129話 現実逃避
「なんかこれ、グニャグニャしてて気持ち悪いね。マスター」
お互い変身を解いていない状態で、前方を見ながらエレナが話しかけてきた。
その視線の先を見れば、3つ黒い球体が宙に浮かんでいる。グニャグニャと常に不規則な動きをしていた。
キモイかこれ?俺は別にそうは思わないが・・・
いま気が付いたが、お前も似たようなモンだろ!グニャグニャしてるし。
ていうか、俺達の時もこういう感じだっただろ。何を言ってるんだ。
「それにしても、なんでマスターの身体に鎧が生えているんだろうね?」
まぁ、目がどこにあるか分からんが・・・
とにかく、視線を感じるのだ!
両足を見れば、鎧に覆われていた。他の部分も同じように感じる。そのことから、全身を鎧に覆われた姿となっているのだろう。狼なのに、だ。
「さぁ?分からん。朱雀を倒した時に気が付けば”種族が変化”してたんだ」
エレナの質問に答えつつ、変化した原因を思い浮かべた。
変化が起きた理由。それは、鎧を纏う事を”封印”していたせいだろう。
封印を解除したことで”黒狼”《ブラックフェンリル》から、本来の姿である”神装黒狼”《ブラックアーマーフェンリル》に戻った。と俺はそう思う。
「朱雀戦で、長年封印していた”鎧を纏う能力”をようやく使用したからな。そこで封印が解けて?変化が起きたのだろう」
「ふーん。そうなんだ。」
え?興味ないの?せっかく理由とか考えてたのに。
興味無さそうに答えるエレナだった。
★☆★☆
数分間、球体を注視していると変化が起きた。
ピキピキ
「お?」
柔らかそうなイメージをしていた球体が、突如膨らみ、大きな卵に変化をしたのだ。
ピキピキピキ
さっきから”その音”と共に、卵にヒビが入っていく。
ピキピキピキピキ
ヒビの入る亀裂が、加速度的に早くなっていく。
そして、一際大きな音をたてたかと思うとー
パリィィィン
その瞬間、卵が割れた。
数瞬後。卵の中から、3体の巨獣が出て来たのだった。
★☆★☆
「な、なによこれ?」
まず最初に声をあげたのは、”鋭い牙の生えた白竜”だった。
嘘だろ!?喋り方.....狂歌だ......
「わ!うち猫になってる」
その次に声をあげたのは、”尻尾が2本生えた黒猫”だった。
次は美香か......
「わ、凄い!尻尾が沢山です」
そして最後に声をあげたのは、”尻尾が9つもある狐”だった
最後はサラだな......
マジかよ狂歌。見た目が滅茶苦茶強そうなんだが・・・・
絶対蝙蝠だと思ってたのにな。
俺の予想は、あっさりと予想を裏切られたのだった。
★☆★☆
大火山の中では
「ん!?」
惰眠を貪っていたハズの朱雀がー
「え、ちょ、ちょ!?え!なんでこんなに巨獣が増えてるの!?」
予想外の事態に、突如飛び起きた。
「僕を入れて8体いるんだけど!?え?どうして?」
寝起きでイレギュラーな事態に遭遇し、困惑していた。
「”白ちゃん”いつの間にか死んでるし!知らない反応が5体増えてる!」
【生命感知】と【魔力感知】で、直ぐに状況を理解しようと行動をしたが、それが間違いだった。
「え!待って!?今度は”青ちゃん”が死んだんだけど!?」
何故なら、その余計な行動で自らの混乱を招いてしまったからだ。
「ちょ、誰か■□になるつもり!?4体の巨獣を服従させることで、更に進化する事が出来るという。あの!?」
「僕みたいに、髪にメッシュが生えてないと、進化する事は出来ないよ!?それが、■□になる素質があるかの”判断材料”でもあるからね。つまり、メッシュのある僕は特別な存在なんだ!」
「嘘!?今度は”玄ちゃん”が死んじゃったよ!なんで?」
一瞬で、好きな場所に行くことが出来る『転移』。時空間魔法を朱雀は知らなかった。
同胞が住む魔界の最果ては、凄い距離がある。自分が本気を出しても数日掛かるのだ。
自分より凄い奴がいるハズが無いと、一瞬で移動できるわけが無いのだと、自分に自信を持っていた朱雀は、そう決めつけた。
「これは夢だよね?うん、きっとそうだ。」
さっきから不可解な死を遂げる同胞に、これは夢だと決めつけるとー
「変な夢を見ちゃったな。おやすみ」
現実否定をする為、朱雀は惰眠を貪るのだった。
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