94話 聖なる調べ。黒糸杭。
ファディの手から聖遺物・聖なる炎流が光を伴いながら流れ落ちていく。それはゆっくりと天異界の空間を焼き、すべての生命を死滅させる聖炎。その魔術に頭上に他リヴィアタンが僅かに反応したことを知ると、ファディは眼下にいる全ての黒母、黒針、黒魔術師の目を通して戦場を覗き、解した。
「なるほど。やはり、愛子が気になりますか」
ファディは漆黒の制御式を操り、聖炎を聖霊の愛子にも向ける。
「リヴィアタン。貴方が竜の討滅ではなく、
確かに聖遺物の黒糸杭は完全なものではない。その黒糸杭は領域魔法程度では揺るがないと確信はしているものの、聖女の復活なくしてはその本来の機能を発揮することは出来ない。
リヴィアタンが大きく咆哮した。
その幾重にも重ねられた領域制御式が六律の最大魔法であることを知らせる。その攻撃が向かう先は聖炎であり、その源である漆黒制御式。六律魔法を放つことによって出来た隙を利用して、ファディは
リヴィアタンの六律魔法が聖炎を打ち消すのと同じくして、ファディが黒糸杭の更なる力を引き出すことが可能となったことによって弥覇竜との完全融合は成った。ファディとなった弥覇竜は、リヴィアタンの背を取り黒糸杭を完全に制御する。
聖ノ詩『黒糸杭・
天異界の宙を分かつ一撃がリヴィアタンの腹をぶち抜き、さらに悪霊を滅ぼさんと空間を切り裂き貫いていく。
そのとき、ファディの遥か下方から力を感じた。
空間を切り裂く黒糸杭・熾暁に対峙するように、圧倒的な何かが膨れ上がってくるのを感じた。
その一瞬後。世界はがらりと変わっていた。
すべてのもの―――黒母も黒針も、戦い勇む黒魔術師たちも、その全てが空間から消え去っていたのだ。宙に存在するは弥覇竜と都市エーベに落ちていく蛇のみ。
「この力は、六道真慧‥‥‥修久利・
ファディは呟く。黒魔術師の姿であったならば、自らも他の黒魔術師同様に消え失せていただろう。だが、彼はその身を完全に弥覇竜との同化を果たしていた。いくら不完全な黒糸杭であろうと、その杭は既に竜の本源にまで達し、弥覇竜の意識は竜の封印鍵によって深く閉ざされている。もう竜が目覚めることはないだろう。
ファディが見つめる一点。そこに何かが揺らいでいた。
ゆらりゆらりと黒紫色の陽炎が瞬く。
それはあまりにも小さく消え失せそうな
しかし、その陽炎はゆっくりと確実にファディに向かって来ていた。
リヴィアタンは都市エーベの浮島に落ちていく。
熾暁に焼かれた腹からエーテルが噴き出し、それすらも厭わずにココの元に急ぐ。ココはノインを助けるために、黒魔術師の魔術を幾度となくその身に受けている。無事ではあるものの早く手当をせねば、か細い命が消えてしまう。だからこそ、腹の大穴を塞ぐ回復すらもせずに真っ直ぐにココの元に急ぐのだ。
リヴィアは視界に映るソレを見てはっと息をのんだ。
黒紫色に揺らぐ陽炎。
その小葉のような舟の舳先に経つ者と擦れ違う。
言葉を交わすこともせずに、リヴィアは唇を噛み目を伏せる。言葉はなくとも分かってしまった。だから、彼女は小さく呟く。「すまぬ」そう言った瞬間に、ペルンがふっと優しく笑った気がした。
◇
「その配線、踏んじゃダメっス。二度目は言わないっすよ!」
激震が都市エーベを含む浮島全体を揺さぶるなか、ソラはネキアの配下に手厳しく注意していた。ソラがいるのは浮島の中枢部。その中枢部では都市魔術の使用負荷にたいする修繕が混乱の中で行われていた。浮島の中心結晶から伸びる各々のケーブルがそれぞれの巨大な魔動器と接続し、都市エーベの外郭防壁魔術にエーテルを注いでいる。懸命に働く者たちのなかに美少女ソラはいた。
「うーん。やっぱり配線が足りないっすね~」
都市魔法の連弾射出により、焼き切れていく魔動器の修繕にあたる者たちは、自分たちと作業の内容が違っているソラに気付くことはない。ソラは平然と下天するための魔動器を、自分だけの為に組んでいた。
「えーと、ココッちの製作図からするとエーテル消費を抑えた下天魔動器っすよね。これなら浮島支配者の許諾なく、こっそりとエーテルを使って下天できるっス! さすがっス! ココッちは天才っすよ~!」
そういって作業を隠す様子もなく大手を振って下天の魔動器を中心結晶体と接続させていくが、ケーブルが足りないことに気付いて周囲を探し始める。「ケーブルが足りないっすよ! これじゃあ、下天魔動器が稼働しないっす!! 黒魔術師の軍団も来ているんすからさっさと下天しないとっ!! ココッちと一緒に、さっさと下天して、こんな危ないところとは永遠におさらばっスよお。あっ、ココッちは魔動器が完成してから迎えに行けばいいっス。だから、さっさと魔動器を完成させてココっちと一緒に下天するっスよおお!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます