第5話『タピオカリチャレンジ』

 俺のスクール水着を買った後は、3階に行き、アニメ専門ショップ・アニメイクへ。オリオに来たときはここに来るのが定番となっている。

 新刊のラノベコーナーに、俺の好きなラノベ作家の新作が置かれていたので、俺はそれを購入した。

 サクラも中学時代から好きな少女漫画の最新巻を購入。発売されていると知らなかったようで、漫画の新刊コーナーで見つけたときには「最新巻出てる!」と喜んでいた。その姿は小さい頃から変わらずとても可愛い。


「最新巻買えて嬉しいなぁ」


 会計を済ませてアニメイクを出たとき、サクラはそう言った。


「帰ったらさっそく読もうっと」

「俺も読もうかな。もうすぐ読み終わるラノベの後にでも」

「ふふっ。じゃあ、帰ったら読書タイムだね」

「そうだな」


 アニメイクで本を買った日は、必ずといっていいほどに読書する時間を設けている。どちらかの部屋で一緒に読むときもあれば、それぞれの部屋で一人で読むときもある。


「さてと、目的のスクール水着と下着も買えたし、定番のアニメイクにも行ったな。今は……3時半過ぎか。おやつにいい時間だし、何かスイーツを食べたり、冷たいものを飲んだりするか?」

「そうだね! 私、行きたいお店があるの」

「うん、どこだろう?」

「パールヨタカ」

「パールヨタカか」


 ということは、サクラはタピオカドリンクを飲みたいのか。今日は晴れて暑いし、冷たいタピオカドリンクはきっと美味しいだろう。シフト次第では、パールヨタカでバイトしている羽柴に会えるかもしれない。


「分かった。じゃあ、パールヨタカに行こうか」

「うんっ! それで、タピオカチャレンジをまたしたいな。前よりも胸が大きくなって、Dカップになったから成功できるかもしれないし。前は失敗したから、正確にはタピオカリチャレンジだね!」


 今からやる気になっているサクラ。

 タピオカチャレンジというのは、自分の胸の上にカップを置き、両手を使わず胸を支えにしてタピオカドリンクを飲めるかどうかというものだ。2年生になったばかりの頃のデートでサクラはチャレンジしたけど、失敗してしまった。

 当時に比べたら、サクラの胸は大きくなったし、今回は成功するかもしれないな……と、縦ニット越しに存在感を放つサクラの胸を見ながら思った。


「分かった。晴れているし、前と同じくお店の近くの公園でリチャレンジするか」

「うんっ! ……ダイちゃん、覚えているかな。失敗した瞬間を見られたから、いつか成功する瞬間も見届けてほしいって約束したこと」

「覚えているよ。その瞬間が今日になるといいな」

「そうだね。じゃあ、パールヨタカにタピオカドリンクを買いに行こうか」

「ああ」


 俺はサクラと手を繋ぎ、パールヨタカに向かって歩き始める。

 パールヨタカは四鷹駅の北口の近くにある。なので、来たときに利用した四鷹駅の改札横の出入口から、オリオの外へ。

 北口から四鷹駅を出る。夕方に近いから、家を出発したときと比べると、暑さがいくらかマシになっている。

 少し歩いて、パールヨタカに到着。

 お店を覗くと、カウンターで接客している羽柴の姿が見えた。お店の前には多くの人が並んでいて。前回、サクラがタピオカチャレンジをした日よりも長い。並んでいる客層は変わらず若い女性が多いが。俺達は列の最後尾に並んだ。


「今日もパールヨタカは盛況だね」

「そうだな、サクラ。土曜の昼下がりだし、晴れて暑いからね」

「冷たいタピオカドリンクを飲むには最高だよね」

「あと、羽柴が接客しているのもありそうだ」

「それが一番の理由だったりして」


 ふふっ、と楽しそうに笑うサクラ。列に並んでいる人が若い女性中心だから、サクラの言う通りかもしれない。あいつ、金髪の爽やかなイケメンだし。


「彼女さん。メニューをどうぞ!」

「ありがとうございます」


 女性の店員さんから渡されたメニュー表を、サクラは笑顔で受け取った。

 そういえば、前に並んだときも今のような感じで、店員さんがサクラにメニュー表を渡されていたっけ。そのときはまだ付き合っていなかったからか、サクラが恥ずかしそうにしていたのを覚えている。


