森の向こうに
「エルフの集落?」
朝食を食べながらアルバートから上がってくる報告を聞いていた。
「ええ、森の奥の方に入ろうとすると矢が飛んできまして」
かなり鋭かったらしい。ただ、わざと狙いは外されていたようで、けが人は出ていない。
「話し合いはできそう?」
「我らの領域に立ち入る者は問答無用で打ち抜く、だそうです」
「うーん……。当面は不干渉で行こうか。ただ、向こうから何か言ってくるときはちゃんと対応しよう」
「承知しました」
とりあえず、使い魔を放ってみた。
森の中をリスが進む。使い魔の視界と同調させ、現地の状況を見ると……土地に結界で境界が敷かれている。
そのまま進んで境界をまたいだ瞬間……矢が飛んできてリスの身体は霧散した。
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「あのような精巧な使い魔を操るとは……遺跡の主は一筋縄ではいかんようだな」
「族長、彼らと交流を持つべきです。この森に引きこもっていても事態は改善しません!」
族長と呼ばれたエルフに、若い女性のエルフが必死な表情で訴えかける。
「ならぬ! 我らは森に生きる者だ。掟は守らねばならん」
「しかし!」
「……我は齢を取り過ぎた。故に今更生き方を変えることはできん。アリエルよ。この森で最後に生まれたエルフよ。お前が次の族長だ」
「えっ!?」
「お前の魔法と弓の才はこの森に住むすべてのエルフを合わせたよりも優れている。精霊も嘉し給うだろう」
「いきなりなんなんですか! 彼らを発見してからずっと私が訴えてきたのは何だったんですか!」
「むう、そういうな。彼らの力がわからなかったのもある。しかし、あれほどの使い魔を放ってくるのであれば、相当高位の魔法使いがいることは間違いない。結界を破られ、多数の兵を送り込まれれば我らにはなすすべがないゆえにな」
「そっれっも、わたしが何べんも訴えましたよね!」
「その時点では可能性の話だったからのう……」
「もう、わかりました。では、私の名前で彼らと対話します。いいですね?」
「うむ、任せたぞアリエルよ」
元族長が重々しくうなずいた瞬間、アリエルと呼ばれた女性の表情が笑みの形にゆがんだ。
「はい、では元族長。彼らのもとに使者として立ってください。族長命令です」
「え? ちょ!? ほら、我森から出たことないし」
「いい機会です。そのアダマンタイト級の石頭をたたき割ってもらってください」
アリエルがピシッと指を鳴らすと、アリエルの意見に賛同する若年層のエルフたちが元族長の両腕をつかんで立ち上がらせた。
そしてそのまま森の境界まで連行していく手はずになっていた。
そもそもこの時点で譲位すると宣言していたにもかかわらず、元族長は席にどっかりと座り、アリエルは立ったままだ。
「ふん、その手に乗るもんですか」
ちなみに、元族長が無抵抗で連行されたのは、アリエルが精霊を使役して族長に従う精霊を封じ込めたためだ。
元族長が言っていた、アリエルの魔法に関する才能は事実で、そのあまりに大き過ぎる才を妬まれ、武者修行と称して森から事実上の追放を受けていた。
そして、ある日、森の近くにあった古代遺跡が起動したとの知らせを受けて森に帰還したのである。
アリエルの危惧はもう一つあった。なぜエルフがこの森を離れられないのか。それは、古の魔法使いが遺した災厄を封じ込めるため、と言われていたのである。
そして、古代遺跡の起動時期と重なって聖地と言われていた古代樹の根元からまがまがしい気配が漂っていた。
それはアリエルの魔力ですら勝負にならないほどの規模だ。
あれほどの使い魔を使役する者であれば、彼の災厄に対しても何らかの打つ手を見出してくれるのではないか?
アリエルは先行きにわだかまる厄介ごとを思い浮かべ、ため息を漏らすのだった。
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『マスター、魔力の異常反応を検知しました』
「え? どういうこと?」
『エルフの森の中心部に結界があります。そこに古の魔獣アルカイムが封じられていたようです』
「……え!?」
『いいリアクションですマスター』
「戦力は?」
『戦闘力評価53万。こちらの戦力は評価値8000です』
移住者も増えたし、冒険者も結構やってくるようになった。岩山から希少な鉱石が取れることが判明したことが大きい。ただ、それでも戦力の比率は絶望的だ。
「え? 無理、無理無理無理無理無理ーーーーー!」
『仮にですが、シティコアに蓄えられているマナを吸収されたら……』
「どうなるの?」
『世界は滅びます』
「え? 迎え撃つしかないの?」
『ですね。まずはエルフとの協力体制を整えましょう。ちょうどいいことに森からエルフの使者がこちらに向かっているようです』
「対応策を持ってきている?」
『エルフがかの地の封印を維持しているのであれば何らかの対策を持っている可能性は否定できません』
「アルバート!」
僕はアルバートを読んで、すぐにエルフの使者の対応を指示するのだった。
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