第61話 ドラゴンの襲来

「グキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


「………………っ!」


 神様は……僕たちに試験を与えるかのように、こっちにドラゴンを寄越してきやがったんだ。


 それも、ワイバーンなんて比べ物にならないくらい大きな。ワイバーンがトカゲに見えるくらいに強い……そんなドラゴンが。


 神様は……鬼畜だよ……。


 僕は、僕たちに対しての慈悲なんて存在しない、そんな無慈悲なドラゴンを見ながら……苦し紛れにそう呟いた。


「………どうする」


 どうする、どうする、どうする? どうすればみんなを助けることができる? どうすれば僕が生きていられる? どうすれば……


 一生懸命、頭の中を回転させて、自分の持っているスキルの組み合わせを考えてみる。……も。


 ……ない。みんなを助けて、僕も生きて、そんな方法、考える限りありえない。そんなハッピーエンドなんてどう考えてもでてこない。奇跡でも起きないかぎり。


 ハッピーエンドは、そうそう起こることのない奇跡でしか作れない。


 僕が自力で勝つことは……不可能だ。


 それなら……


 僕は、ありったけのマジックポイントを消費する。そして、僕は……使った。


「《転移……対象はここにいる人たちみんな》!」


 場所は日本のどこか安全なところへ……!


 ヒュンッ……


「……よしっ、とりあえず一時的にだけど、これでみんなは助かる。なんとか頑張るか」


 ドッと力の抜ける感覚を感じながら、僕はそう呟く。やはり対象の人数が多いと、かなりマジックポイントを消費するらしい。


 ……ドラゴンはいつの間にか現れていた。


 それは、とんでもなく速く移動できるのか転移を使うことができるのか。少なくとも、どちらかであることを示している。でも、転移して逃げたみんなのところへ行こうとしていないことから、ものすごく速く移動できるの方が正しそう。


 だから……逃げるのは実質不可能なわけだ。


「……あっ、そうだ。マジックポイントを回復するか。マジックポーションを買ってくれない?」


《ポイント、勝手に使わせてもらいますよ。『ネットショップ』マジックポーション……っと。》


 マジックポーションは、ネットショップのレベルが上がったことによって追加された商品。マジックポイントを一定の分だけ回復することができる。


 ちなみに、僕の家を出てからここにくるまで旅をしているときに気付いた。といっても、その時は結構高かったから買えなかったんだけどね。


 でも、スタンピードでモンスターを倒しまくった今では十分に足りている。もう一本ぎりぎり買えるから、一回使い切っても問題はないだろう。


《どうぞ。》


 ナビゲーターのそんな声と共に、何もなかったはずの空間から緑色の液体の入った瓶のようなものが現れる。


 ありがとう、と礼をしながらそこへ手をのばすと、僕はすぐにそれを飲み干した。


「ごくっ……ごくっ……。ふぅ、じゃあ行くか」


 奇跡でも起きない限り、死ぬことは確定しているんだし、やれるだけやってみますか。


 それにしても、不思議だ。今の僕は、どうしてか死ぬことを恐れていないように感じる。死は怖いもの、だったはずなのに。


 どうして? 生への執着心の力なんだろうか? 生を望んだ末に、死ぬことへの恐れが消えてしまったとか……。まぁ、すくんでしまうことがなくなるんなら良かった。


「最初から全力で行くか……っ!《気配遮断》《潜伏》《俊足》《逃げ足》《空間操作…重力操作》《肉体強化》《重量軽化》」


 そして……


「《鬼化》」


 ふぅ、と深呼吸すると、そう呟く。


 ぐ……ぐぁぁぁああああ…………あ…あぅぅああああああああ………


 痛、い……痛……い……


 どんどんマジックポイントが吸い取られていくような感覚を覚える。そして、そのたびに僕の力が膨れ上がっていく感じも。そのたびに成長痛のような痛みがあるけど、力を欲している今、我慢する他ない。


 はぁ…………はぁ…………っ。


 もう収まった頃、僕の身体から、目に見えるほどの変な赤い気のようなものが出ていることが分かった。そして、今までの何倍も強くなっているのが分かる。


「……っし。これならなんとかいけ……ないとは思うけど。でも、頑張ってみるか」


 目を閉じて一旦身体を落ち着かせたあと、僕は、ドラゴンの近くまで気配を遮断しながら向かった。のだけど……


「グキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ば、バレた……!? 悪魔のときよりも確実に探知するのが早い。……不利な状況でさらにすごい強いモンスターと戦うなんて、やっぱり僕はついてないなぁ……。


 となると、幻術も使えないってことか。体術だって、身体の大きさからしてドラゴン相手では対してダメージにはならないだろうし……


「グキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「ちょ…………」


 おいおいおいおい!! なんだよ、あの火の玉!  


 でかすぎるだろ……生活魔法と空間操作のスキルで作ったあの火よりも何倍もある……っ!?


 熱耐性とか色々とっているからいいけど、それにも限界ってもんがあるんだよ!?


 くっ……こうなったら……っ。


《アイテムボックス》《体術…受け身》《空間操作…重力操作》



 僕は、アイテムボックスでできるだけドラゴンの火を回収することにした。そして、体術でできるだけ受け身をとると、空間操作の重力操作を使い、なんとか直撃をまのがれた。


 ただ、受け身をとったって直撃をまのがれたって火を減らしたって……


 ドラゴンの火は強大すぎる。僕は、とんでもない距離を飛ばされ、1つの家の壁に埋まるようにして止まった。

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