さよなら工場

あと3日でリンゴ工場の仕事が終わる。


ここまで来るまであっという間だった。

約2週間しか働けなかったけど


そして、イヤホンを身に着けた僕は

あっちゅうまに残りの2日を消化して


ジリリィィ!


いまや聞きなれた終わりの合図

最後の3日目の労働終了の合図が鳴らされた。


「Woo-hoo!!!」(いえぇーーい!!) 「we made it!!!」(やったぜー!!)


合図が鳴るとあちらほちら、こちらでも喜びの声が聞こえる


「we are good coworkers!」(俺らは最高の同僚だな!)


近くで働いていたマリアーノがテンション高く声を挙げていた


「Yeah your right!」(まじ卍!)


仕事が終わり僕もテンション高く呼応した


工場のレーン作業場をマリアーノと後にしていると

近くにしおりさんが通った


「お疲れ様ですしおりさん」


「お疲れ、終わっちゃったね。」


しおりさんと日本語で会話を始めると

マリアーノは「see you later」(また後で)と言って

足早に先に進んでいった


母国語で会話始めると、他の国の人は席を外すし


一緒にいる人が理解できないから

できるだけ母国語で話さないようにする


そんな暗黙のルールがワーホリをしている人達にある


今回はこれでしおりさんと最後だから

ごめんね。マリアーノ 許してね。マリアーノ


そう思いながらマリアーノの背中を見ていると

少し先で同じスペイン語を話す仲間を見つけていた


...


なんか、なんでかわからないけど、

好きな人がほかの人と話してるのを見てる気分


いやだ、あんなマリアーノ見たくない


そんなこと思っていると横にいるしおりさんの声が聞こえた


「次のプランは決まったかい?」


「え、何にも決まってないですよ?どうしようかな」


3日前と同じ返答にしおりさんは青ざめながら言った


「それ、やばいよ。冬近づいてきて

ほんとに仕事見つからないからね?」


「大丈夫ですよ。世の中なんとかなりますから!」


しおりさんと対極の希望に満ちた顔で答えた。


違うバックパッカーに泊まるしおりさんとは

ここでのあいさつが最後


別れる前に最後のお別れの挨拶を交わす


「まぁ、若いんだしいろんなこと経験してね

私は日本で次のことをするから」


「はい!激動に身をまかせます!

そんなしおりさんは日本で何をするんですか?」


僕と違って若くな... 


大人なしおりさんはこれからの人生プランしっかりしてそう


「え、何にも決まってないですよ?どうしようかな」


「.....」


数分前の僕と同じ返答に僕は青ざめながら言った


「それ、やばいよ。」と


それがしおりさんとの最後の挨拶だった


そのあと、しおりさんがどう過ごしているかは

5年後、23歳になった自分でも知る由なかった。


建物の外に出て、一緒に働いたみんなと

握手を交わし、朝乗ってきた車がおいてある

駐車場に来て


最後に海外仕様の大きい工場を見て

軽い会釈をしながら言った


「お世話になりました。」


そして、車のドアを閉めて帰る


バックパッカーへ




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