165話 甘えたいワケ

「全部おにぃのせいだよ」


「俺のせい?一体どういう事なんだ」


 まさかの答えに、俺は思わず聞き返した。


「おにぃはさ、高校を卒業してすぐに結婚したよね?そして直ぐに4人の子供が出来た」


「ん?あ、あぁ。そうだな」


 雫は、確認をするかのように問いかけてきた。それとなんの関係があるのだろうか?


「私ね、小さい頃からおにぃに凄く甘えたいって思ってたの。一緒に出掛けたり、遊んだりしたいと思ってた。でも、おにぃは何時も狂夜ちゃん達ばかりを優先してて、私にはかまってくれた事がなかったよね」


 今まで思っていた不満を吐き出すかのように雫は言う。


「おにぃはさ、やっぱり私に興味がないんだよね?今日帰ってきたのだって、どうせ気まぐれでしょ?」


「待ってくれ。俺はー」


 とっさに言い返そうとしたが、雫の言葉によって直ぐにかき消される。


「良いよ別に。今なら分かるから。おにぃには、おにぃの家庭がある。そっちを優先するのは間違った事じゃないよね」


「雫....」


「でも、でもやっぱり。私、寂しいよ....」


 そして雫は再び泣いてしまった。


「今日くらいは甘えてもいいかなって思ったけど、やっぱり迷惑だったよね。戻るね....私...」


「待ってくれ」


 部屋から出て行こうとする雫を、俺は後ろから抱きしめた。


「悪い。今まで寂しい思いをさせて」


「おにぃ....」


「別に雫に関心が無かった訳じゃないんだ!ただ、年の差があるからどう接すれば良いのか分からなかったんだ。どうせ俺が遊びに来てもつまらないだろうと勝手に思い込んでいた。俺が悪かった!許してくれ」


 長年寂しい思いをさせて泣かせてきた兄貴を、今更許してくれるとは思わないが、俺は雫に対して思っていた事を正直に話した。


「そう.....だったんだ....」


 ボソッと呟く雫。


「許して欲しい?」


「ああ」


 雫の表情は見えない。まだ泣いているのだろうか?それとも怒っているのだろうか?


 これから、許す代わりに何かしらの条件を出してくるのだろう。


 雫を泣かせてしまったのだ。俺は全てを受け入れるつもりで返事をする事にした。


「じゃ、じゃあ。今まで甘えられなかった分、甘えさせてくれる?」


「ああ」


「絶対に拒絶しない?」


「拒絶しない」


「本当に?」


「本当だ」


 何度も確認してくる雫。よっぽど甘えたいようだ。


「じゃ、じゃあ。一緒に寝てもいい?」


 嫁達にバレたら、どうなるのだろうか。一瞬、そんな考えが頭の中をよぎる。


「やっぱり駄目?」


「......仕方がないな.....きょ、今日だけだぞ」


 不安そうに覗き込む雫に、俺はすぐさま承諾した。


 バレないだろう。それに今日だけだしな。


「やった!おにぃ大好き!」


 次の瞬間、雫は花のような笑顔を見せるのだった。

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