第21話 荷物をまとめろ
俺は心底に監獄暮らしに飽き飽きしていたし、エナジィも使えるようになった。エナジィは現代ではオーラーとか闘気にあたるものだが、もっと強く身体に力を与える。
魔法や剣技などのスキルの効果をアップさせたり、身体の強化にも使えた。
もともと俺は風の属性の翠のエナジィを持っていたが、この半年で一般人からも見える程に放出できるようになっていた。
「練習だけじゃ強くならないよアスタルト。腕試しをしながら、もう一人の勇者アナトを探しに行こうよ」
深く考え込んでいた獣王は、やっと決心したようだ。
「わかった。荷物をまとめろ」
「お、やっとシャバに出られる!」
喜んだ俺はさっそく、多くはない日常品を整理して箱にしまっていく。
「食料と馬車が必要だな。アガレスのところへ寄ってから行くか」
俺はアガレスが嫌いだし怖かったので、心配を口にする。
「大丈夫なの獣王? 暗黒騎士にはいいイメージがわかないなあ」
ふむ、獣王は心配ないと答える。
「アガレスはおまえが考えるような人間ではない。複雑な現状とクソ真面目な性格のせいで、望まぬ事をやっているだけだ」
「それなら、安心?」
俺の問いには明快に答えは返ってこなかった。
「まあ、そう安心はできないな。世界とおまえを天秤にかけたら、アガレスは世界をとるだろうから」
えーー、俺は悲鳴に近い声を出した。
「アスタルトはどうなのさ、世界と比べられて」
愚問だなと獣王が鼻で笑う。
「例え誰かが俺や身内に害を出したら、うち滅ぼす。火の粉を払うのは当然だろう」
「……一応、俺も獣王の身内って事でよろしくお願いいたします」
お願いする俺に任しておけと、胸を張るアスタルト。
「当然、おまえの為には戦うぞ。だが、今回の戦いはバアルおまえと、もう一人の勇者が大事なポイントになると見ている」
「はぁ? まあまあ強いだけの俺と、まだ会った事のない転生勇者なんか、あてにするより、各国の精鋭を集めればいいんじゃない? 例えばエールのアイネとか」
顎に手をやり考えるアスタルト。
「それは最後の手段だな。七つの国が戦禍に巻き込まれる事になる。それと何度も言うがお前たち、現代からの転生勇者が大事なのは変わらない」
戦力として足りるかわからないのに、俺ともう一人の勇者にこだわる獣王。
「だから俺たちじゃ役不足だから……」
俺の言葉に首を振った獣王。
「俺と大魔王が望んだのは全力で戦える強敵だった。その者を呼び出す為に、魔王ラシャプとお前の姉アーシラトに策略を任せた。結果、どうも嫌な方向に進んでいるようだ」
今度は俺が意味が分からないと首を振る。
「どういう意味? とんでもない者が出現するって事? なら、ますます俺なんか……一応エナジィは習得したけど」
獣王は俺の顔をジッと見た。
「確かに今のおまえの力では及ばないだろう、もう一人の勇者の力を借りてもだ。だが、俺が想像している者はこの世界の外から現れる。そんなやつを倒せるのは異世界転生で、同じく外からきた勇者だと思っている」
話に集中して旅の準備が進まない俺を見て、獣王が話をいったん切った。
「話過ぎたな。さあ、旅の準備をしろバアル。終わったらアガレスのところへ行くからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます