175話 扇動する研究者

『Graaaaaaaa!』


 後ろから聞こえてくる同僚の咆哮に背を向けながら、博士はようやく地下牢に到着することが出来た。


「ハァハァ.....ハァハァ....ハァハァ.....」


 荒い息を繰り返しながらも、博士は電子ロックをそそくさと解除する。


 ゴオオオォォォ


 すると、脱出防止用の厳重な扉が音を立てて開いた。


「クッ」


 博士は酷くなる一方の頭痛に顔をしかめながらも、急いで地下牢へと足を踏み入れていくのだった。




 ★☆★☆


 中へと博士が足を踏み入れた瞬間、左右に続く牢屋から実験体達が騒ぎ始めた。


「おい、あの糞野郎が!」


「くたばりやがれ!」


 魔人へと変身をし、牢屋の柵をガンガンと鳴らしていく。


 2人に続くかのように、騒音が雪だるま式に増えていった。


「出せ!俺達をここから出せ!」


「殺す。絶対に殺す!」


「マッドサイエンティスト!!」


「死ね!」


「地獄に落ちやがれ!」


 だが、博士は気にせずに足を進める。一番奥まで行くと、博士は突如後ろへと振り返った。


「聞けお前たち!!」


 突然の大声に、騒いでいた魔人達が一瞬で押し黙る。


「私の研究を奪いに、今、政府の部隊がここを襲っている!!研究員は全員やられた。生存者はもう私しか残ってないだろう」


 その中で、興味なさげにしていたミカエルが初めて目を向けた。


「ハハッ!ざまぁ見やがれ!!」


 演説の途中で、蜥蜴の魔人がヤジが飛ばす。


「部隊がここに来るのも時間の問題だ!そうなれば私達は殺されてしまうだろう!」


「私達?死ぬのはお前ひとりの間違いじゃねーのか?命が惜しくてここに来たんだろ。だったらゴメンだね。俺達は大事な実験体だからな。死ぬのはお前1人だけで充分だ」


「いいや。私達だ。魔人薬は既に完成している。実験体はもう既に用済みなんだよ。今回の襲撃に合わせて、であるお前たちが処分されるのは間違いない。そもそも何故自分たちが実験体にされたのか分からないのか?凶悪な犯罪者を生かしておくメリットは何処にも無いだろう。ミカエルはともかく、お前らは自分の立場を忘れたのか?」


 その博士の一言で、実験体達がざわつき始めた。


「おいおいマジかよ」


「どうする」


「マズくないかこの状況」


「処分されるのか?嘘だろ!?」


「あいつは生き残れる可能性があるのかよ」


 実験体達の反応を尻目に、博士はあと一歩で扇動出来ると確信した。


「共に戦おう。生き残る為にな」


 博士はそう言うと、ポケットから魔人薬を取り出し、一気に飲み干した。


「グッ.....ガッ....」


「あいつ飲み干しやがった....」


 続けて、実験体達の牢屋のロックを全て解除する。


「これで自由だ」


「ようやく出られたな」


 後ろから聞こえてくる呑気な声とは裏腹に、博士は必死に痛みに耐えながらも、ゆっくりと前に進んでいった。


「念のため....ここに隠しておいて良かった....」


 続けて、行き止まりとなっている場所へ向かったかと思うと、博士は突如壁を破壊し始めた。


「何やってんだアイツ!?」


「狂ったのか?」


 実験体達が疑問に思う中、煙が晴れるとそこにはー


「な!?」


「あんなに大量の魔人薬が....」


 壊した壁の内側から、大量に保管されている魔人薬が姿を現した。


「おいおい!」


「まさか!?」 


「もっと、もっとだ」


 博士は一心不乱に魔人薬を摂取していった。容器など気にせず、狂ったようにバリバリと口に放りこんでいく。


「ぎゃはははははは」


「アイツ大丈夫かよ」


「死ぬぞ。マジで」


 それに伴い、魔人薬の過剰摂取で、博士の身体がドンドンと大きくなっていった。


「皆殺シダ」


 博士は魔人薬を全て摂取し終えると、魔人を率いて地下牢から抜け出すのだった。

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