37話 再び少年と少女は出会う。


 それは数日前に遡る。


 ココが意識を取り戻してからも、ココとノインはお互いに話す機会を持てないでいた。ココとノインはお互いに話をしたかった。ココはノインに「私は元気だよ!だから、気負うことはないぞ」とノインを励ましたかったし、ノインもココに「ごめんなさい」と謝りたかった。しかし、リヴィアが二人を合わせないようにしていた。リヴィアは「ココは未だ療養中で話せぬ。話したいことがあるのなら吾から伝たえよう」と、お互いに直接会うことを阻んでいた。確かに聖霊にとっての愛子は尊い存在であるから、その行動には理解はできる。しかし、あまりにもココとノインの面会を拒む姿にユリは懸命に説くのだ。「リヴィア様。ココの家に集う人は、みな家族です!」と。それでもノインを拒絶するリヴィアの態度は固かった。


「あの糞ウナギの馬鹿に、言っておかねえとなんねえべ!」


 ペルンは、ふんと鼻息も荒くどしどしと足音を立てて、リヴィアが看病するココの部屋に向かったのだ。彼はリヴィアが居るココの部屋の扉を力任せにぶち破り押し入っていく。そして言い放った。


「おい。リヴィア、おめえいい加減現にしろや。おめえはココを守っているつもりだろうが、単にノインにビビっているだけだ。魚類だからって甘えてんじゃねーぞ」 


 と、それからいくつかの言い争いを経て、ペルンがリヴィアを連れてノインのいる居間にやってきた。リヴィアはノインの前で数瞬押し黙っていたのだが、にわかに頭を下げた。


「ノイン、一度しか言わぬから良く聞くのじゃ。今回の件は、吾が悪かった、すまぬ。変に気を回しすぎておった」


 ペルンが鼻息荒くふんぞり返り、ユリが微笑んでいた。


「ほれ、ノイン。おめえはココの部屋さ行ってこい。何か話したいことがあんべ?」

「はい、ありがとうございます」


 ノインが席を立ち足早にココの部屋に向かう。リヴィアが不安そうにしている姿にペルンは彼女に席に着くようを促した。


「おめえは心配しすぎなんだべ。それによ、当人同士でしか通じないやり取りってのもあるべさ。ウナギは俺の淹れる茶でも飲んで少しは落ち着くといいべ」


 がははは!とペルンは笑って、茶の用意を始めた。ユリもそんなペルンを手伝って、それからリヴィアと一緒に茶をすすった。



 ノインはココの部屋に辿り着く。そして、ココに一番に言いたかったことを伝えた。


「ごめんなさい。ココ、本当にごめんなさい」


 ノインはココに対して謝り続ける。


「系譜浸食でココを・・・僕が連樹子を使ったから、ココがすごく傷ついて―――。僕がココの体を壊したんだ。謝って済むことじゃないのは分かってる。でも、どうしてもココに謝りたいんだ。本当にごめんなさい」


 ベッドで上半身を起こしたココは、ノインの言葉を一つ一つ頷きながら聞いている。


「うん」


 彼の真剣な声にココはもう一度深く頷いた。ココはノインの手を取ると、自分の側に引き寄せた。彼の手を優しく握り、彼の頭をそっと優しく撫でた。


「ノインちゃん、顔を見せて。どう?私はどんな顔をしてる?」

「え?」


 ノインは大きく下げた頭を持ち上げて、ココの大きな紅い瞳を見つめた。それでも、彼女が意図していることが分からずに口をつぐんでしまう。


「私は、もう怪我はしてない。それに、ほら!体も良く動くでしょ?」


 そう言って彼女はベッドから降りて歩いて見せ、ノインの正面で綺麗な一礼をしてみせた。そして、彼に優しく微笑む。


「ノインちゃんの気持ちは私がきちんと受け止めました。だから、もう大丈夫。私は系譜原典者だからね。従者の我儘や、それに今回の出来事だって、私にとっては何てことはない。そういうわけなんだから、ノインちゃんも今回の出来事で気負うことなんてさらさらない。私たちは天異界の中央を目指すわけなんだから、もっと大変なことはこれからいっぱいある。だからこそ、私たちは前に進まなきゃね!私たちは前に進むこと、それが一番大事なんだと思う」


 ぐっと両手に拳を作ってココは気合を入れる。それは自分自身に対する鼓舞でもあった。私はもっといっぱい魔法を研究して、みんなと一緒に天異界の中央に行く!その気持ちを力強く抱き直した。


「はい」


 ノインの返事を聞き、ココはふふと笑みを向ける。


「だね!じゃあ、朝食の準備を始めようー。みんなお腹ぺこぺこだからね、そして皆で一緒に食べるのだ!」

「はい。今日はココの大好きなパンを焼こうと思っています」

「おお!それは楽しみだ~」


 ノインはココの明るい表情を受けて、彼の心も温かく晴れていく。そして、何かを決意したようにココに向き直る。彼女はノインを大きな瞳で見つめた。


「んー?どうしたの、ノインちゃん」

「僕も頑張って強くなって、ココと皆と一緒に天異界の中央に行きたいです」

「うん!当然だよ。期待してる」

「はい」


 ノインの返事を聞いて、ココとノインは力強く握手をする。ノインは思う。ココの為に自分のできる事を一つ一つ積み重ねていこうと。

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