第7話『帰省の報せ-ゴールデンウィーク編-』
午後5時半過ぎ。
サクラと一緒に家に帰ると、ちょうど母さんが夕ご飯の下準備を始めるところだった。今日の夕ご飯のメニューは回鍋肉とのこと。サクラの申し出により、彼女は準備を手伝うことに。
俺は自分の部屋に戻り、金曜日にある英単語テストの勉強をする。副教材の英単語帳を開き、テスト範囲となっている単語を覚え始める。英語は受験のときはもちろんだけど、両親や和奏姉さん曰く、大学でも使うことが多いらしい。だから、テストをいい機会に、今のうちから英単語をしっかりと身につけようと心がけている。
英単語のテスト勉強を始めてから10分ほど経ったとき、
――プルルッ。
勉強机に置いてあるスマホが鳴る。
確認すると……『和奏姉さん』から電話がかかってきてる。普段はLIMEというSNSアプリでメッセージを送り合っているのに。何かあったんじゃないかと緊張する。そんな気持ちを抱きつつ通話に出る。
「もしもし」
『もしもし。今、話しても大丈夫?』
「いいよ。どうしたんだ? いつになく電話してきて」
『不安にさせちゃったかな? もしそうだったならごめん。実は今、バイトの休憩中でね。ゴールデンウィークまでのシフト希望を書いているの』
「そうなのか。とりあえず、ここまでバイトお疲れ。俺も月曜のバイトで連休までのシフト希望を出したよ」
『そうなんだ! ちなみに、5月の連休中はいつシフトに入るって希望を出した? お姉ちゃん、5月の5連休中にそっちへ帰省しようと思っていて。参考までに訊きたいの』
「そうか。分かった」
去年のゴールデンウィークは帰省しなかったし、春休みに帰省したばかりだ。だから、今年のゴールデンウィークに帰省してくる確率は低いと思っていた。
スマホのカレンダーアプリにシフト希望をメモしてある。見てみると……今年の5月の5連休は2日から6日か。その間にシフト希望を出したのは、
「2日と4日。それぞれ昼から夕方まで希望を出してる。今まで、希望を出した日時はほとんど通ったから、きっとその通りにバイトすると思う」
『了解。大輝は2日と4日ね。店長から5連休中2日出てくれると嬉しいって言われていてね。2日と6日にバイトを入れようかなって思っていたの。2日は午前中から昼過ぎにシフト入れて、夕方にそっちに行こうかなって。それで、5日の夕方あたりまで帰省しようかなって思っているの』
「そうなんだ。いいんじゃないか。ただ、去年は帰ってこなかったし、今年の春休みに帰省したばかりだから、てっきり次の帰省は夏休みあたりかと思ったよ」
『夏休みにも帰省したいと思ってるよ! ただ、恋人になった大輝とフミちゃんの様子を見たいし、一紗ちゃんと杏奈ちゃんにも会ってみたいから。青葉ちゃんや羽柴君とも会えればより嬉しいけど』
「そういうことか」
そういえば、一紗と杏奈とはテレビ電話で話したことがあるだけで、実際に会ったことはないんだ。俺が彼女達と今のような繋がりを持ったのは4月に入ってからだし。
2日の夕方から5日の夕方まで滞在するなら、一紗や杏奈達と会う機会は作れるんじゃないだろうか。
「分かった。一紗や杏奈達には俺とサクラの方から話しておくよ。今のところ、俺はバイト以外に予定は入っていないし、サクラも特に予定は入っていない。5連休か、来週の水曜の祝日に2人で1日かけてデートしたいとは話してるけど」
『ふふっ、仲のよろしいこと。デートするときは思い切り楽しみなさいね』
「ああ」
どこへ行こうかは未だに考え中。ただ、行き先がどこであっても、サクラとのデートを楽しみたい。
『ちなみに、フミちゃんとの進展はどうかなぁ? 一緒に住んでいるし、結構進んでいる可能性もありそうだけど。キスまでしたとは聞いているけどね』
うふふっ……と厭らしい和奏姉さんの笑い声が聞こえる。今、姉さんがどんな顔をしているのか容易に想像できるなぁ。姉として、弟の恋人との進展具合を把握しておきたいのかな。それって普通なのか。それとも、姉さんが特殊なのか。
「まあ……キスは結構してるかな。あとは……付き合い始めた日に、ひさしぶりにお風呂に入ったよ」
『へえ、そうなんだ!』
「まあ、サクラと付き合うことになったって報告したとき、今度帰省したら3人で一緒に入ろうねって言われた影響もある」
『言った言った』
「ひさしぶりだったから、互いに見られたら恥ずかしい部分は隠したりしたけど。緊張したけど、いい時間だった。サクラも気持ちよさそうだったし」
『そうだったんだ。気持ちいいと思えたんだったら良かったんじゃない。フミちゃんと2人で入れたなら、今度お姉ちゃんが帰ってきたときに、一緒に入っても大丈夫だね!』
「そうだな」
もし、3人で入るのが実現したら、何年ぶりになるんだろう。俺とサクラの年齢が二桁になってからは入っていないから、少なくとも6、7年は入っていないのは確定だが。
小さい頃は3人で家の湯船に余裕で入れたけど、高校生や大学生になった今の俺達が入ったらどうなるか。
『そういえば、今、フミちゃんは近くにいるの? いるなら声を聞きたい』
「今は母さんと一緒に夕食の下準備をしているところだ」
『そうなんだ。だったらいいや。そろそろ休憩時間が終わるし。お父さんとお母さん、フミちゃんには5連休中に帰省する予定だってメッセージを入れておくよ』
「きっと喜ぶと思うよ。俺からも伝えておく」
『分かった。じゃあ、またね!』
「ああ。バイト頑張れよ」
『うん! ありがとう! 大輝の声を聞いて、バイトを始めるときよりも元気になってるよ! またね!』
そう言って、和奏姉さんの方から通話を切った。弟の声を聞いて、バイトを始めるときよりも元気になるとは。さすがはブラコン。
英単語の勉強を中断し、俺はサクラと母さんがいる1階のキッチンへと向かう。1階に降りたときに、
「和奏ちゃん、帰ってくるみたいですね!」
「そうね。あの子、今年はゴールデンウィークにも帰ってくるのね。お父さんも嬉しがるんじゃないかしら」
というサクラと母さんの楽しげな会話が聞こえてきた。どうやら、和奏姉さんはさっそく両親とサクラに帰省する予定の旨のメッセージを送ったようだ。
キッチンに行くと、サクラと母さんはそれぞれ自分のスマートフォンを持っていた。
「ダイちゃん! 和奏ちゃんが5連休中に帰ってくるって!」
ワクワクとした様子で話すと、サクラはスマホの画面を見せてくれる。画面にはLIMEでの和奏姉さんとのトークが表示されている。和奏姉さんとまた会えることが嬉しいんだな。そんな彼女の顔を見ると、姉さんと3人でよく遊んでいた頃のサクラのことを思い出す。俺とわだかまりがある期間も、俺のいないところで姉さんといるときは、今のように明るい笑顔を浮かべていたのかもしれない。
「帰ってくるみたいだな。ついさっき、俺に電話がかかってきたんだ。連休中のバイトのシフト希望を出すみたいで。俺のバイトの方はどんな感じなのか訊いてきてさ」
「なるほどね」
「連休中のサクラの予定は今のところまだ決まっていないって和奏姉さんに言ったけど、それで大丈夫だったか? 29日か連休中のどこかで、俺とデートするかもとは言っておいてある」
「うん、それで大丈夫だよ」
ただ、和奏姉さんが予定通りに帰省してくるなら、サクラとのお出かけは29日に行くのが一番いいかもしれない。
「あら。大輝と文香ちゃん、ゴールデンウィークの間にデートする予定なの?」
「はい。行き先とかは全然決まってないんですけどね」
「そうなのね。もし行くなら、思い切り楽しんできなさいね。私も高校時代はお父さんと付き合い始めていたから、ゴールデンウィークになるとデートしていたわ。とても楽しかったなぁ」
そのときのことを思い出しているのか、母さんは「うふふっ」と幸せそうに笑っている。次第に頬が赤くなって、体を左右に揺らし始めた。……当時、どんなデートをしていたんだ? 母さんを見る限り、母さんにとってはとても良かったのだろう。
「あと、和奏姉さんは帰省中に一紗や杏奈達にも会いたいそうだ。2人はまだ実際に会ったことがないからね」
「2人と知り合ったのは、和奏ちゃんが前回帰省した後だもんね」
一紗と出会ったのは今月の初めのことだし、杏奈とも……今のような関係になったのは今月に入ってから。色々なことがあったから、もっと前からの付き合いのように思える。あと、サクラがこの家に引っ越してきてから1ヶ月くらいしか経っていないこともちょっと信じられない。
「みんなには明日、学校で話そうか」
「ああ、そうしよう」
一紗と杏奈は必ず和奏姉さんと会ってくれそうだ。羽柴と小泉さんも、春休みのお花見での様子を思い出す限りでは、予定が空いていれば会いに来てくれるだろう。
今年のゴールデンウィークは今までとは違った連休になりそうだ。
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