第90話 一時の平和
こいつの裏にはなにかがいるらしい。
もしかして、誰かがモンスターを支配する職業があったりして。例えば……
例えば……魔王……
魔王…そういえば、存在しているんだったよな。ユニークジョブだった……よな。
……最悪だな。
冷や汗をかくのを感じた。死ぬかもしれないという状態がずっと続いていれば、どんなに僕が我慢強くたって……さすがに恐怖を覚え始める。
「……じゃあ、もう死んでくれ」
魔族は吐き捨てるようにそう言うと、片手の先から黒い球体のようなものを出していた。その球体の周りはまるで空気が濁っていて、乱れているようで、例えダメージが入らないとしても誰もが近づきたくないと……そう、思ってしまうほどだ。
僕は死を覚悟した。
魔法は無理だと分かっているし、鬼化だって相手に効果を為さなかった。
今、そのスキルで相手の攻撃を抑えられるなんて思える訳ないのだ。もしかしたらスキルをいくつも使ったら瀕死状態になるかもしれないけど、生きることができるかもしれない。
だけど。
だけど、僕は心理的ダメージまで負いすぎてしまったのだ。
なにも、できなかった。
「最後の最後まで、……雑魚だな。もう、生を諦めたのか。まぁ、これを前にして生を諦めんやつなどいるわけもないが」
そして、その黒い球体はちょっとずつちょっとずつ僕の方へ傾いている。それでも、僕は何をすることもできなかった。
死がちょっとずつ近づいているというのに、もう死んでしまっても楽になれるのならいいと思ってしまっていた。
その時のことだった。
ピタッ……
急に黒い球体が止まるのを感じた。それに疑問を感じたことで、僕は自分をなんとか取り戻すことができた。
「でも、どうして……?」
気になって、その黒い球体を動かしている魔族の方を見てみると、何か他のことに気を取られているようで、何かを呟いていた。
なんだ……?
《聞き耳》
「……え、ゆ、勇者ですか? ……わ、わかりました、すぐそちらへ向かいます。」
なにをひとりごとを言っているのだろうと疑問に思った。
でも、これがひとりごとじゃないと分かったのはその次のことだった。魔族が言っていたセリフを思い出してみると、明らかにひとりごとではないと気づいたのだ。
「ふんっ、命拾いしたな……」
そう、魔族は呟くと黒い球体とともにさっきまでのことが一切なかったんじゃないかと思えるくらいにあっけなく消えてしまった。
「なん、だったんだ……?」
それに、あの魔族はまるで誰かと話しているようだった。それに、僕に対する態度とはまるで反対な態度だったことから、その話していたのは上の階級にいる誰かだと言うことは分かる。
もしかしたら、そいつが魔王……?
たった一人残されたこの場所で、僕はあまりにも疑問が多く残ったまま魔族が消えてしまい、すごいどう表しようもないような、そんな気分なままそんなことを考えていた。
「……まぁ、今はそんなことよりも他の人たちの手伝いに行かないと行けないよね」
そして、今は魔族がいなくなっただけでそれ以外はなにも変わっていないことに気づき、すぐ援護へ向かった。
魔族との戦いで、かなりの体力を消耗していたが、幸いにも魔族以外の人たちは言葉を選ばずに言えば弱かったので、ぎりぎりになったというか、むしろ力を抑えないといけない羽目にまでなった。
こうして、なんとか一時の平和をなんとか取り戻すことができた。この出来事が起こる前と変わったところといえば、多分僕に心残りができてしまったことぐらいなのだろう。
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