エピローグ『キス』

 今日ももちろんサクラと2人で登校。ただ、恋人になったので、今までと違って手を繋きながら。

 サクラと手を繋いでいるからか、周りにいる生徒達の中にはこちらを見てくる生徒も。ちょっと恥ずかしいけど、恋人になったんだし、堂々としていよう。


「ダイちゃん、堂々としているね。私、周りからチラチラ見られているから、ちょっと恥ずかしくなってきたよ」

「そうか。サクラと恋人同士になったから、堂々と手を繋いで歩いていられるんだよ。サクラが恥ずかしいなら、手を離してもかまわないけど」

「ううん、大丈夫だよ。ダイちゃんが凄く頼もしく思えるから。それに、ダイちゃんから離れたくないし」

「そうか。俺が守るから安心しろ」

「うんっ」


 嬉しそうな様子で返事をすると、サクラは俺の手を離して腕を絡ませてきた。

 サクラが腕を絡ませたことで、より多くの生徒が見てくるように。ただ、その恥ずかしさよりも、腕を絡ませてくれた嬉しさの方が勝る。


「友達にもダイちゃんと付き合い始めたことを報告したから、今日は学校で色々と言われそう」

「ありそうだな。俺も友達に報告したからなぁ。特にサクラは人気だから、怨嗟や嫉妬の視線を送られたり、嫌みを言われたりしそうだ」

「そんなことがあったら私が叱るから安心して!」

「頼もしいな。ありがとう」


 笑顔で言ってくれるサクラを見て、きっと大丈夫だろうと素直に思える。サクラと同じクラスで本当に良かった。

 学校に到着して、俺達はいつも通りに階段を使い、2年3組の教室がある4階に向かう。前にサクラが言っていたけど、階段を上がるのはいい運動になる。

 4階に到着し、教室が見えたとき、サクラの歩みが止まる。


「ダイちゃんと恋人になってから初めてだし、何だか緊張しちゃうな」

「そうか。俺もちょっと緊張してる。……一緒に入ろう」

「うんっ」


 俺はサクラの手を握り直し、彼女の手を引いて2年3組の教室に入った。


「おっ、速水と桜井が来たぞ!」

「夫婦の登場よ! せーの!」

『おめでとー!』

「おっ」


 クラス委員の2人がそう言うと、教室の中にいる大半の生徒が、俺達に祝福の言葉を言って拍手してくれた。そのことにビックリしてしまい、声が漏れてしまった。

 あと、結婚できない年齢なのに、夫婦とまで言われてしまった。幼馴染だし、2年生になってからはずっと仲がいいからだろうか。

 教室を見てみると、別のクラスにいる俺の友人やサクラの友人もいて。担任の流川先生も。一紗の席の周りにはいつものように羽柴と小泉さんと……杏奈までいる。昨日フラれて、俺がサクラと付き合い始める場面を見ていたけど、笑顔で拍手を送ってくれている。


「友達が私達が付き合ったことをみんなに言ったんだろうね」

「そうだな。みんなありがとう!」

「ありがとね!」


 こんなにも多くの人に祝福されるとは。とても嬉しい気持ちになる。

 俺達はそれぞれの席にスクールバッグを置いて、一紗達のいるところへ向かう。


「文香! おめでとう! ついに付き合えるようになったね!」


 とても嬉しそうにそう言うと、小泉さんはサクラのことを抱きしめる。その様子を見て、小泉さんはずっとサクラの恋を応援してくれていたことが分かる。


「ありがとう、青葉ちゃん」


 サクラも嬉しそうな様子で小泉さんのことを抱きしめた。


「速水君、ちゃんと文香を幸せにしなさいよ!」

「もちろんさ」

「速水、桜井、おめでとう。昨日もメッセージで伝えたけど、やっぱり直接言いたくてさ」

「ありがとう、羽柴」

「ありがとね、羽柴君」


 羽柴は俺の右肩にポンと手を置くと、いつもの爽やかな笑みを見せてくれた。


「速水君と文香ちゃん、おめでとう。2人は幼馴染だし、2年生になってからは凄く仲が良かったものね。2人ともお幸せに。文香ちゃんは親御さんと離れて暮らしているのだから、速水君が支えてあげなさいね」

「分かりました、流川先生」

「ありがとうございます!」


 サクラは俺の家で一緒に暮らしているけど、流川先生の言うように御両親とは離れている。そのことで、これからも不安になる場面はあるかもしれない。俺が支えていかないと。


「2人とも、色々な人に付き合ったことを報告したの?」

「ああ。俺がサクラを好きだって知ってる友人には伝えた」

「私も」

「やっぱり。登校してから、大半の生徒の話題は2人のことで持ちきりだったのよ。それで、クラス委員の2人のアイデアで、あなたたちが登校したら祝福の言葉を言おうって事になったの」

