第一楽章 プレリュード

音楽雑誌 リエット5月号

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 リレー連載 わたしのうた 第六回


 作曲家、作詞家、レコード会社、音楽配信サービス……様々な形で音楽業界を支える方々にリレー形式でコラムを綴って戴くこの連載。

第六回は有名アーティストの作曲やプロデュースを数多く手掛ける音楽プロデューサー、葉山行成さんに今大注目のあのロックバンドについてコラムを書いて戴きました。


 音楽史上に名を残した伝説のロックバンドemperorエンペラーの元ギタリストでもある葉山さんと私、ライター香道とのミニ対談も合わせてお楽しみ下さい。


 文・構成/香道なぎさ

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 第六回ミニ対談ゲスト 葉山行成さん

(音楽プロデューサー兼、作曲家)


 香道以下、K:葉山さんはemperorメンバーの中では唯一、本名を公表して活動していらっしゃいますよね。


 葉山以下、H:そうですね。僕はemperor解散後に作曲家としての活動を始めましたが、僕以外のメンバーは芸能界からは完全に引退していますから。


 K:emperorのメンバーの皆さんとは今でも交流があるんですか?


 H:ありますね。互いの家で朝まで飲んだくれたりしています(笑)


 K:(笑) 解散しても皆さん仲が良いんですね。メンバーで一番の酒豪はどなたですか?


 H:んー、酒豪はツカサ(emperor元ドラム)ですね。ツカサの酒に付き合うと翌日二日酔いはお決まりです。本人は酒が弱そうな顔してるんですけどね。


 K:酒豪はツカサさん! 葉山さん以外のメンバーの方は本名も素顔も謎に包まれたままなので想像もつきません……


 H:アハハッ。皆、普通のおっさんですよ。今更素顔を公開したら夢を壊してしまうかもしれません(笑)

 ケイ(emperor元ボーカル)もサトル(emperor元ベース)も普通にスーパーに買い物行ったりジム行ったり、皆さんは知らない間にemperorメンバーと街で遭遇しているんですよ。


 次項から葉山さんのコラムに続きます。


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【影響されず流されず(文/葉山行成)】


 題名から察してここで私が語るアーティストの名前がすぐに浮かんだ人も多いでしょう。

ふと立ち寄ったコンビニやカフェ、ある時は渋谷の雑踏、ある時は高校生の携帯電話の着信音、団欒だんらんのリビングのテレビ、日常の様々なシーンで彼らの音楽を耳にする。


 2008年、吹き荒れる嵐のような勢いを持つ彼らが日本に挑戦状を叩きつけた。彼らの名前はUN-SWAYEDアンスウェイド

UN-SWAYEDはKAITO、YUUMA、SEIYA、HARUの4人組ロックバンド。


 2008年3月に4社の音楽配信サイト限定配信曲『unshaken』でデビュー。

配信開始1週間で4社の配信サイトのシングルダウンロードランキング1位。

4社中、2社の配信サイトでは4週連続の週間ランキング1位、3ヶ月連続の月刊ランキングトップ。

一時期、巷の男子高校生の携帯着信音がunshaken一辺倒だったとの噂も聞いた。


 その後同年6月。CDパッケージとしては初の2ndシングル、『fulgent』を発売。初週でシングルランキング初登場1位。

25万枚を売り上げ、販売元が予定していた出荷枚数を大幅に上回った。


『fulgent』は攻撃的なメロディと歌詞が印象的なデビュー曲とは打って変わって夏に似合う煌めきを含んだミディアムロック。

真夏のドライブのBGMに選んだ方もいただろう。夏の太陽と海が似合う曲だ。

2ndシングルは通算53万枚の大ヒットとなった。


 デジタル配信限定のデビュー曲と2ndシングルを含めた1stアルバム『RESURRECTION』を同年9月に発売。

アルバムはアルバムランキング初登場1位を記録。発売から5週が経ってもランキング上位につき、売り上げ枚数は107万枚に上った。

長くミリオンヒットの出なかった近年稀にみる異例のミリオンヒットとなる。


 2009年2月発売の3rdシングル『夢逢い~YUMEAI~』はグループ初のラブソング。バラード調ながらもロックの要素を取り込んだこの曲は男女共に支持が高い。

ある業界関係者はこの曲を契機にして女性支持が急増したと分析していた。


 UN-SWAYEDは2008年のCD売り上げ枚数、年間有線リクエスト、音楽配信サイト年間ダウンロード数で1位を獲得。

一躍、大人気バンドとなった。


 何故、デビュー間もない新人がここまで売れたのか?

それは彼らの“揺らぎのない精神”が人々に響いたからだろう。


UN-SWAYEDはリリースした全ての曲をボーカルのKAITOが、作曲をギターのYUUMAが手掛けている。

デビュー曲『unshaken』一節にこんな歌詞がある。


 ――揺るぎないものひとつ抱えたらあとは進めばいい――


 まさにこの一節がUN-SWAYEDの“核”を示しているのだ。揺るがない想い、諦めない精神、どれだけ悪あがきしてもいい、あとは進むだけ……。

UN-SWAYEDの主なファン層は十代~三十代男性と十代~二十代女性。社会に置ける自分という人間確立の過程で迷い、もがき、憤りを感じている若年世代の心をKAITOの直球な叫びが掴んで離さない。


 YUUMAの作曲する上質なメロディに乗せたKAITOのメッセージ性ある歌詞。KAITOの荒々しさと力強さが溢れる歌声にサブボーカルを務めるSEIYAの甘く妖艶なハモりが絶妙な甘さと辛さのバランスを醸し出している。


女性ファンを魅了したバラード『夢逢い~YUMEAI~』にはSEIYAの甘い歌声が上手く生かされていると感じた。

KAITOのハードな歌声の裏に響くSEIYAの甘い囁きに酔いしれるファンは多い。


高いギターテクニックを持つYUUMAが奏でる繊細で優美な旋律にHARUの激しさと強さのあるドラムがロックのスパイスを加えて彼らの音が出来上がる。


 さて、UN-SWAYEDが実力の高いバンドだと言うことが人気の理由なのは間違いない。しかし彼らが人々の注目を惹き付けてやまない理由が他にもある。


 デビュー後も彼らは本名、年齢、素顔を非公開にしている。まるで私がかつていたemperorのようだ。

所属事務所のホームページの所属タレント一覧にもメンバーの顔写真やプロフィールは掲載されておらず、音楽番組や雑誌等メディア媒体に彼らは一切露出しない。


 ファンの間ではUN-SWAYEDの素性についての噂や憶測が飛び交っている。非公式のファンクラブも設立されているようだ。

次々とヒットを連発する彼らのメディアへの露出の期待は高まるばかりだが、現時点で彼らがその素顔を明かす気配はない。


 え、私はどうなのかって? もちろん、彼らの本名も素顔も知っていますよ。UNSWAYEDのプロデューサーをしているのでね。ちょこっとだけ教えてと言われても、トップシークレットなので言えませんねぇ。申し訳ない。


 グループ名のUN-SWAYED(アンスウェイド)とは影響されない、左右されないという意味。1stアルバムのライナーノートに記載されたリーダー、YUUMAの言葉にグループ名への想いが語られている。


 ――時代にも人にも何事にも影響されず、ひたすらに自分達が求める音楽を最高の形で貫き通す想いをこの名前に込めました――


 CD売り上げが低迷する昨今にミリオンヒットを飛ばしながらもその素性を明かさないUN-SWAYEDは音楽の歴史に新たな伝説を作るのではないか。

2009年春。デビュー2年目を迎えた彼らの今後が私はとても楽しみだ。


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 リエット 2009年5月号掲載

(2009年4月3日発売号)

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