35話 注意とデート

 今日は待ちに待った狂歌とデート日だ。


 ベッドから降りて服に着替えたあと、鏡の前で寝癖が無いか確認をして髪を整える。


「よし、これなら悪くないだろ」


 片目が見えない為、サングラスをつけてから、集合場所に向かう事にした。


 ここからそう遠くにはない場所だし、徒歩でも十分に間に合うだろう。


 家を出て歩いていると、周りからの視線を感じた。主に女性から。


『ねぇ。あれって黒騎士じゃない?』


『え。あ、嘘本当だ。』


『凄い筋肉。素敵。』


『やだ。あの人イケメン。タイプかも。』


 ――と囁き合ってる。


(おいおい。サングラスかけてるのにイケメンって決めつけるなよ。想像で勝手に美化さしてるだけだろ。)


 現地につくとまだ狂歌は来てないようだった。時計を見ると、どうやら俺が20分早く来てしまったようだ。


 することも無いので近くのベンチに座る。携帯をいじって時間をつぶしていると目の前に少年が現れた。


「なぁなぁ。兄ちゃんって黒騎士だよな。」


 小学生くらいの少年だろうか?まさか声を掛けられるとは思いもしなかった。


 少し驚いたな。俺のことに気付いても大半の人は遠巻きにヒソヒソとこちらのことを見つめてくるだけで終わるからだ。世間では俺は魔物だと思われている。だから近づきたくはないんだろう。


 現に今だって俺と少年のやり取りを遠巻きに見てくる人が多い。カメラを持ってこちらを写真で取ってくる奴だっているのだ。許可を取りやがれ。まったく。


「お、よく分かったな少年。名前はなんて言うんだ。」


「僕はね。リョウ。山田亮っていうんだ。」


 と元気よく答えた。


「おお。リョウ君か。いい名前だな。」


「ありがと兄ちゃん。」


「それで、どうしてお兄さんに声をかけたんだ?」


「えっとねー。サインください。」


 そう言ってお願いしてくる少年。


 手元を見るが色紙やボールペンなど見当たらない。


 きっとサインをお願いすればこちらが用意してくれると思ったのだろう。


(仕方ない。俺が用意してあげるか。)


 闇魔法を使って異空間から色紙とボールペンをその場で取り出す。


「おぉ。すげぇー。」


 目をキラキラさせた少年に見つめられる。周りも少し驚いたようだ。


(まぁその場でいきなり異能を使ったら誰だって驚くだろうな。)


 そう思いながら、色紙にサインを書いて少年にプレゼントした。


「はい。リョウ君どうぞ。あと、サインを貰う時は自分で用意しないと駄目だからな。」


「はーい。兄ちゃんありがとう。」


 そう言って母親らしき人物に向かって元気よく駆け出す少年。


(よく子供にサインをねだられるから用意しておいてよかったー。)


 と思っていると気付いた。


 少年が駆け出していることに。


 車が通ってなかったから緑だと思って確認をしていなかったのだろう。


 少年は既に信号を飛び出しており、車に轢かれそうになっていた。


 母親らしき人物は子供をかばおうとするが間に合わない。


 周りがその事に気付き顔を青ざめている。中にはこれから起こるであろう悲劇を予想し悲鳴をあげる者もいた。


 少年に気付いた車の運転手が急ブレーキをかけるが絶対に間に合わない。


 誰しもが予感する。少年は轢かれると。


(あぶねーな。俺じゃなかったら死んでるぞ。)


 そう思いながら『電流加速ライトニング アクセル』をして少年を救出する。


 加速した後に残る青い閃光。数メートル先に急停車した車。


「気をつけろ馬鹿野郎。死ぬぞ。次から気を付けやがれ。」


 と言いながら運転手は行ってしまった。


 俺は少年を両手に抱えて母親の前に渡す。


「ありがとうございます。ありがとうございます。」


 少年の母親に感謝される。少年をおろし注意をする。


「リョウ君。信号はちゃんと確認しないと駄目だぞ。分かったな?」


「うん」と言いながら母親に抱き泣きつく少年。


(まぁ。これで一件落着だな。)


 そう思っていると。


「うおー。すげーぞ黒騎士。」


「全然見えなかったぜ。」


「まじかよ。すげー。」


 周りが騒いでいる。


 あっという間に囲まれてしまった。


(これ。どうしよう。)


 困っていると


「あら?これは一体どういう状況なの?」


 私服姿の狂歌が集合場所に現れたのだった。




 ★☆★☆


 人込みから抜け出したあと、俺は狂歌とデートをすることにした。


 待っていた間に起こった出来事を話しながら食べ歩く。


「それにしても狂歌似合っているな。その、綺麗だよ。」


「そ、そうかしら?ありがとう。シンジもか、カッコいいわよ。」


 赤面しながら上目使いで見てくる狂歌。可愛い。


(女性からカッコいいって言われると悪い気はしないな。)


 黒いワンピース姿の狂歌。出る所は出てて、引っ込む所は引っ込んでいる。とても魅力的だった。


 現に今歩いている男性のほとんどが見惚れている。振り返った男性がカップルの女性に怒られていたり、電柱にぶつかっていたりと散々なことが起きている。ドンマイ。


(デートだから手を繋いだ方がいいよな?)


 俺から狂歌の手を繋いだ。


「な、なななな。」


 それに反応し赤面する狂歌。


「いいだろ?デートなんだし。」


「分かってるわよ。」


 そう言って握り返してくれた。


 その後、一緒に服を見たりカップル向けの店に行ったりして、あっという間に時間は過ぎて行った。


「楽しかったな狂歌。」


「ええ。そうね。楽しかったわ。」


(お互い楽しかったようで何よりだな。)


 歩いていると、ホテル街にいつの間にか入っていたようだ。


 周りには「60分○○円」「フリータイム○○円」などと書かれた看板が所狭しと置いてあった。


(ま、まずい。気が付いたらこんなところについてしまった。)


「い、いや。まさかこんなところに来ちゃうとはな。」


 と言いながら狂歌の手を引き道を引き返そうとしたが


「い、行かなくていいの?私は構わないわよ。」


 と赤面しながら狂歌に止められた。


 その場で狂歌と見つめ合うと、俺は近くのホテルに行く事にしたのだった。




 ★☆★☆


 事後。ホテルでのベッドで狂歌に腕枕をしていた。


「シンジ♡シンジ♡」


 抱き着き幸せそうな顔をする狂歌。


「シンジは絶対に私だけのものよ。他の2人に結婚までは許しても心までは奪わせないわ」


 そう言いながら顔に狂気を貼り付けてこちらを見つめてくる狂歌に、少しの危険を感じながらも美しいと感じてる自分がいたのだった。

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