193話 魔人王

「魔人王様に献上だ。そこを通せ」


「「は!」」


 様々な宝石が装飾された扉の前にて、蜥蜴の魔人であるムアが警備をする魔人にそう告げると、中へあっさりと通された。


「わ、わたし……どうなっちゃうんだろう…」


 後ろからもリドが続き、恐怖で震えている雫の片手を逃がさぬようガッチリと掴む。


 ガチャアアアア


 壮大な音と共に左右に開かれていく大扉。


「っ!?」


 中央に座る圧倒的な存在感を放つを前に、雫は息が出来ないほどの重圧感を味わっていた。


「お久しぶりです。魔人王様」


「只今、任務より無事帰還いたしました。調査任務の件についてーー」


 だが、そんな事に”気付いている”のか”気付いていない”のか、リドとムアは関係ないとばかりに報告を進めていく。


「突如現れた4について、担当した東地区で調査した所、巨大な獣ーー猫のような巨大な足跡が残っていました」


「まるでかのように、周囲を荒らした形跡がありましたが、無いと分かったのか、それとも目的のモノを見つけたのか、どこかへと移動して居なくなっていました」


「ふーん。そう」


 静かに話を聞いていた魔人王が興味なさげに返事をする。


「それで?その生娘きむすめは?」


「っひ!?」


 目をギラつかせた魔人王に見つめられ、本能的に恐怖した雫は、静かに身体を震わせ竦んでしまう。


「任務の帰還にて荒廃した東の地で発見した人間です。見た事のない服装をしていますが、かなりの上玉です」


「魔人王様に献上したく、連れて帰りました」


「無傷?無傷ねー。それにしても制服かー。懐かしいね。300年前を思い出すよ」


「「セイフク?」」


 疑問符を浮かべる2人とは対照的に、意味ありげに残虐な笑みを浮かべる魔人王。


「リド、その生娘を連れてこい」


「は!」


 震える脚を無理矢理立たされ、魔人王の前までリドに歩かされる雫。


「キミ名前は?」


「し…しずく…秋山雫です」


 震えながら青ざめた表情でそう告げると、一瞬で魔人王の目の色が変わった。


「秋山?…あの秋山かい!?キミ、黒騎士の家系なのかい?」


「え?クロキシ?え?」


「もういい、こっちで確かめる。その方が手っ取り早い」


「いたっ」


 戸惑う雫に焦れたのか、魔人王は雫の指先を爪で軽く傷つけると、滴る血液をゆっくり吸い始めた。


「……」


 恐怖で震える雫を前に、ゆっくりと血液を吟味する魔人王。


 するとーー


「ハハハハハハハ!!」


 突如笑い出し、残虐な笑みを浮かべるのだった。


「ようやく見つけた!君は僕の最高の実験体になってくれるよ。シズク!」

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