第101話 少女との出会い
「良かった。詰んでいて自殺してしまおうかとまで考えていたくらい厳しい状況だったし、一人という孤独にも耐えられそうになかったからね。ありがとう、反応してくれて」
返ってきた反応は、ホッと安心した、モンスターが出現した世界で発せられたものとは思えないくらい優しい、一人の少女の声だった。
言葉からして、この少女はよほど追い詰められていたらしい。まぁ、こんなに暗くて狭い密室に一人でいたら、そんなことにもなるだろうな。
「それでその、君は?」
「あっ、ごめんね。ボクの名前は祐希。祐希と呼んでくれれば。差し支えなければ、あなたの名前も聞いていいかな?」
ゆうき……ボク……あれ、もしかして男なのかな? 声も中性的だけど、どちらかといえば女性なのかな、とか考えてたけど。
《……ボクっ娘とか?》
……あぁ、なるほど。いいよね、ボクっ娘。
《…………。》
……あっ、ごめん。
「……ぁ、うん、もちろん。僕の名前は青柳千尋。僕も、千尋と呼んでも構わないから」
「了解。よろしく、千尋」
「うん、よろしくね、祐希」
そう互いに交流を深めると、僕は痛みを我慢しながらおそらく祐希のいるであろう隣の監獄との壁にもたれかかる。
「それにしてもさ。千尋はどうしてこんなところに捕まっているんだ?」
「僕? 理由はまだ良くわからないけど、多分魔族の結界に近付いたから、だと思う」
「……それだけ? いや、それならここに捕まることなんてないと思うけど。ボクはずっとこの魔族の結界近くを遠くから監視していたんだけど……その、気付けば殺されていた、し」
声が淀みながらも、話し続ける。
……なんとか努力すれば、もしかしたら救えたかもしれないのに、それでも判断が遅すぎて見殺しにしてしまったことの辛さは、よく分かる。
それにしても、やはり、最初は瀕死にするつもりなどなく、ただ殺そうとした、という予想で正しかったらしい。それなら、他の3人は……
《……生きていることを、願いましょう。》
……今は、そうすることしかできない。だね。
「……多分、それで死ななかったからじゃない、かな? 僕、意外と身体は強くてさ、今もまだ至るところから血が出てるけど、こうやって話せてるし」
「えっ、大丈夫なの? というか、その状態のまま話させてごめん。辛いだろうに……」
「大丈夫だよ。まぁ、それで死ななかったから、何かしらの理由があって、考えを変えたんだと思う」
「……なるほど」
「そうだ、そういえば祐希こそどうしてこんな監獄にいるの? 僕の状態に驚いていた、ということは、そこまでダメージが入ってないのかな、って勝手に思ってるんだけど……」
「その通りだよ。千尋とは少しケースが違った。僕が攻撃された瞬間は、結界の中にいたんだよ。侵入しようと試みたんだけど……無理だったよ、テヘ」
乾いた笑みが、小さく響いた。
侵入しようとした……か。魔王の攻撃を止めようと……誰かを助けようとしたの、かな?
《……この人、もしかしたら大分強いと思います。前にもいいましたが、この結界では生命力が低下します。付け加えて言うと、普通の人間どころか、多少スキルを持った人であっても知らずに入ったら死んでしまうレベル。その中で動けるとなると……》
……え、そこまで強かったの、この結界。それにしても、それで祐希は侵入できたってことは、どれだけ強いことに?
「あの、祐希。嫌だったら答えなくてもいいんだけど」
と、前置きをする。職業だって、一種のプライバシー。無理に聞いて祐希に僕に対して不信感を持たせたくない。
「なに? 大抵のことならいいけど」
「職業って……教えてもらえる?」
あくまで慎重に。ゆっくりとした口調で、静かにそう尋ねる。
「……まぁ、ここじゃ隠していても何にもならないし教えるよ。ただ、その前に。千尋って、ここから逃げようと思う? そして、思うとして、ボクに協力してくれる?」
「……? もちろんここからは逃げたいし、祐希が協力してくれるのなら、喜んで、だけど」
ほぼ他人とはいえ、監獄の中で唯一コミュニケーションを取れる仲なんだ。断ることなどない、むしろ協力者がほしいところ。
「……良かった。じゃあ、言うけど、ボクの職業は大賢者、だよ」
「大賢者……」
《ユニークジョブ、ですね。主に、魔法能力に長けています。また、スキルを上手く使っていれば、知識量もチートレベルだと》
「そうだ、僕の職業は言っていなかったね。僕の職業は引きこもり、だよ」
「……えっ、引きこもり!? 引きこもりって言葉からして弱そうなイメージしか……あっ、ごめん」
「いやいや、別に大丈夫。僕だって思うし。それより、どうするべきだと思う、ここから逃げるには」
さっそく、作戦会議といこう。
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