第14話『お化け屋敷-後編-』
サクラと一緒にお化け屋敷を歩いていると、何と幽霊姿の一紗と出会ったのだ。
普段は頭に水色のカチューシャをつけているけど、今日は幽霊らしく白い三角巾をつけている。あと、セクシーさも演出しているのか、谷間もしっかりと見えている。
SNSで話題になっている『美人な幽霊』の正体は一紗かもしれない。とても綺麗で……巨乳だし。
「薄暗いところで大輝君にじっと見られちゃうと、何だか興奮しちゃうわ」
うっとりとした様子で一紗は俺のことを見つめている。随分と血色のいい幽霊だな。
「その声、一紗ちゃんなの?」
「そうよ。驚かせるのが仕事なのだけれど……驚かせてごめんなさい、文香さん」
一紗が謝罪すると、サクラは俺への抱擁を解き、俺の横に立つ。
「本当に一紗ちゃんだ」
「ふふっ。2人ともこんにちは」
いつもの落ち着いた笑顔で一紗が挨拶すると、サクラはほっと胸を撫で下ろす。見た目は幽霊だけど、正体が友達だと分かれば大丈夫なようだ。
「こんにちは。ただ、どうして一紗ちゃんがここにいるの? しかも、幽霊役のスタッフで」
「それは俺も気になってた」
「今日だけなのだけれど、幽霊役の助っ人バイトに来たの。元々、中学時代の友達がバイトをする予定だったのだけれど、昨日から高熱を出しちゃってね。昨日の夜、私に頼んできたの。結構楽しいわ。一日中バイトするから、バイト代が1万円以上出るし。驚かせるのも楽しいし。綺麗だって言ってくれる人もいるし」
「そうか。……その友達、いいバイトを頼んでくれたな」
「ええ!」
嬉しそうに返事すると、一紗は首肯する。一紗に幽霊役は適任じゃないだろうか。
友達から頼まれたバイトでも、1日働いて1万円以上もらえるなら、俺もやってみたいと思える。しかも、楽しめて、お客さんからお褒めの言葉をいただけるのなら、最高のバイトと言えるんじゃないだろうか。
あと、お化け屋敷の幽霊役のバイトって特殊そうだし、一紗に頼んだ友達ってどこから求人情報を手に入れたんだろう。誰かの紹介なのかな。それとも、俺が知らないだけで、ネットで検索すればすぐに見つけられるのだろうか。
「とりあえず、ここまで幽霊役お疲れさん」
「お疲れ様。その幽霊の服装、とても似合ってるよ! 幽霊にしてはセクシーな感じもするけど」
「似合っていると思うよ。一紗の髪は黒くて長いし、そういう服装の雰囲気と合ってる」
「ありがとう。2人にそう言ってもらえて嬉しいわ」
言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる一紗。今まで、お化け屋敷でここまで可愛らしい幽霊役の女性には出会ったことがないな。
「もしかして、昨日の夜に『お化け屋敷がいい』ってメッセージをくれたのは、一紗がバイトをするって決まったからか?」
「その通りよ!」
ドヤ顔でそう言うと、一紗は大きな胸を張る。今の一紗を見ていると、幽霊のコスプレをした一紗にしか見えないな。
「この姿で、大輝君と文香さんと会いたかったからメッセージを送ったの。だから、それが叶ってとても嬉しいわ。あと、さっきは文香さんが驚いてくれて嬉しかった。ちゃんと仕事できているなって」
「声の迫力が凄かったからね。パタパタ、って足音が聞こえたのも怖かったよ……」
「ふふっ。大輝君の後ろに隠れていたものね。かなり怖い思いをさせてしまったのならごめんなさいね」
そう言って、一紗は優しい笑顔でサクラの頭を撫でる。
そういえば、小さい頃……怖すぎて泣いてしまったサクラと和奏姉さんに、座敷童役のお姉さんが頭を撫でてあげたことがあったな。
「い、いいんだよ、気にしないで。一紗ちゃんは幽霊として驚かせたり、怖がらせたりするのがお仕事なんだから。ちなみに、一紗ちゃんの演じる幽霊には何か設定があったりするの?」
「100年以上前に、この校舎で自殺した女子生徒の設定よ。その子は男子よりも女子の方が好きなの。告白したらフラれて、女の子好きであることを周りの生徒から非難されて。苦悩の果てに首つり自殺したことになってる」
「……なかなか凝った設定なんだね」
サクラは苦笑い。
一紗も女性好きの幽霊の設定なのか。以前、一紗は可愛らしい女の子が好きだと公言しているから、役に合っているかな。
