第13話 となりの住人と話した日
「はぁ……怖かったぁ……。……でもなんでこのアパートの真上を通ったんだろう」
《それは、……分かりません。まぁ、おそらく偶然でしょうね。》
何か意図があってここを通っていたとしたら……少し怖い。ナビゲーターの考えが合っているといいけどな。
……そうだ。そういえば、さっきのワイバーンのこととは別に、違うことで気になったことがあったんだった。
「……そういえば、さっき隣から叫び声のような声が聞こえてきたよね?」
《はい、確かにワイバーンの3度目の叫びのときになにか聞こえてきましたね。》
「もしかしてだけど、隣の人、もしかしてまだ避難していないとか?」
《まぁ、その可能性が高そうですよね。それか、自分からここに居るとなると君と同じ引きこもりの職業を持っていたりしていますかね?》
「ははっ。分かんないよ。でも、気になるから、とりあえずとなりの部屋に行ってみようかな」
《そうしましょうか。まぁ、最近の話し相手は私だけでしたしちょうどいいのではないでしょうか。》
「まぁ、その話し相手も僕のスキルの一種なんだけどね」
なんてツッコんでは苦笑すると、隣人に話を聞きに行こうかとこの部屋から久しぶりに出ることにした。
というか、今になって気づいたんだけど、思えば隣の部屋に行くだけとはいえ、モンスターが存在するようになってから初めての外出だな。
そして、隣の部屋の扉の前まで向かうと、扉の横にある小さなインターホンを押した。すると、その途端に部屋の中からなにか物音が聞こえた。
ガチャ
扉を開けて出てきた人は、10代……だいたい中学生くらいの可愛らしい女性だった。
セミロングの栗色の髪をもち、顔はどこかあどけなさを醸し出している。服装は、すごい柔らかそうで犬の耳のフードがついたルームウェアを着ていて、僕よりも引きこもりらしい外見だった。
……あっ、一応言っておくと、僕が登校のときや外に出たときなどに、鉢合わせすることは一度もなく、見たことがなかった。
「へっ!? ……あ、あぁ、隣の人ですか。……どうしたんですか? 避難とかしないんですか?」
「あ、えーっと……まぁ今のところ。それで……あの、あなたも避難していなかったんですか?」
「そう、ですが。…………とりあえずここで立ち話しても何ですしモンスターが入って来ると、……その、死んでしまう可能性もあるので、良ければ入ってください」
「あ、どうも。ありがとうございます」
そして、部屋に入れさせてくれた。それにしても、部屋に入れる理由が死んでしまうかもしれないというのは、やはりこの世界が変わってしまったんだなということに現実味を帯びさせている。
「ごめん、水道は止まっているし、少ししかないので飲み物、出せないです……。ごめんなさい」
「いや、大丈夫です。自分の命を優先することは、なにより大事だと思いますから」
部屋の中は、あの有名なネット販売会社のマークが印刷されたダンボール箱が積み上げられていた。
外に出ない人だな……。
性格のようなものが、一瞬この部屋を見ただけでわかった。
……そういえば話が途切れてしまった。もう一度気になってしまったことを聞いてみる。
「それでなんですが、あなたはなんで避難をしていなかったんですか?」
「それは、まぁ私の職業を適当に選んじゃっちゃって、ニートになっちゃったからですか……ね。そのせいでいろいろと能力が落ちちゃったからです」
ニート……。ニートか……。
《あ、ちなみにニートの方が多分引きこもりより下がり具合がひどいですよ。》
え、そうなんだ……。引きこもりに続き、そんな職業(?)まであっただなんて……。それに、下がり具合も引きこもりよりひどいだなんて……。
ちょっと、同情……。
なんて、そんなことを考えていると、この沈黙をかき消すようにここの住人が話しかけてきた。
「それで、あなたはどうして?」
「まぁあなたと同じようなものです。職業を選ぶときに引きこもりを選んじゃっちゃって」
「あっ……引きこもり……」
「…………はい」
「そ、そうだったんですね。それより、このステータスがあるっていうことも知っているんですね」
「一応、なんとか。そうだ。まだ、自己紹介をしていませんでしたね」
「そ、そういえば」
「じゃあ、まずは僕から。名前は、青柳千尋と言います。高1……15歳です。で、職業は、さっきも言いましたが引きこもりです」
「高木楓と言います。同じく高1……15です。同級生なんですね。職業は見ての通り、聞いての通りニートです」
そうなんだ、同級生なんだ。……って、えっ!?
えーっと……この見た目だったら絶対に中学生でしょ。いやいやいや、これでぼくと同級生!?
でも、偏見はいけないよな。まずは深呼吸をして落ち着くことができれば大丈夫だろう。深呼吸、深呼吸。
「……ふぅ、はぁ。よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします。とりあえず、同級生って分かったんですし、せっかくなので敬語をやめにしませんか?」
「あ、そうですね。……よろしくお願いします。じゃなかった、よろしく」
「うん、よろしく」
「それで、……えーっと、あなたのこと、なんて呼べばいい?」
「あっ、私のことは楓でいいよ。それで、あなたのことは……千尋くん、でいいかな?」
うわっ……可愛い……。それに見た目の可愛さとか千尋くんという言い方とかにプラスして、犬の耳のついたフードがより幼く可愛く見せてくる。
何が、とは言わないが、目覚めてしまいそうだ。
ゴホンゴホンッ。
「えーっと……呼び捨てはちょっと厳しいから、楓さんでもいいかな?」
「あ、うん。良いよ」
これが、僕のこの世界になって初めてのパーティとなる人との出会いだった。
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