「私はミルクティーにしようかな。ダイちゃんは何にする?」

「そうだなぁ。俺は……コーヒーにしようかな」

「コーヒーも美味しいよね。コーヒー好きのダイちゃんらしいな」


 サクラは微笑みながらそう言った。

 個人的に美味しいタピオカドリンクはたくさんある。サクラが飲もうと思っているミルクティーも。ただ、コーヒーが好きだから、コーヒー系のタピオカドリンクが一番好きだ。

 列に並び始めてから15分ほどでお店の中に入る。

 俺達に気づいた羽柴は、持ち前の爽やかな笑みを浮かべてこちらに右手を挙げた。そのことにキュンときたのか、何人かの女性客が「きゃあっ」と黄色い声を出していた。羽柴の女性人気は変わらず高いようだ。

 お店に入ってから数分後。俺達の順番になり、羽柴の担当するカウンターへ向かう。


「いらっしゃいませ。今日もデートか?」

「ああ。オリオに行って、水泳の授業で着る水着とかを買っていたんだよ」

「そうだったのか。そういえば、来週から金曜日の体育は水泳の授業になるんだったな」

「うん。授業が始まる直前に買おうって事前に決めていてね。あと、お互いに着るスクール水着を選んだの」

「2人らしいぜ」


 ははっ、と羽柴は声に出して楽しそうに笑う。

 事前に決めた通り、俺はタピオカコーヒー、サクラはタピオカミルクティーを注文する。

 長い列ができるほどだから、羽柴もたくさん接客しているはず。ただ、彼は疲れた様子を全く見せずに俺達の注文したドリンクを用意した。


「お待たせしました。タピオカコーヒーとタピオカミルクティーになります」

「ありがとう、羽柴」

「ありがとう、羽柴君。バイト頑張ってね」

「頑張れよ」

「サンキュー。2人ともまたな」


 俺とサクラは羽柴に手を振って、パールヨタカを後にする。

 お店を出た俺達は、前回のタピオカチャレンジの会場となった近くの広場へと向かう。

 土曜日の夕方なのもあってか、広場には多くの人がいるな。ボールで遊ぶ子供達、ベンチで読書をするお姉さん、日陰に敷かれたレジャーシートでのんびりしている親子連れなど様々だ。

 前回のタピオカチャレンジのときに座ったベンチが空いていたので、俺達はそこに隣同士に座った。


「とりあえず飲もうか、ダイちゃん」

「そうだな。外で15分くらい並んでいたから、体が熱いや」

「私も。じゃあ、ミルクティーいただきます」

「いただきます」


 俺はタピオカコーヒーを一口飲む。苦味がしっかりしているアイスコーヒーと一緒に、甘いタピオカが口の中に入ってくる。苦味の強いコーヒーが好きだから俺好みの味だ。あと、コーヒーの冷たさが体に広がっていく。


「ミルクティー美味しい!」


 サクラはそう言うと、とても爽やかな笑みを浮かべる。そんな彼女を見ていると、美味しいという言葉が心からのものであるとよく分かる。


「良かったね。コーヒーも美味しいよ」

「そっか! 冷たいから、この前ここで飲んだタピオカドリンクよりも美味しいよ」

「気候も変わったからなぁ。冷たいものが美味しい季節になったよな」

「うん!」


 サクラは爽やかな笑顔のまま、タピオカミルクティーを飲んでいく。美味しそうに飲むなぁ。今度はミルクティーにしようかな。あと、ちゅー……っとミルクティーを吸う姿がとても可愛い。


「……よし。半分近く飲んだし、そろそろタピオカリチャレンジしようかな」


 おっ、ついに本題突入か。

 前回のタピオカチャレンジでは、手を離したら、数秒ほどカップが胸の上に乗っていた。しかし、ドリンクを飲もうとする前にカップが胸から落ちてしまい失敗。俺がとっさに掴んだので、ドリンクがこぼれてしまうことはなかった。

