第46話 お父さんの謎
「消えた……って、どういうことなのか、教えてもらってもいいですか?」
「……えぇ」
緊迫感で満たされたこの空間の中、息の詰まりそうな声でそう答える。
「昨日のことなのだけど……」
……き、昨日?
まさかそんなにも最近のことだとは思わず、ツッコミかけた。だめだ、真面目な話なんだ、こちらも真剣に聞かないと。
「昨日、子どもたちが暇だ暇だって、騒ぎ始めたの。今までは状況を考えてくれたのか、良い子にしてくれていたけど、それももうさすがに我慢の限界らしかったの……」
と、言葉を発してから、一息ついて、再び話し始める。
「とはいえ、こんな世界になって、やっぱり子供たちを外に出すわけには行かないと思ったの。だから、夫が何か家で遊べそうな物を探しに、蔵の方へ行くことにしたの」
……まぁ、その考えは正しい。
けれど、お母さんは初めに消えたと言っていたということは、その考えが仇になってしまったということなんだろう。
「そしたら……いつになっても帰ってこなくて。蔵の方に行ってみたら……いなかったの。夫は、姿を消していたの」
「……そ、そんな……」
「…………」
とりあえず……死んだかどうかは不明のよう。
死んだとは決まっていないだけでもまだ安心……とは、やはり言い切れない。消えたとなると……楓さんのお父さんになにかあったに違いない。
死という選択肢は選びたくないのに……可能性が1番高いものは、やっぱり死なんだろう。
「………っ」
……そうだ、それなら生きているという証拠を見つければいいんだ。そうすれば、楓さんのお父さんは見当たらなくても、楓さんのお母さんに希望を与えることができる。
生きている証拠。一番でてきそうなところといえば、やっぱり……蔵、だよな。
「……すみません、お母さん。その、蔵の方に行ってみてもいいですかね?」
「えぇ、良いけど……。でも、やっぱり心配なのよね。……絶対に消えたりしないでね」
「……はい、もちろん」
そして、少しだけお父さんについての外見などの情報を教えてもらうと、楓さんとふたりで蔵の方に行ってみることにした。
ガラガラガラガラ……、と音を立てながら蔵の大きな扉を開ける。
「……ゴホッゴホッ。なんか、こういっちゃ悪いけど、汚れてるね」
「だねぇ。まぁ、必要な物自体は家の方に置いてあるし、蔵は普段から使うものでもないからね」
「そうなんだ。……あっ、じゃあ、楓さんのお父さんの手がかりを見つけたら教えてね。あと、何かわからないものには近づかないで」
「うん、分かった」
そして、僕たちは二手に分かれて、蔵の中を見回った。
まず見つかったのは、怪しそうな壺に、怪しそうなアクセサリー。
楓さんに聞いたところ、壺の方はこの蔵には幽霊が憑いているとある人に言われて、それを不安に思ったお父さんが買ったそう。
アクセサリーの方も、これは絶対に効くとかある人に言われて、それを信じたお父さんが買わされたそう。
怪しいには怪しいけど、証拠になりそうなものは、1つたりとも見つからない。
けれど、得たものが0と言われればまた違う。お父さんは優しくて、素直な人なんだ。
子供たちのために率先して遊べそうなものを蔵に探しに来たというらしいし、壺やアクセサリーの話なんかを聞いていて、そんな印象を受けた。
……それは、悪い言い方で言えば、騙されやすい人らしい。優しい、だからこそ、人を簡単に信じてしまうようだ。
となると、誰か人に誘拐されたのか? でも、こんな世の中で犯罪を働く意味なんてあるのか?
……それとも、モンスター? ……いや、それはおかしい。まず見た目から違うわけだから、さすがに話を聞くどころじゃなさそうだ。
…………いや、待て。
人形のモンスターならどうなる? 人形のモンスターによって、お父さんはなにかをさせられてどこかへ消えてしまった、という可能性もあるんじゃないか?
……いや、ないだろ。これは妄想でしかないし、なにより根拠がない。
「……ん?」
なんて考えていると、遠くから困惑したような楓さんの声が聞こえてくる。
「何、どうかしたの?」
「いや、何だろうと思って。この…………『穴』」
「穴?」
穴って、どういうことだろう? そんな疑問を抱えながら、僕は楓さんの方へと向かう。
そして、向かった先。楓さんの目の前にあったのは、1つの大きな『穴』。大人が一人入れるかくらいの幅で、先は真っ暗。
奥がどうなっているのか、検討もつかない。
「これは、私がアパートに行く前には無かった気がするんだよね。なんだろう、これ?」
「…………っ!」
……分かったかもしれない。
それは予想でしかないけど……楓さんのお父さんは、なにかを穴に落とした。そして、取ろうとして入った。
……となると、やっぱりお父さんが消えた犯人は、人形のモンスターでなくてもいいということになる。お父さんの目の前にいなくても、物を音を立てながらその穴に落とせばいいだけのことだし、なにかの拍子に物が落ちた、ということも考えられるから。
モンスターが関与している可能性を考えたのだけど、それは低いはずだ。モンスターっていうのは、おそらく知識、思考能力を持たない生物なんだろうし。
「……どうやって作られてるんだろうね」
隣で、楓さんが不思議そうにそう呟く。
……あれ? そういえばそうだ。この穴、どうやって作られたんだ?
こんなにデコボコもない、傷一つ見えないようなきれいな穴で、しかも奥が見えないほど深い穴。それに、作る理由も分からない。
そんな技術……人間には持っていない。もしかしたら、穴掘り師とか変な職業を持っている人がいるかもしれないけど、お父さんは違うらしいし、家族にもいないからね。
…………っ、もしかして……っ!
「………ねぇ、楓さん。一旦作戦会議をしよう」
「……もしかして、この穴の中に入るの?」
「うん」
「…………わかった」
すぐに入ったりなんかしたら、おそらく死んでしまう。そう考えた僕は、一旦作戦会議のために、楓さんのお母さんの待っている家の方へ帰っていったのだった。
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