第11話『GoTo遊園地』
4月29日、水曜日。
今日は祝日で学校がお休み。今日からゴールデンウィークに突入する。
俺はサクラと東京パークランドで1日デート。この予定が決まってから、学校生活やバイトの時間があっという間に過ぎていった気がする。初めての放課後デートに誘われたときにも思ったけど、楽しみな予定があるって凄いな。
午前8時55分。
俺はサクラとの待ち合わせ場所である彼女の部屋の前に立つ。一緒に住み始めてから、サクラとお出かけするときの待ち合わせはここが恒例となった。
俺にとって、東京パークランドに行くのは4年ぶり。サクラは去年、小泉さんなどの友達と行ったことがあるとのこと。一日中晴れる予報だから、たっぷりと楽しめそうだ。
――ガチャ。
サクラの部屋の扉が開くと、中から膝丈くらいの長さの桃色のスカートに、長袖の白い肩開きブラウス姿のサクラが姿を現した。これまでのデートやお出かけと同じく、シルバーのネックレスを付け、赤いショルダーバッグをたすき掛けしている。
「お待たせ、ダイちゃん。待った?」
「ううん、そんなことないよ。今日の服装もよく似合ってる。可愛い」
「ありがとう」
「あと、肩開きの服って……いいな。サクラの綺麗な肩が見えるからかな」
「ふふっ、肩が見えるって。そう言ってくれると、このブラウスにして良かったって思えるよ。今日は晴れて暖かくなるみたいだし、こういう服の方が涼しげでいいかなって。ありがとう」
嬉しそうな様子でそう言うと、サクラはその場でクルッと一回転。そのことでスカートがふんわりと広がる。下着が見えてしまうことはなかったけど、綺麗な太ももが見えたり、甘い匂いが香ってきたりしたことにドキッとした。
「ダイちゃんは安心安定のジャケット姿だね。かっこいいよ!」
「ありがとう。晴れて暖かくなるから、今日のジャケットは薄手なんだ。デートだし、サクラがかっこいいって言ってくれて嬉しいよ」
その嬉しさと、サクラがとても可愛いこともあり、俺はサクラにキスする。
突然のキスだからか、唇が触れた瞬間、サクラの体がピクッとなったのが分かった。
2、3秒ほどで唇を離すと、サクラはクスッと笑う。
「いきなりだったからビックリしちゃったよ~」
「気持ちが高ぶってきてさ」
「ふふっ、なるほどね。いい1日になりそうな気がする。ダイちゃん。徹さんからもらった招待券はちゃんと持った?」
「もちろんさ。何度も確認した。サクラこそちゃんと持ったか?」
「ちゃーんと持ったよ!」
ドヤ顔で言うサクラ。そういう態度を取られると、逆に不安になる。昔から、サクラはあまり忘れ物はしないタイプだけど。万が一、サクラが忘れてしまったら、俺が1日フリーパス券を買うか。つい先日、先月分のバイト代が入って、いくらか下ろしてきたから。
「さあ、行こうか! ダイちゃん!」
「そうだな」
サクラの方から手を繋いで、俺達はゆっくりと歩き出す。
家を出る前に両親に一声かける。2人は高校時代のデートで観た映画のDVDをいくつか鑑賞するらしい。お昼ご飯は駅周辺にあるパスタ屋に食べに行くのだとか。母さん曰く、自分達も高校生気分を味わいたいそうだ。
玄関を出ると、温かな春の日差しが降り注ぐ。穏やかに吹く風が涼しくて心地いい。絶好のデート日和だ。
「日差しも温かくて、気候も爽やかで。絶好のデート日和で遊園地日和だね!」
「俺も同じことを思った。天候に恵まれたな」
「そうだね。……ところで、ダイちゃんはどのアトラクションに行きたいって考えてる?」
「パークランドは4年ぶりだからなぁ。公式サイトを見たら、新しいアトラクションとかバージョンアップしているアトラクションもあるんだな。ただ、やっぱり……ジェットコースターとかお化け屋敷とか、観覧車とか定番のやつには行きたいな」
「定番はいいよね。そういえば、青葉ちゃん達も定番のアトラクションがいいって言っていたよね」
「ああ」
先週の金曜日の昼休みに、俺達が東京パークランドへデートすると伝えると、小泉さん達も行ったことがあると分かり、オススメのアトラクションを教えてくれたのだ。ちなみに、小泉さんはジェットコースター、一紗はお化け屋敷、羽柴はコーヒーカップ。あと、小泉さんは去年、サクラと一緒に行ったことがあるとのこと。
バイトの休憩中に杏奈にも話し、彼女は「観覧車でゆっくりするのもいいですよね」と言っていた。
和奏姉さんにも、サクラと一緒にパークランドへ行くとメッセージで伝えたら、『絶叫系がいいよね』と言っていた。
