その圧倒的な力を見ろ」

 

 確かに強くなった……自分でもビビる程……俺の力は六頭龍のものだと長老たちも言っていたな。


「それなのにおまえは古代の竜の力を、虚言に満ちた世界の平和に使うと言う。いいだろう、俺が見せてやろう、本当の世界を。それが俺の戦いだから。それが赤き龍の『レベリオン』なのだから」


 俺のフルーレが赤龍王の首に突きつけられた。


「『反乱』を起こすだと? 何に?」

 俺の言葉に赤き竜が吠える。

「決まっている!」

 赤龍王が指さす天空の頂。

「天に向ってだ!」

「そうか……残念だ」

 フルーレが一瞬震え、赤龍王の首を通り抜け、巨躯から首が地上に落ちる。


「これで……いい。世界は偽りでも、平穏な日々が続いた方がいいんだ」

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