57話 追憶の海と『捕食王』
気が付くと真っ黒な海の中にいた。
自分が海の底深くまで沈んでいっているのを自覚する。
「ここはどこだ....」
周りを見渡すが、暗くて何もよく見えない。
酷く冷めきった声で、思わず独り言ちてしまう。
急いで這い上がろうとするが、抵抗虚しく更に沈んでいく。
「どうなってんだ....」
周りを警戒しつつ、どこから敵が出てきてもいいように構えを取るが、特に何も起こらない。
そのまま沈んでいくと、景色が変わった。
今までの記憶が、真っ暗な海に映し出される。
至る所に、父さんと母さんとの思い出が映し出された。
幼い時に遊んだ場面。叱られて泣いている場面。幼い頃の様々な出来事が流れて行った。
(懐かしい。これ、いつの時だ?)
数百年ぶりに両親との思い出を見ることで、冷めていた心が温かみを取り戻していく。
懐かしい気持ちになっていると
『ソレガ貴様ノ記憶カ?』
「ああ...って誰だ...」
脳内に直接誰かが話かけてきた。当たり前のように話しかけてきたから思わず答えてしまった。
警戒態勢を取り、周囲に濃密な殺気を放つ。しかし、周囲を見渡すが誰もいない。
『酷イナ。私ヲモウ忘レテシマッタノカ?』
「あ...あんたは...」
目の前に黒いシルエットが現れる。
それは、人型のシルエットがある狼だった。
「グレイブか...」
『正解ダ。』
当てると黒い靄が消え、全身の姿が見えるようになる。
『安心シロ。私ハ危害ヲ、加エルツモリハ無イ。』
そう言って両手を上げるグレイブ。
『ソレニ私ハ今、精神体トナッテイル。触レル事スラ出来無イ。』
そう言って片手で体を触ってこようとしてくるグレイブ。
腕が体を透け、通り過ぎてしまった。
(本当みたいだな...)
全く敵意を感じない。それに、触れることはできないと証明した。
(とりあえず信じてみるか...)
「で...何であんたはここにいるんだ...」
『ソレハ@*!▽+&□#$%☆?カラダ。』
質問をするが、文字化けしてよく聞こえない。
「済まない....全く聞こえない....悪いがもう一度言ってくれないか....」
『ダカラ@*!▽+&□#$%☆?カラダ。』
(駄目だ。全く聞き取れない。)
「悪いが俺には聞き取れないみたいだ....」
「ソウカ。マア良イ。直グニ分カル。」
そう言ってすぐに諦めるグレイブ。
『ソレデ?貴様ガ求メテイルノハ、アノ三人デ合ッテイルノカ?』
「ああ....」
次々と流れていく思い出の景色に指さすグレイブ。
いつの間にか俺の姿は、高校生となっていた。
両親が魔物に殺されたと知って絶望している場面。
アルフォースに薬を飲まされて魔人化した場面。
3人との暮らした日々の場面。どれもが懐かしく感じていた。
それと同時に胸が締め付けられた。空っぽの胸が更に、寂しさと孤独でいっぱいになる。
『ソウカ。
今までの疑問が解けたかのような表情をするグレイブ。
どうやら知らなかったようだ。
『オット。ソロソロ時間ノヨウダナ。』
突如輝きだすグレイブの姿。
「おい。どういう意味だ!」
『!#が終ワッタノダ。』
思わず大きな声で問いかけてしまう。
それほどまでに目の前の不可解な現象が、謎だったからだ。
『目覚メレバ分カル。』
そう言うグレイブの体が下から徐々に消えていく。
あっという間にグレイブは、もう既に片腕と斜めに消滅した上半身しか残っていなかった。
『貴様ハ良ク頑張ッタ。タダノ人間デアッタ貴様ガ巨獣ニマデ進化スルノダ。コノ私ガ認メヨウ。私ニ出来ナカッタ事ヲ、貴様ハ成シ遂ゲタノダ。自分ヲ誇レ。』
そう言って胸の前まで拳をトンと突き付けるグレイブ。
『融合ハ私ガベーストシテ選バレタノダ。私達ハキット最強トナルデアロウ。』
そう言うとグレイブは、俺の中へと吸い込まれ、消滅してしまった。
すると、眩しい光が辺り一体を照らし、俺は思わず目をつぶってしまったのだった。
★☆★☆
「ここはどこだ。」
真っ暗な景色に手を伸ばした。
パキッ
何か殻のような物を割った気がする。
すると、真っ暗だった景色にどんどんヒビが入り、隙間から光が漏れていった。
勇気を振り出し、殻のようなものをぶち破ると、抜け出すことに成功した。
辺り一面に黒い殻が飛び散る。
「あ、あれ?マスター?」
自信無さげに声をかけてくるエレナ。
振り向くとそこには、小型化した人間姿のエレナがいた。
(何だか目線が凄く高いような。気のせいか?)
「何小さくなってんだ。エレナ。」
「ええええええ。違うよ。マスターが大きくなったんだよ!」
そう言いながら、体内から特大の鏡を取り出すエレナ。
自分の体の体積より、何倍もの大きさの鏡を取り出していた。
「ほら。」
そこには、四足歩行の巨大な黒狼がいたのだった。
その日、魔界で新たな巨獣が誕生したのだった。
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