ユキノステラ 〜神器使いの凡骨傭兵、世界最強の吸血鬼と出会う〜

雪村駿介

緋の戴冠

1-0 プロローグ

 全てをそこに注ぎ込んできた。

 血反吐を吐きそうになるような鍛錬も、頭が狂いそうなほどの勉学も、全ては生涯を掛けて果たすと誓った目標のため。


 『復讐』という二文字の行為。

 そのために血肉を削り、魂を燃やしてきた。


 それを愚かだと人は嗤った。

 そんなものは何も生まないと綺麗事を吐いてきた。


 中には肯定してくれる者も何人かいた。だがその憎悪の矛先を告げた途端、「無理だ」と声を揃えて、その道のりを否定した。


 ソレは人の敵う相手ではないと。

 その復讐は一生叶わないものだと。


 それが理解出来ないほど馬鹿でもなければ愚かでもなかった。

 そして同時に、だからといって素直に引き下がるほど、その燃え盛っていた憎悪は安くはなかった。


 敵う敵わないの問題ではないのだ。

 無謀なのだと分かっていても、アレをこの手で殺し尽くさなければ気が済まない。


 その強固な志を前には、肉体の苦痛など何の妨げにもならなかった。

 中々結果の実らない己の平凡さをもどかしく思いながらも、それでもあらゆる面で強さを求める姿勢が崩れることはなかった。


 その狂気とも呼べる原動力は、己の全てを奪ったあの怪物の存在に起因していた。

 逆に言えば、その怪物の存在だけが心の支えになっていたと言ってもいい。


 故にこそ、その結果は必然だった。


 殺したくて殺したくて止まなかった、狂おしいほどの憎悪の終着点。

 その怪物が自らの手ではなく、遥か遠い場所で他の者によって討ち倒されたと知ったそのとき。


 如何なることがあろうと決して挫けないと思っていたその心が、あっさりと折れてしまったのは。

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