3話 わたくしの家族

 「もうすぐ、カノンさんの誕生会ね?…ふふっ。もう…5歳なのね。時間が経つのは早いものですわ。来年にはこの子も生まれるから、カノンさんあなたもお姉さまになるのよね?」

 「そうだな。もう5歳か…。あっという間に、成人になってしまいそうだよ…。既に…婚約者の申し込みが、幾つか来ておるしな……。まだ…正式な婚約者を決めるのは、早過ぎるというのに……。」

 「まあ!そんなことはありませんわ、旦那様。女性の婚約に早過ぎるということは、決してありませんことよ?殿方は、幼い時に決まっても、おかしくないのですのよ?でしたら…望まれるうちに、まだこのぐらいの時に決めた方が、良いご縁がありましてよ?」

 「それは…そうなんだが……。私としては…まだ私達だけの子供で、いて欲しいのだよ。婚約者を決めるのは、…公爵あいつではないか………。」

 「まあ、まあ!わたくしの旦那様ったら…。何を分かり切ったことを仰っているのかと思いましたら……。…うふふふふっ。ラドクール公爵様に妬いていらしたのですね?……あの子カノンが盗られてしまうと。ラドクール公爵様と旦那様は、ご友人なのでしょう?…何をそのように、妬いていらっしゃるの?」

 「……アンナ…君は知らないからだよ。公爵は、案外大人げない人物なんだよ。そういうヤツに…娘が嫁ぐかと思うと……。」

 「………。貴方も…わたくしからすれば、随分と大人げないですわよ?…それに大事なことですから、一言言わせていただきますと、わたくし達の娘が嫁ぐのは、ラドクール公爵様ではなくて、公爵の嫡子である『トキ』様ですわよ?」

 「……一緒みたいなものじゃないか!少なくとも…私には同じような事だよ。」

 「……同じではありませんわ。でしたら…『トキ』様もかただと、お思いになるのですか?」

 「…………。」


食後の家族団欒の時、お母様がわたくしにお話し掛けられましたの。ご自分のお腹を摩りながら。お父様も同じく、お母様のお腹に手を置き、何故かわたくしの婚約話になりましたのよ。お2人でわたくしの婚約について、盛り上がられますの。

ただお父様はまだ早いと言われて、お母様はもう正式に決めてもいいと言われて、真逆なご意見なのですが。然も、お父様は、わたくしの(仮)婚約者のおかたのお父君ちちぎみである、公爵様とご友人とのことで、何か思うところがお有りのご様子で。


お母様も、お2人のことを大人げないと仰っておられますが、わたくしも…そう思いましてよ?どうして…男性の方って、こんなにも子供のようなのでしょうね?

お父様がどう思われようと、トキ様と公爵様とでは親子で会っても、全くの別人なのですから、お父様に批判されるのは心外なのですわ。トキ様はとても素敵な小さな紳士という感じのお方で、わたくしには勿体ないお方なのですのよ。


当然の如く、わたくしには何の不満もありませんことよ。寧ろ…トキ様の婚約者になる女性が、わたくしなどで良いのでしょうか?そのことの方が、わたくしには不安で仕方がないのでしてよ?勿論、トキ様としても、婚約者を選ぶ権利がないのかもしれません。これは、要するに家同士の結び付きである、政略結婚でもあるのですからね。わたくし達のように上位貴族となる程、どうしても政略結婚が避けられないのですのよ。ある意味、のようなものですから。


だからと言いまして、下位貴族は政略結婚が少ないという訳ではありませんが。

貧乏だからこそ、少しでも上の貴族をという場合もあるでしょうし、援助してもらう代わりにという場合もあるらしいですから。同じ貴族同士でも、お互いの家が釣り合いが取れない場合は、恋愛しても結婚が許可されないことも、まだまだ多いと聞きていますし、トキ様とわたくしは仲良くさせていただいている分には、まだ政略結婚と言っても随分とマシなほうでしょう。


勿論、わたくしはマシという以上に、トキ様なら申し分ありません、とお答えいたしましてよ。逆に、彼以上のお方はいらっしゃらない、と思っておりますわ。

ただ…トキ様は、わたくしとの婚約話を、どうお思いになっていらっしゃるのかしらね?もし…トキ様が、他のご令嬢をと申されるのでしたら、わたくしはそれを受け入れますわ。嫌われてまでご一緒にいたいとは、正直…思いませんもの。






    ****************************






 トーマイセント・アルバーニ侯爵とは、わたくしの父の名前です。わたくしが誕生して2・3年後に、お祖父さまから侯爵を譲り受けられて、まだ1・2年の経験の浅い侯爵様なのです。この国の人間は、皆ある程度お顔が整っておりまして、今まで醜いと感じたほどのお顔の方は、殆どいらっしゃらないのですが、その例にも漏れず、父のお顔もある程度整っております。それでも、イケメンといった感じなのでしょうか?イケメン……?この国に…このような言葉は、あったかしら?


