第57話 僕の家族
「じゃあ、そろそろ行く?」
「そうだね」
「じゃあね。楓と青柳くん。次はどこにいくつもりなのかい?」
「えーっと、僕の家の方に行くつもりです。このモンスターが現れるようになってから家族に会ってないですから」
「そうなのね。そうだ、これをご家族に渡してくれないかな?」
そう言って、楓さんのお母さんが僕に渡してくれたのは、ここ名物であろうお菓子が入った袋だった。
一応食べ物を分けてあげたとはいえ、食料には限界があるはずだ。なのに、お菓子をくれたことに驚いていた。
「え……いいんですか? 食べ物が足りなくなるとかなったら……」
「大丈夫ですよ。青柳くんには本当にお世話になったから。夫を助けてくれたり、子供たちと遊んでくれたり、この家に結界を張ってくれたり。だから、いいのよ」
「……あ、ありがとうございます……!」
そして、その後もちょっとした話をして、もう昼前となった頃、さすがに話しすぎたということで出発することにした。
で、着いた。
ん? その旅の内容とかは教えてくれないのかって?
いやいや、なにもなかったのに教えろって、流石に無理があるだろう。強いていえば、なにもなかったという出来事があったね。うん。あと、野宿している時に隣で寝ている楓さんが可愛かった。
……なんでもないです。
「着いたー!」
「疲れたー……!」
そして、ようやく着いたようだった。僕は、最初に思ったことは疲れたということなのだけど、その次にふと違和感をおぼえた。
「ん……? なにか違和感が……」
「違和感……?そういえば……千尋くんのこの街にはモンスターがいないような……」
「え? ……本当だ。モンスターがいない。」
なんなんだ、これ? モンスターがいないなんて、そんなことがあるのか? ありえてしまうのか?
…………この世界には、セーフポイントとというか、敵のいない空間があるというのか?
「……とりあえず、僕の家に行ってみるか。もしかしたら、お母さんやお父さんがなにか知っているかもしれないし」
「そ、そうだね。緊張してきたぁ……」
「まぁ、あんまり緊張しなくてもいいと思うよ。普通に優しいから」
「うんっ!」
そんなふうに話しながら、僕と楓さんは僕の家へ向かった。向かう途中も、あまりに人が少ない。でも、探知をしてみたらきちんと家の中には人がいるみたいなので、ちょっと不思議。
「ただいまー」
「え…えーっと、お邪魔します」
「あら、千尋、おかえりなさい。凛が来ているわよ」
「おっ、本当に? 久しぶりだな。っていうか、お母さんに会うのも久しぶりなんだけど」
「そうね、高校1年生になってから会ってないからね。……で、気になったことがあるんだけど、そちらの方は?」
「あっ、同じアパートに住んでいた高木楓です」
「あら、楓ちゃんね。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……!」
お母さんは、相変わらずあんまり仲の良くない人に対しても、こんな感じで接するんだな。
「じゃあ、玄関で話すのもなんだし、入ってきて」
そして、家の中に入った。久しぶりに見た風景や、昔に僕が使っていた道具などを見るたびに、そのころのエピソードを思い出す。よくあるよね。片付けをしているときに思い出の品が見つかって片付けが進まないっていうやつ。
………あれ、違う?
その後、手を洗ったり用意をしたりしてリビングの方へ向かった。
「あっ、千尋じゃん! 久しぶりだね! もう何年ぶりになるかな?」
「久しぶり。だけど、何年ぶりとか……1年も経っていないんだけどね。高校1年生になったときにあっちに移ったんだから。」
「あっ、そうだったね。」
テヘヘ、と可愛らしく笑みを浮かべる凛。やっぱり変わっていない、相変わらずのドジっ子に、懐かしささえ抱いていた。
その後、ちょうどついたのが昼頃で昼ごはんを用意していることだったので、僕と楓さんはみんなと一緒に食べることにした。
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