あと、このお化け屋敷に出てくる幽霊ってみんな女性好きだったりして。
「もしかしたら、話題になっている美人の幽霊さんって一紗ちゃんのことかも」
「それは俺も思った」
「美人の幽霊?」
きょとんとする一紗。首を少し傾げるところが可愛らしい。
「Tubutterで、このお化け屋敷に美人の幽霊さんがいるっていうツイートがいくつもあって。そのうちの一つがたくさん拡散されてて。その影響かお化け屋敷では初めて並んだもん」
「俺も初めてだったよ。……眩しいかもしれないけど」
俺はスマホを取り出し、例のたくさん拡散されているツイートを表示して一紗に見せる。
「……本当ね。1000近くリツイートされているわ。そんなことになっているのね。私もパークランドのお化け屋敷には並んだことないわね。もし、私のこの姿でお化け屋敷が盛況になる役に立てたのなら嬉しいわ」
そう言って嬉しそうに笑う一紗の顔はとても美しい。これなら話題になって、いつになく行列ができるのも納得だ。
「ただ、美人の幽霊さんだったって楽しそうに話す男の人達もいたよ。これまで、変に絡まれたりしなかった?」
「綺麗だとか胸大きいって言われたくらいね。絡まれたり、襲われたりはしていないわ。近くに防犯カメラがいくつもあるし、そういう事態になったら、他のスタッフがすぐに駆けつけてくれることになってる」
一紗は指さしで、防犯カメラの場所をいくつも教えてくれる。これなら、一紗に何かあったら、すぐに気づいてスタッフの方が来てくれるか。
「ということは、今の俺達の様子も見ていそうだな。もし、このことで誰かに怒られたらごめんな」
「いいのよ。私から2人のことを呼んだんだし。気にしないで。……それにしても、薄暗い中で大輝君が目の前にいると本当にドキドキするわ。もし、文香さんが恋人じゃなかったら……何かしちゃっていたかも」
妖艶な笑みを浮かべながらそう言う一紗。本当に綺麗で魅力的な幽霊さんだ。
ただ、一紗だったら、もし男性に絡まれたとしても、難なく撃退できそうな気がする。もしくは、拘束してパークランドのスタッフさんや警察に身柄を引き渡しそうだ。
「ただ、私は今……女の子好きの幽霊としてここにいる。だから、文香さんのことを抱きしめましょう」
一紗はサクラのことをぎゅっと抱きしめる。
「あぁ……文香さん、温かくていい匂い」
「一紗ちゃんも温かくていい匂いがするよ。あと、おっぱいやわらかくて気持ちいい……」
「ふふっ。こんなことをするのは女の子の友人限定よ」
一紗もサクラも凄く幸せそうだ。
まさか、お化け屋敷の中でサクラの柔らかな笑顔を見られるとは思わなかった。シュールな光景だけど。
『きゃああっ!』
後方から女性達の叫び声が聞こえてくる。さっきの血まみれ男子高校生の幽霊に驚いたのだろうか。あの幽霊、女好きだし。
「一紗ちゃんと話していたから、ここがお化け屋敷だって忘れていたよ。一紗ちゃん、バイト頑張ってね」
「頑張れよ」
「ありがとう。この姿で2人と会えて良かったわ。遊園地デート楽しんで!」
「うん! じゃあ……また明日学校でね」
「また明日な」
「ええ、また明日」
一紗に手を振って、俺とサクラは順路を進み始める。
「まさか、ここで一紗ちゃんと会えるなんて」
「俺もそれには驚いたよ」
「私もだよ。一紗ちゃんのおかげで元気をもらえたし、ここからはお化けが出てきても大丈夫だと思う!」
とてもやる気に満ちた表情になっているサクラ。それだけ、一紗と会えたのが嬉しかったのだろう。
「あらあら、可愛らしい女の子達。私と天国でラブラブした生活を送りましょー!」
『きゃあああっ!』
一紗、さっそく幽霊として頑張っているみたいだな。
それからも、数々のお化けが俺達を驚かしに目の前に現れる。
一紗の次に出てきたお化けでは、サクラは「きゃっ」と小さく声を漏らし、俺の着ているジャケットの裾を掴む程度だった。だけど、それ以降は、
「きゃあああっ!」
俺の腕をしがみつきながら、お化けが出る度に叫んでいたのであった。
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