17話 わたくしの親友
「ようこそ、いらっしゃいませ、リナ。この前のわたくしのお誕生会以来ですわね?リナも、お元気そうで何よりですわ。」
「ええ、カノン。今日はお茶会にお招きくださり、ありがとうございます。貴方もお元気そうで、安心致しましたわ。」
今日は、リナベル・マチュール様を招いて、お茶会を開いております。お誕生会後に、リナからお手紙を受け取りまして、何かわたくしにご相談したいことがおありだとか。それではと、わたくしの方からお茶会にご招待致しましたのよ。
リナのご家族も明るくて良いお
リナには、年の離れたお姉様と、2つ下の妹さんがいらっしゃいます。ご姉妹仲はとても良いと思いましてよ。ただ、お姉様は妹達を構い倒すようなお方でして、彼女のご両親も娘たちを溺愛されておられますし、リナの妹さんも少々シスコン気味でおありですわ。この国と言いますか…この世界には、シスコンという言葉はございませんけれども、姉妹の意味のシスターとか、コンプレックスとかいう言葉はございますので、もし間違えて発言してしまっても、わたくしがその造語の発案者として、普通に通ってしまいそうですわね。
発案者には…正直に申し上げますと、なりたいとは思っておりませんので、前世の言葉には十分に気を付けたく存じます。前世の記憶保持者と疑われることは、可能性として大いにございますわ。以前のわたくしとは異なり、今はわたくしはその違いにも気が付いておりますから、普段から気をつけていれば大丈夫でしょう。
本日は、リナしかご招待しておりませんし、わたくしのお部屋で2人だけで、お茶会を開いておりますのよ。リナがお話しにくい事情がおありになるご様子でしたので、わたくしのお部屋でしたら誰にも聞かれませんもの。
いつものように、ララがテキパキとお茶会の準備をして、ミリィがお茶の用意をしてくれており、準備が出来次第2人は、わたくしの部屋から退出して行きます。
ミリィは気を利かせて、紅茶のおかわりが出来ますようにと、大目に用意してくれておりました。わたくしも淑女の嗜みとして、紅茶の入れ方を学んでおりますが、まだ5歳になったばかりで危ないと、ララ達メイドが居ない場所での作業は、禁止されておりますのよ。貴族のお嬢様としては、仕方がありませんわ。
この世界には、コンロのようなスイッチ1つで火が着く、という便利な道具はありません。この世界には魔法もないようですし、薪などを用意してマッチで付ける、という作業が必要なのですよ。確かにこれを、5歳児のお嬢様にさせる訳には、参りませんわよね?…火事になったら危ないですし、火傷を負ったりなどを致しましても、前世とは異なって医師も少なく、個人病院しかない上に、きちんとした対処すら出来ないことでしょうね。
この世界にもお医者様はおられますが、前世と同じ感覚でお医者様をイメージしていますと、トンデモナイ目に遭うでしょう。前世とは違い、医師の資格は特には何もございませんし、医学の勉強は独学で行っている状況のようでして。
今日から医師になると、急に医者の仕事が熟せる訳ではございませんので、きちんとお弟子として見習いをする必要があるのです。師匠の許にて勉強をして、その師匠に認められてやっと1人のお医者様として、活躍が可能となりますのよ。
医師はこの国でも少ない存在でして、医師業というものはどの世界でも、難関だと扱われておりますのでしょう。貴族は、大枚をはたいてもらって医師を呼び付けますが、庶民には格安若しくは無料で診る、という医師が殆どですわね。
そういう扱いを致しませんと、庶民には一生…医師に診てもらえないのですわ。
薬は大抵が、高価な物ばかりですからね。
さて、わたくしとリナは、ララ達メイドが去って行きましてからも、暫くは何の問題もない話題…雑談を、しておりましたわ。やっとお話される決心がつかれたようで、わたくしの前のソファに座られたリナは、紅茶を1口飲まれて潤されましてから、漸く本題とばかりに語り始められましたのよ。
「…カノン。今日は、貴方にご相談したいことがございますの。随分迷いましたのですが、このようなお話は…その、親友とでも言える…貴方ぐらいにしか、お話出来ないと…思いましたのよ。」
リナは紅茶のカップを置かれ、改められたように姿勢を正され、お顔をやや下に向けながらも、少々自信なさげに語られるのです。それでも、お顔を上げてわたくしと目を合わせられた後、腹を括られたような表情になられて、語り出されたのでしたのよ。
「…カノンには、信じられないことだと思いますけれども、わたくしには…この世界とは、異なる…記憶が存在しているようなのですわ。カノンは、『前世』を…信じておられますか?」
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「……前世?…リナには、前世が…おありですの?」
リナの言葉には、わたくしも衝撃を受けておりました。トキ様のお話では、前世の転生者はこの国の過去に数名存在していた、とする記録が残っている…というお話でしたが、これは…どういう状況なのでしょうか?…このように身近に、わたくしの親友が…わたくしと同様の転生者だとは。夢でも拝見しております気分ですわ。
「それが…わたくしにも、よく分かりませんのよ…。ただ…カノンのお誕生会に出席した直後からずっと、前世の世界と思われる夢を、度々…見るようになりましたのよ。初めのうちこそ、ただの夢の出来事という風に、軽く考えておりました。奇怪な夢だとは思いましたけれど。つい最近、絶対に夢とは思えない、決定的な夢を…見てしまいましたのよ…。」
リナも…わたくしの状況と、よく似ておりますわね?…しかしながら、リナとは何回もお会いして、何度も一緒に遊んでおりますが、前世の言葉らしきものは今までに、一切なかったような気が致します。わたくしのお誕生会直後からとは、何かの意味がありそうですわ。まさか…と思いますけれども、期待を持ってしまいそうですわね。前世でも…お知り合いのお
「実は…その夢の中で、わたくしの聞き覚えのある名前を呼ばれておりました上に、ふと鏡を覗き込んだそのお顔が、前世のわたくしであると、気が付いてしまいまして…。」
その夢は確かに、リナの『前世』なのでしょうね?…わたくしも、夢の中の鏡を見たことがございましたが、その時は『前世』だとは…気が付きませんでしたわ。
「…リナの前世でのお名前は、何と言われるのですか?…良ければ…わたくしにも教えてくださいませ。」
「…ええ、構いません。前世は、『
「まあ……。愛称が前世と同じなの?…それは、偶然とは…思えませんわね?」
「…ええ。あまりにも…違い過ぎる世界ですのに、愛称は同じなんですのよ。」
リナは…まだ知らないのでしょう。前世からの転生者が、この世界ではどう扱われるのかを。わたくしにご相談してくださって、良かったですわ。バレるかもしれない、という危惧は減りましたもの。わたくしも…お仲間が増え、心より嬉しく思いましてよ。他の転生者が、親友のリナで良かったですわ。
前世のお名前をお聞きする限りでは、前世のわたくしが知らない人物かと思われます。元々接点がございませんでしたのか、それとも…存在する時代が違っていた、という可能性もなくは…ないでしょう。それにつきましては、これから順に追い追いに訊き出しまして、確かめてみるしかないのでしょう。それよりも今は、大事なお話をお伝えしなければなりません。
「リナはどうやら、前世の記憶保持者ということになりますわね。前世からの転生者ということですわ。実は…わたくしも、転生者なんですのよ。リナが…わたくしと同じ転生者で、嬉しゅうございますわ。」
「…えっ?!…カノンも、前世の記憶が…ございますの?」
「ええ。わたくしの前世の名前は、『
「カノンは、前世と同じ名前ですの?…そう言いましたら、わたくしもまだ…そのくらいしか、記憶が戻っていないわ。わたくしも日本人でしたのよ。何か…前世で、ご縁でもあったのかしら?」
「前世のわたくしの愛称は、呼び捨て…若しくは、『かのんちゃん』呼びでしたのよ。家族や親しい一部の人物からは、『カノ』呼びされておりましたわ。リナとわたくしに、前世でも何かご縁がございましたら、嬉しいですわ。」
もしかしたら…従姉妹の杏里紗ちゃんが、わたくしと同じこの世界に転生しておられるのでは、と期待しておりましたが、リナではありませんでしたわね。
ですが、まだ…希望を捨てた訳ではございませんわ。
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