「そういうことだったのか」


 だから、あそこまで声を揃えて「おめでとう!」と言えたわけだ。さっきは嬉しい気持ちだけだったけど、今になって感動が。


「それにしても、杏奈がうちの教室に来ているとは。朝来るのは初めてだよな」

「ええ。だって……大好きな大輝先輩に会いたかったので」


 杏奈らしい可愛い笑顔を見せながらそう言う。大好きとか、会いたかったって言われるとちょっとキュンときてしまう。


「昨日、一紗先輩と家に帰ってから話したんですけど、フラれたのは確かにショックでした。でも、大輝先輩を好きな気持ちはこれっぽっちも消えないんです」

「杏奈さんの部屋で、大輝君が本当に好きなんだって語ったわね」

「ですね。あと、文香先輩が可愛いという話でも盛り上がりました」

「そうだったんだ」


 と、サクラは照れくさそうに言う。


「大輝先輩への想いが心にあると元気でいられる気がして。文香先輩から奪うことはもちろんしません。ただ、大輝先輩への好きな気持ちを持ち続けていてもいいですか?」

「芸能人とか、漫画のキャラを好きでいるような感じよね、杏奈さん」

「まあ、それに近いですね。……どうですか? 大輝先輩」


 杏奈は真剣な表情でそう問いかけてくる。そんな彼女を見ていると、昨日、告白してくれたときのことを思い出す。だからか、頬が温かくなっていく。

 俺を好きな気持ちを持ち続ける……か。俺はかまわないけど、サクラがどう思うか。サクラの方に視線を向けると、彼女は笑顔で俺に頷いてくれる。


「元気になれるとか、勉強やバイトを頑張れるっていう理由だったら俺はかまわないよ」

「ありがとうございます」

「私も杏奈さんと同じように、大輝君を好きな気持ちを持ち続けるわ!」

「分かった」


 一紗の場合は基本的にこれまでと変わらなそうだ。ただ、サクラという恋人ができたので、厭らしいことを言うのが減ったり、ボディータッチをしなくなったりするかもしれない。


「ところで、昨日は……大輝君と文香さんはどんなことをした? 恋人になったのだから、色々と気持ちいいことをしたのかしら? 今後の作品作りの参考にもしたいわ!」


 一紗は興味津々な様子で俺達にそんなことを聞いてくる。さっきの考えは撤回した方がいいな。

 杏奈と小泉さんも目を輝かせ、羽柴や流川先生も微笑みながら俺達のことを見ている。

 昨日のことを思い出すと……恋人になったからこそできることをたくさんした。その中で、キスは数え切れないほどに交わしたし。それらのことを思い出したら、体が熱くなってきた。サクラも同じなのか、彼女の顔が赤くなり始めている。


「まあ、その……2人で楽しい時間を過ごしたよね、ダイちゃん。たくさんキスしたし」

「そうだな。忘れられない恋人初日になったよ」

「私も忘れない初日になったよ! そう思える素敵な時間をダイちゃんと一緒に過ごしました! 周りに生徒がたくさんいるし、今はその答えで許してください……」


 真っ赤な顔になってサクラはそう言った。

 一緒にお風呂に入ったり、サクラのベッドで一緒に寝たり。この6人もしくは流川先生を加えた7人しかいないなら、話しても大丈夫だったのかもしれない。ただ、今はこちらに注目するクラスメイトが多いから。


「サクラもこう言っているし、俺からもこの答えで許してほしい」

「……分かったわ。今のあなた達を見ただけでも、ラブラブな時間を過ごしたのは十分に分かったし」

「あたしもです。ドキドキしちゃいました」

「杏奈さん、可愛いわね」


 一紗はゆっくりと立ち上がると、杏奈のことを後ろから抱きしめもふもふしている。昨日、杏奈の家に行ったときもこうしていたのかな。杏奈は「もう……」と呟きながらも、笑顔のままだし、一紗のことを離そうとはしない。


「ねえ、文香。写真では見たけど、実際に速水君とキスしているところを実際に見てみたいな。……でも、一紗や杏奈ちゃんの前ではそれは酷かな。もし、嫌な気分になったらごめん」

「気にしないでいいのよ。私は2人のキスを見るとドキドキするから」

「あたしも……相手が文香先輩だからですかね。キスを見ても嫌な気持ちにはならないですね。ドキドキもします」


 一紗と杏奈は頬をほんのりと赤くして俺達のことを見ている。


「私はキスしていいよ。もちろんダイちゃん次第だけど。どうかな」


 俺のことをチラチラと見ながらそう問いかけるサクラ。


「……分かった。昨日のことを思い出して、サクラにキスしたいと思っていたところだから。それに、教室にいる大半の生徒が俺達を祝福してくれたけど、俺達から今一度、恋人の関係を示すいい機会だと思う」

「そうだね。じゃあ、教卓のところへ行こう」

「ああ」


 サクラに手を引かれて、俺達は教卓の前に行き、向かい合う形に。

 周りから視線が集まって緊張するけど、サクラのことを見ると好きな気持ちやキスしたい気持ちがどんどん湧き出てくる。


「サクラ、好きだよ」

「私も大好きだよ、ダイちゃん」


 サクラの言葉を聞いて、俺はサクラのことを抱き寄せ、その流れでキスする。

 キスした瞬間、周りからさっき以上に大きく拍手の音が響き、女子による黄色い声や男女問わず「おめでとう」という声が聞こえてきた。それだけ祝福してくれる人が多いのだろう。中には嫉妬したりする人もいると思うけど。

 キスしていると、背中からもサクラの温もりが感じられる。そのことで愛おしさや安心感を覚えて。

 唇を離すと、サクラはとても嬉しそうに俺を見つめてくれる。いつまでもサクラの笑顔を見られますように。そう願って、サクラに再びキスをした。




本編-新年度編- おわり



続編-ゴールデンウィーク編- に続く。

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