第26話 重騎士と獣王
赤き王の牢獄の裏手で、静かに荷造りをしている巨大な獅子の姿の獣王アスタルト。四頭立ての馬車の荷台には、大きな箱が置いてある。
俺は荷台で寝ていた、何度かアスタルトに起こされ、旅の支度を手伝わされたが、もう起こす必要ないようなので、寝ることにした。
「俺はデカイからな、馬も多くいるのさ」
俺へではなく、独り言のような呟きに答える声があった。
「何処へ行かれるのですか? こんな夜更けに」
「フッ」鼻で笑いながら、手は止めないでアスタルトが答えた。
「休養でも取ろうと思ってな。最近働きづめだったし、歳もとった。ゆっくりと田舎でもまわろうと思っている。それで? 夜更けに若造がオレに何か用か?」
若造と呼ばれた者が暗がりから近づいてきた。
「出発は明日になさればいい」
俺が部屋で見たアガレスの隊の副長グレンが言葉を続ける。
「アガレス閣下からの許可は、明日なら俺が取ります」
「フッ」アスタルトが鼻をならす。
「何のための許可だ? ここから出るのにおまら親子の許可がいるのか?」
構わず荷造りを進めるアスタルトに、グレンが言った。
「ええ、必要です獣王」
「獣王じゃない。その名で呼ぶな」
グレンの真意を計ったアスタルトが言った。
「そんな面倒な言い回しは止めたらどうだ? まんざら知らぬ仲でもないだろう、若造」
挑発するアスタルトに、グレンは首を振った。
「獣人の作法はよく知らないが、全ての頂点に立つ者が獣王なはず。それは自らや、他人から決められるものとは違う。獣人族の憧れと恐怖の対象であるのだろう?」
グレンの言葉に首を動かし、肩が凝ったと動作で伝えるアスタルト。
「まったく面倒な若造だな。腕ずくで止めたらどうだ? 最初からそのつもりなのだろ? オレもそっちの方が楽でいい」
ニヤリとグレンが笑った。
「一度、獣王と戦ってみたかった。今日はいい日になりそうだ」
「ふん!」背中に背負った大剣ファルクスを抜いたグレン。
大型のくすんだ銀色の両手剣は、良く使い込まれており、重い刀身が鈍く光る。アガレスのソウルイータのような、伝説の武具とまではいかないが、簡単に手に入る種類のものではなく、グレンの戦闘力を大きく高めている。
「うりゃぁああ!」
抜いた剣を予告なし、躊躇なしで、アスタルトへ向かって上段から振り落とすグレン。
ブン。
振り抜かれた銀色のグレンの剣の軌道も見ずに、無造作に身体を横に開いたアスタルト。目の前を剣が通ったその瞬間、アスタルトは右足でグレンの足を蹴った。
普通の人間であれば、骨にヒビが入りそうな強打だが、蹴られたことを感じていないかのように無反応なまま、グレンは二撃目に入る。今度は剣を横にし横一文字に斬った。
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