160話 時雨vs真二

「シンジ、久しぶりの稽古するわよ!」


「は?」


 妹とゲームをしていると、母が突然そう言いだしてきた。


「食後の運動よ。付き合いなさい」


「え、あぁ。まぁ、いいけど....」


 母は、絶対に参加しろと無言の圧をかけてくる。思わず承諾してしまったが、ちょうど良い。


「悪いな。しずく


「むー。今はお兄ちゃんとゲームする時間だったのにー」


 そう言うと胡坐をかいている俺の上に、座っていた妹が渋々立ち上がった。


 さっきから、恋人のように甘えてきて少し困っていたのだ。正直助かった。


「早く終わらせてね。お母さん」


 不満の声を漏らしながらついてくる妹。どうやら稽古が気になるようだ。




 ★☆★☆


 道場に移動した後、俺は母と向かい合う。


「「ふぅー」」


 刃を潰した刀を握り、目を瞑る。お互に、深く呼吸を吐き統一精神をした。


「おにぃ、頑張ってー」


 遠くから妹の声援が聞こえる。


 心を落ち着かせ、ゆっくりと目を開く。


「「いざ参る!!」」


 母とお互いに目が合った瞬間、同時に飛び掛かった。


「秋山流、三の型、乱れ桜」


 早速母が仕掛けて来る。異なる角度からの斬撃が、一瞬の間に飛んできた。


 俺は防御に徹する。力加減を一歩でも間違えれば殺してしまうからだ。


 キン キン キン キン キン


「やっぱり防がれるわよね!だったら!」


 そう言って母は斬り合いから一旦離脱すると、さっきとは違う型で攻撃してきた。


「六の型、朧月夜おぼろつくよ


 この技は途中で軌道をずらし、防御したはずの相手に致命傷を与える技だ。


 防御する側は、攻撃がすり抜けてきたと思うのだから質が悪い。母の得意技だ。


朧月夜オボロツクヨ返し」


 攻撃を喰らってもダメージは入らないが、取り合えず返し技で相殺させて貰う。


 この返し技を極める事が出来れば、相手の攻撃を跳ね返す事が出来る様になる。朱雀戦では活躍したな。


 カキンッ


「嘘!?」


 一瞬、驚いた表情を浮かべる母だったが、すぐさま攻撃を仕掛けて来た。


「二の型、ウルシ切り」


 ジグザクに迫る斬撃を難なく躱す。


「八の型、無情菩薩ムジョウボサツ


 母は型の中で、一番強烈な技を叩きこんできた。


 ここは受け流すか?いや、敢えて受け止めよう。


 バキンッ!


 防御に徹していた俺の刀が、遂に折れてしまった。


 その瞬間、母がニヤリと笑う。


 予想通りだ。きっと次の一撃で勝つと確信したのだろう。


「終わりよ。五の型、神威カムイ!」


 そうして放ってきた、最速の型を俺はー


「零の型、白刃取り」


 両手の平を合わせる様に受け止めた。


 すかさず、捻るように側面に衝撃を与え刀を折る。


 バキッ!


「へ!?」


 まさか素手で刀をへし折られるとは思わなかったのだろう。


 折れた刀を、母の首元に持っていく。


「はい、俺の勝ち」


「う、うそ....」


 驚愕した様子で見つめてくる。


「私の負けね....」


「おにぃ、凄くカッコよかった!!」


 現実を受け入れると、母は直ぐに負けを認める。


 その後、俺は雫に抱き着かれるのだった。



 ★☆★☆


「さっきの凄かったから、SNSにアップしておこ」


 この時の俺はまだ気付いていなかった。


 まさか、雫がコッソリ動画を取っていたという事に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る