第71話 北方戦線 -単騎奮闘-

――――ブラキニア領ダーカイル城 東の海岸沿い。


「あれは……っ!? ゼクス! 避けろ!」

「んー? ガメル様、どうかし――ッ」


 大量の矢の雨がゼクスの頭上に降り注いだ。


「間に合わない」


 ズィーベンは急ぎ風の矢を番え、ゼクスの上空から降り注ぐ敵軍の矢を打ち落としていく。


「ズィーベン! そのまま援護を! オレはゼクスを守る!」

「はい……」


 ガメルがすぐさまゼクスの元へ駆け寄る。


「ガメ……ル……っ……ま」

「ゼクスッ!」


 既に遅かった。ズィーベンの風の矢をすり抜けた矢の雨は、ゼクスの身体を無慈悲に貫いていた。


「油断……しちゃっ……っスよ」

「喋るな! 今連れ帰ってやる!」


 気付けば天候は吹雪。横殴る雪は視界を遮り、体温を低下させていく。


「キャーッ!」

「ズィーベン!!」


 ゼクスに気を取られていたガメルは気付かなかった。第二波の矢の雨がズィーベンを襲ったのだ。強風によりズィーベンの能力は半減。防ぎきれなかった矢は、ゼクス同様にズィーベンの身体を貫いていく。


「ズィーベーーーーン!!!」


 ゼクスを抱えたままズィーベンへ駆け寄るが、既に息は無かった。


「ガメ……ル様。ズィーベンの……横で……寝かせ……うっ」

「ああ、少し待ってろ」


 ズィーベンの隣に寝かせたガメルは、矢の降って来た先を睨む。


「堂々と来るがいい!! 外からの攻撃でしか攻める事の出来ない小心者め!!」

「お初にお目にかかります。ブラキニアの王子、ガメル・ブラキニアとお見受け致します。私はスハンズ王国の参謀を務めます、ガンテ・ライオと申します」


 吹雪の中から一つの人影が見える。


「スハンズの頭脳はキサマか。だが、一人で前に出て来るとは愚かだな。微塵も残さずに消してやる」

「それは怖いですねぇ」


 不敵な笑みを浮かべたまま人影は吹雪の中へと消えていった。



――――ダーカイル城前。



「おおおおるぁあああああ! 来やがれ豆粒共がああああ! 砕いてやるよおおお!」


 城前で一人奮闘していたのは半裸姿で筋骨隆々の巨躯。戦場を縦横無尽に飛び回っている物体は、鉄牙球てつがきゅうと呼ばれるボーリング大の鉄球。しかし、ただの鉄球では無く全面に鉄の棘が付いており、勢い良く衝突した物を容易に砕く。


 アハト・イロー。個の鉄壁の守りは、大隊が攻めあぐねる程の強固さ。黄色の髪色は常に電気を帯び、爆発したヘアーをしている。周囲に磁界を形成し磁力を操る為、金属を含む兵装は引き寄せや反発の作用により太刀打ちできない。鉄球も自身から発する磁力によって縦横無尽に操る。


「吹雪がなんだってんだ! オレの磁力と鉄球は風なんかに負ける様な柔なもんじゃねえぞ!」


 宙に浮き、動きが読めない鉄牙球にスハンズ兵は前進できずにいた。一人にこれ程までに苦戦を強いられるとは思っても見なかっただろう。只々鉄球に気を取られ散り散りになっていく。


「ガメル様もこんな簡単な所を押し付けやがって。一人でスハンズ位落としてみせるのによお。ったくバジル様は何を考えるてやがる」

「こ、こいつ色巧エクスクエジット級か。ライオ様に報告を! 我らだけでは太刀打ちできない!」

「おっと、伝令か? そんな簡単に情報が伝わってたまるかよ! おら! 磁力球マグネットハート!」


 アハトは敵軍上空に鉄牙球を投げた。上空で制止した鉄牙球は磁力を帯び、鉄を含む敵兵装は吸い寄せる様に浮かびあがる。まるで球を心臓の様に、中心から覆う様に巨大な兵士の塊が出来上がる。


「そのまま落ちな!」


 上空の鉄球に翳した両手をそのまま地面に叩き付ける様に下ろす。すると兵士の塊は急降下し、兵士ごと地面へ叩き付けた。


「だ、ダメだ! こいつはマズい!!」

「フンッ! 何が不味いだって? 豆粒共。美味しく頂いてやるよ! ハッハッハー!!」



――――ダーカイル城外壁。



「アハト、暴れてるね」

「うん、暴れてるね。ここは大丈夫だね」

「うん、ガメル様に報告してくる」

「ノイン、気を付けてね」

「大丈夫、ツェーンこそ暇すぎて居眠りなんかしないでね」

「ザハルちゃんと一緒に遊んでるから大丈夫。眠くならない」


 茶髪のブラウニー兄弟。

 一人での能力は他の五黒星ごこくせいに劣るものの、兄弟二人合わせた広範囲防御を主とした力は容易に崩せない。幼いながらも防備を任される程、ガメルからの信頼は厚かった。

 ノインは右目を隠す様に、ツェーンは左目を隠すようなアシンメトリーの茶髪。幼い身体に似合わない杖は縦に真っ二つになった様にスッパリと割れている。それを互いに持ち、合わせ使う事により絶大な色力を発揮する。


「ボクはアハトの援護をするね。ザハルちゃん、ちょっと離れてて……戯れる砂プレイザサンド


 ツェーンは右手を前に翳しゆっくりと目を閉じた。兄弟揃った力程ではないが、一人で操る事自体は容易だった。周囲から砂が集まり、そのまま散っていく。すると前線で戦闘中のアハトの前方、敵軍の中心辺りから地面が隆起し、剣山の様に勢い良く反り上がり敵軍を貫く。


「おい! どっちか知らねえが邪魔ぁすんじゃねーよ!」

「ツェーン」

「ああ!? なんだって? 聞こえねーよ!」

「今やったのはボク、ツェーン」

「ったく何言ってるか分かんねーんだよ! もっと腹から声出しやがれ!」

「……」


 城前と城の屋上、まだ年端も行かない子供が声を張っても吹雪の中の戦場には響かないだろう。


「邪魔しない程度に頼むぜーおチビちゃん達ぃ!!」

「ボクはツェーン……」


 余程自分の功績として認めて欲しい様だ。


 ダーカイル城前、防衛継続中――。

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