父は文官のお仕事に就いておりまして、休日以外はほぼ毎日のように、お城に登城なさっております。流石に、詳しいお仕事の内容は、わたくしには知らされておりませんのよ。お城でのお仕事は、例え家族であっても話すことが出来ない、秘密事項が多いとのことですからね?そのように、国の重要事項に関われるとは、大変な名誉でございますのよ。わたくしは、父君のことは、誇りに思っておりますのよ。


わたくしの父は、親しい間柄の方々からは、普段は『トーマ』と呼ばれておりまして、とても面倒見が良くて気さくな人物と、称されておりますのよ。ところが、お仕事中になりますと、部下には厳しく接するようですし、上司にも苦言をハッキリと申すような、手厳しい人物と噂されておりますのよ。わたくしが良く知っているお父様は、家族思いのとても子煩悩な人、といった感じなのですよね。ですから…噂のように手厳しいお姿を、わたくしが拝見することは一度もなく、同じ人物だと思えないぐらいですわね?


まあ、性格は真面目で誠実な男性ですから、既婚していてもおモテになるご様子でして。お母様がいつも、されていらっしゃいますのよ。但し、お父様は、お母様だけを愛していらっしゃるとのことなので、他の女性のお方には見向きもされておりませんが。そこがまたいいのだと、御婦人方からおモテになるようでして……。


わたくしの母は、アンナベート・アルバーニ侯爵夫人と申しまして、元々は伯爵家から我が家へ、嫁がれて来られましたの。一応は、親同士が決めた政略結婚とのことなのですが、両親は初めて会った瞬間に、お互いに一目惚れであったと、お母様からお聞きしています。但し、お父様がお母様に一目惚れされたのは、当然だと思いましてよ?…母の美しさは、際立っておりますもの。


実は、我が家のお母様は、この国の貴族なら全員が通うことになる『王立学園』でも、マドンナ的存在だったそうなのです。わたくしの母は美人の中でも、1・2を争うというほどの美しさを、持っておられるのです。わたくしの母は、親しい間柄の方々からは、普段は『アンナ』とか『アン』と呼ばれておりまして、とても面倒見が良くて気さくな人物と、称されておりますのよ。


見た目は儚げな美人さんなのに、実際には…とても朗らかで明るく、周りをホッとさせるような雰囲気を、お持ちになられているのですわ。我が母ながらも、自慢の母親ですのよ。わたくしとしましては、母親似ではないことだけは、とても悔やまれますわね。そうなのです。わたくしは…母親似ではなく、残念ながら父親似なのですわ。父に似たのが嫌な訳ではありませんが、トキ様のにも、…容姿だけでも母親似が良かったのです。


わたくしの容姿は、自分で言いますのもおこがましいのですが、決して悪くないと思われます。母のような美人ではありませんし、父似でも男の子っぽい訳ではありませんが、どちらかと言いますと、実際の年齢よりもかなり幼い雰囲気がありまして、可愛らしいという容姿なのです。わたくしの身体も全体的に小柄ですし、同じ年齢の皆さんより小さいようなのです。これでは…男性から、異性に見られることが少ないのでは、ないのでしょうか?


今のわたくしでは、トキ様に並んで立ちますと、実の兄妹にしか見えませんのよ。

勿論、トキ様の妹に見られることは、とても光栄なのですけれど、年齢よりも幼過ぎて見られるのは…悲しいものがありますわ。それに、トキ様にもそう思われているかもしれないと…、婚約者になる身としましては、申し訳なくなってしまいますのよ。今はまだ5歳になる前ですから、成人までにはもう少し、女性らしく成長出来ればよいのですが……。


誰が見てもお美しいと思われているお母様も、非常におモテになられております。

夜会にご出席される度に、お母様のドレスのことや髪型やアクセサリーにまで、噂が絶えませんのよ。わたくしの母は、男性だけではなく、同性からも好かれておられますので、お母様が新作のドレスやアクセサリーをつける度に、噂が流れるのですわ。そして、あっという間に社交界は、お母様が身に付けた物とが、女性達の間で流行るそうなのです。我が母ながら…凄い人気ですわ。


しかし……わたくしはこの先、として…大丈夫なのでしょうか?

お披露目の時を考えますと……、今から…不安です…。母と比べられそうで……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る