 さて、約2ヶ月ぶり2回目となるタピオカチャレンジはどうなるか。


「が、頑張れ、サクラ」

「うん! 頑張るよ、ダイちゃん!」


 かなり気合いの入った返事をするサクラ。失敗した過去があるからだろうか。

 俺はベンチから立ち上がり、サクラの目の前に立つ。そして、サクラの胸の近くまで両手を伸ばす。


「どうしたの、ダイちゃん」

「万が一、失敗したときのことを考えてね。この前みたいにすぐにカップを掴めるように。決して、サクラの胸のキャパシティを信用していないわけじゃないんだ」

「なるほどね。ただ、私の胸を揉もうとしているって勘違いする人もいそうだね」

「……そのときはそのときだ」

「おぉ、かっこいい。もし、勘違いされて警察来たら、私がちゃんと説明するから」

「ありがとう」


 サクラ、頼りになるなぁ。失敗しても大丈夫だとサクラを安心させたいのに、こっちが安心する展開になるとは。このままではいけないな。


「さあ、サクラ。失敗してもカップは受け止めるから、思いっきりリチャレンジしてくれ」

「うん!」


 サクラはそう返事すると、タピオカミルクティーが入ったカップを胸の上に乗せる。今は右手で支えているが、手を離すとどうなるか。


「じゃあ、いくよー」


 そう言い、サクラはカップから右手を離す。

 右手という支えがなくなったからか、カップは少し揺れて、中に入っているミルクティーが小刻みに波打っている。

 前回ならここでカップが胸から落ちるけど、Dカップになった今回は……落ちない。安定感はないけど、落ちないから成功だ。成功である!


「凄いな、サクラ!」

「うん! できてる! できてるよ!」


 大きめの声でそう言うと、サクラは太陽にも負けない明るい笑みを見せる。そして、ストローを咥えてタピオカミルクティーを飲む。


「あぁ、凄く美味しい! 今まで飲んだタピオカドリンクで一番美味しいかも!」

「良かったね、サクラ」

「うん! 成功して凄く嬉しいよ! ダイちゃんに成功した瞬間を見てもらえたし!」


 えへへっ、と柔らかな笑みを浮かべるサクラ。

 チャレンジ成功をした姿を見られて、俺も凄く嬉しい。前回失敗したときの約束を果たせたから。ゴールデンウィークのあたりからほぼ毎日、サクラにバストアップのマッサージをしているから、感慨深い気持ちにもなる。大きくなったねぇ。


「ダイちゃん。チャレンジ初成功の記念と証拠のために写真撮って!」

「分かった」


 俺はスラックスのポケットからスマホを取り出し、胸の上にカップを乗せたまま両手でピースをする嬉しそうなサクラや、手を使わずにタピオカミルクティーを飲むサクラの写真を撮った。


「撮ったよ、サクラ。LIMEで送っておく」

「ありがとう、ダイちゃん」


 そう言い、サクラはようやく右手でカップを掴んだ。

 俺はLIMEでサクラとの個別トークを開き、今撮ったタピオカドリンク成功の写真を2枚送信した。成功の写真を見ると……さっき送ってくれたサクラの下着姿の自撮り写真よりも巨乳な感じがする。タピオカチャレンジは胸がある程度の大きさじゃないと成功しないからだろうか。

 サクラは自分のスマホを見ながら破顔している。きっと、成功写真を見ているのだろう。


「正面から見るとこんな感じなんだね。私、成功するほど胸が大きくなったんだ! 嬉しいなぁ。きっと、ダイちゃんがマッサージとかをしてくれたおかげだよ」

「いえいえ。Dカップになって、タピオカチャレンジも成功して良かったね」

「うん! 春のうちに成功できて嬉しい! これで気持ち良く夏を迎えられるよ!」


 できなかったことができるようになったんだ。サクラがそう言う気持ちは分かる。

 来年以降、この時期になったら、サクラがタピオカチャレンジを初めて成功したことを思い出すんだろうな。


「じゃあ、成功記念に俺のタピオカコーヒーを好きなだけ飲んでいいよ」

「ありがとう! 私のミルクティーも飲んで」

「ありがとう。いただくよ」


 サクラとタピオカドリンクのカップを交換し、俺はミルクティーを一口飲む。タピオカチャレンジをしていたからだろうか。ミルクティーはあまり冷たくなかった。

 好きなだけ飲んでいいと言ったからか、サクラはタピオカコーヒーをゴクゴクと飲んでいる。可愛いな。


「コーヒーはさっぱりしてて美味しいね! ありがとう、ダイちゃん!」

「いえいえ。こちらこそありがとう」


 サクラからコーヒーの入ったカップを返してもらい、コーヒーを一口。

 ミルクティーを飲んだ後だからだろうか。それとも、サクラが口を付けたからだろうか。さっきまでよりもコーヒーが甘く感じられた。

 それからもプールのことやサクラが買った漫画の話をしながらタピオカドリンクを楽しみ、帰路につくのであった。



 気に入ったスクール水着や下着を買ったり、タピオカチャレンジが成功したりしたからだろうか。今日の間はもちろんのこと、翌日になってもサクラはずっと上機嫌が続いた。あと、新しく買った桃色の下着をさっそく着けていて。そんな可愛いサクラのおかげで、俺も週末をとても楽しく過ごせた。

 今年の春はいい形で締めくくることができたのであった。

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