あと、よほど好きなのか、一紗は昨日の夜にも『お化け屋敷はオススメよ!』とメッセージをくれた。
「サクラは行きたいアトラクションはあるか?」
「私も定番のアトラクションには行きたいって思ってる。ダイちゃんとひさしぶりに行くからね。あとは絶叫系に行きたい!」
「ははっ、サクラの絶叫好きは変わらないんだな」
小さい頃から、サクラは絶叫系のアトラクションが大好きなのだ。和奏姉さんも大好きなので、昔は2人と一緒に絶叫系に付き合わされた。
俺は元々、絶叫系のアトラクションは得意じゃなかったけど、2人に連れ回されたおかげで強くなった。ただ、絶叫マシンは何年も乗っていないので、以前よりも弱くなっているかもしれない。
「あっ、今……ひさしぶりだから、絶叫系が弱くなっているかもって思ったでしょ」
「……ご名答」
「ちょっと顔色が悪くなったもん」
「マジか」
この前の杏奈と羽柴の一件で、感情が変に顔に出さないように心がけていたんだけど。それはなかなか難しそうだ。
「弱くなったかどうかは、実際に乗ってみないと分からない。必ず一度は絶叫系に行こうぜ」
「そうだね。怖くなったら私に頼ってね」
明るく言って、サクラは自分の胸をポンと叩く。
小さい頃、絶叫系に乗って気分が悪くなった俺にサクラは肩を貸してくれたり、ベンチで膝枕をしてくれたりしたっけ。頼りになる人が恋人になったなぁと思う。
東京パークランドの最寄り駅は清王パークランド前駅。四鷹駅からは、東京中央線と私鉄の
四鷹駅から東京中央線に乗り、隣の
「座れて良かったね、ダイちゃん」
「ああ。吉正寺から乗り換えの駅までは10分くらいだけど、普段電車に乗らないから座れるのは大きいよな」
サクラと一緒だから、座れなくてもあっという間に過ぎそうだ。
「そうだね。何度も乗り換えて、数十分も電車に乗ると、ちょっとした小旅行だよね。遠いところに行く感じ」
「その感覚分かるなぁ。電車に乗ることが普段ないことだし。徒歩通学の人あるあるかもしれない。一紗や小泉さんとか、少しの時間でも通学で電車に乗っていると、違う感覚なのかもな」
「そうかもしれないね」
この前、一紗は本を読んでいたら時間を忘れて、1時間くらい電車に乗り続けていたと行っていた。電車の中で楽しむ術があると、数十分でもそんなに遠くに行く感覚にはならないのかもしれない。
サクラは正面にある車窓の景色をじっと眺めている。微笑む彼女の横顔はとても綺麗で、見惚れてしまう。
「……あっ、ごめんねダイちゃん。滅多に乗らない路線だから、外の景色に見入っちゃって」
サクラのその言葉に、俺は首を横に振る。
「気にしないでいいよ。俺も初めて行く場所の景色とか、たまにじーっと眺めることがあるし。そういえば、昔から一緒に出かけると、車窓の景色を黙って眺めることがあるよな」
「あるある。知らない街並みを見ると、旅行とかお出かけしているんだなって実感できて。あと、海や湖も眺めることが多かったなぁ」
「海はもちろんだけど、四鷹周辺には湖もないからな」
だから、俺も旅行とかで海や湖の側を通るときは、景色を眺めることが多い。立派な川に架かる橋を渡るときにも見るかな。
「もちろん、移動中に誰かと話すのも好きだけど」
「隣同士に座って喋ることが多かったよな」
「うん。あと、外の景色じゃないけど、旅行から帰ってくるとき、車の中でぐっすり寝てるダイちゃんの顔もよく見てた。寝顔、可愛かったな」
そのときのことを思い出しているのか、サクラは優しい笑顔になっている。
旅行から帰るとき、車の中で眠ってしまうことが何度もあった。たまに、目を覚ますとサクラから「ぐっすり寝てたねぇ」と言うこともあったな。何年も前のことだけど、ちょっと照れくさい気持ちになる。
「俺だって見たことあるぞ。旅行からの帰りの途中に、サクラがぐっすり寝ていた顔。寝言で俺の名前を呟いたのが凄く可愛くて、眠気が吹っ飛んだこともあった。小学校の2、3年生くらいの頃だったかな」
「えっ、そうだったの? ……小さい頃のことでも、何だか照れちゃうね」
そう言うサクラの頬はほんのりと赤くなっていた。もちろん、今のサクラの顔もとても可愛らしい。
「さっき、俺も同じような気持ちを抱いたよ」
「……そうだったんだ」
呟くようにして言うと、サクラは俺の目を見ながら口角を上げた。
それからもサクラと話が盛り上がり、乗り換えをする駅で危うく降り損ねそうになるのであった。
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