第62話 千尋くんを救うために【楓目線あり】

「ぅ…………ぅ……」


 僕は、勢いよく壁にぶつかったのにも関わらず、生への執着心の効果のおかげか、なんとか意識を保つことができていた。


 本当に《生への執着心》様様だ。


 ……って、そんなことしている場合じゃない。それにしても、すごい距離飛ばされたわけだし、このまま見逃してくれたりして……。


「グルルルルルルルッ………」


「ははっ、なわけないよなぁ……」


 乾いた声が、誰に届くわけでもなく空に消えていく。


 視界は腫れていたり出血していたりでぼやけて見えないが、かなりの大きさの物体が僕の前には存在していた。そして、唸るような声を出していることからドラゴンで間違いないだろう。


 もう、見つかったのか……。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ドラゴンは目の前に大きな火を作る。これに当たったら、さすがに死んでしまうんだろう。もう、手の尽くしようがない。


「……最後に、命乞いでも」


 でも、もがいてやる。


 死んだ、なんて報告を家族に、楓さんに、みんなに届けたくなんてない。


 《空間操作…空間操作》


 すると、火は少しずつ小さくなっていくのが、うっすらと見て分かった。


 原理は簡単。僕が、悪魔に対してやった逆のことをしているだけだ。


 つまりは、ドラゴンの作った火の玉の周辺から酸素を移動させた訳だ。火は酸素がないと燃えなくなるから。


 とはいえ、空気は気体。すぐに混じってしまう。けど、必然的に火の周辺にある空気の中の酸素の密度は小さくなったわけで、そのため火は弱る。


「……最後の望みだ。《アイテムボックス》……」


 そして僕は……アイテムボックスで悪魔の使ったあのいかにもやばそうな黒い球体を出した。


「……僕より強いやつの技なんだ。僕が攻撃するよりもよっぽどダメージが入るだろう……」


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ドラゴンは、もがき、苦しんでいるようだった。大きい身体を少し震わせている。少なからず、ダメージは入っているようだった。けど……


 ははっ…………無理か。


 すぐに、持ち直してしまった。ドラゴンはどんなものよりもチートな種族なことを、この目で見て実感した。


 終わり……だな……。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 そして、火がぶつけられ…………



 …………………………は?


 なぜか、ぶつけられたのに何も痛くもかゆくもなかった。ドラゴンは脅しでしていた訳でもなさそうで、ドラゴン自体も驚いた様子を見せていた。


 どういうことだ……?


 僕に、そんな力を持ったスキルはない。ということは……なにか外部からのスキルによって僕は攻撃から逃れられたということ……。


 僕はなんとか周りを見渡して、そして見つけた。ただ……見つけた人は驚きの人だった。だって、ここにいるはずのない人だったんだから。











【楓さん目線】


「あれ……ドラゴンが消えた……?」


 私は、思わず頓狂な声を上げてしまっていた。


 困惑、ただその二文字が頭を占領している。


 さっきまで目の前に現れたドラゴンに驚いていたんだけど、でも逃げようと思ったその途端、ドラゴンは消えた。


 いや、違う。


 私がどこかへ移動させられたのだ。私は何もしてないし、まずそんなことができない。そんなことができる人といえば……千尋くんだけ。ということは、今1人でドラゴンと戦っている?


 どこにいけば…………


 

「そうだ、確かパーティの人の居場所はわかるんだっけ。えーっと……」


 よしっ、そう遠くはなかった! これならなにか助けに行けるはず……今まで助けられたんだから!


 はっ……はっ……っ!


 息を切れさせながらも、私は一生懸命に足を動かす。引きこもってばっかりで体力はないけれど、ステータスで能力はある。


 私は走って千尋くんのいるところに向かった。そして、見つけたのは傷だらけの千尋くんだった。しかも、今はドラゴンに追い詰められている……


「……ち、千尋くん……っ!?」


 無我夢中に千尋くんに向かって足を動かそうとした……が、その足を止める。だめだ、私があそこにいっても、なにもできることはない。


 なにか、なにかないの……? 何度も私は千尋くんに助けられた。なら今度は、私が助ける番だ!


 す……《ステータス》!!


名前 高木楓

人間 LV11

HP 16/16

MP 65/65

力  12

耐久 14

敏捷 12

器用 13

魔力 0

SP 88

JP 16


職業

ニートLv3

オタクLv7


ユニークスキル

ログインボーナス、ポーション作成


スキル

ガチャガチャLv4認識阻害Lv8ストレス耐性Lv3孤独耐性Lv3HP自動回復Lv3MP自動回復Lv3料理Lv1睡眠(快眠)Lv5状態異常…毒Lv5肉体強化Lv1



「な、なにも……ない………」


 倒すどころか、足止めするものでさえ見つからない。今度も、助けてあげられないのかな……。


 なにも……っ。いや、私なら……


 私ならなにかできるはずだ……っ!!


《この地球の管理者が高木楓の願いを了承しました。大量の経験値を獲得しました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが11から12に上がりました。》


 ……え? ど、どういうこと? なにもしてないのに……なんのモンスターも倒していないのに……


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが12から13に上がりました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが13から14に上がりました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが14から15に上がりました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが15から16に上がりました。》



《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが18から19に上がりました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが19から20に上がりました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが20から21に上がりました。》


《経験値が一定に達しました。》

《高木楓のレベルが21から22に上がりました。》



 何かよく分からない状況が起きている……。けど、誰かが私になにかをくれたのだけは分かる! その誰かは、何か勝てる寸法があって、この力を渡したのかもしれない。それなら、それを見つけ出して……千尋くんを救う!










『ボクが渡した力で、この危険をどう潜り抜けていくのか……。君たちは、果たしてボクの見込み通りの人間だったのか……それとも……』


 その状況を、そんな状況に見合わない満面の笑顔で見ている者は、『どこか』で、誰に届くわけもなく小さくそう呟いた。










※なぜ高木楓のスキルポイントが88になっているのか。

ログインボーナスで、100ポイントゲットをすることができた。そして、何ポイントか使った結果。

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