26話 迷惑な話だ

 ランチュラを倒したあと、家に帰った。


 膨大な力が手に入ったのに、記憶までは引き継げなかった。


 アルフォースを喰った時は記憶まで流れ込んできたのにだ。


 考えても分からないので諦めた。


 きっとアルフォースは特別だったのだろう。そう思うことにした。


 闘気は奥の手だ。


 闘気を纏うと、全能感になることが出来る。全てが何でもできる気になるのだ。


 そして、周りが遅く感じる。


 スローモーションのように、こちらも遅くはなるが、意識出来るのと出来ないのでは雲泥の差がある。


 そして、ボロボロの状態で使うと、


 今回のおかげで、1分30秒まで闘気を使うことが出来るようになった。成長できた。


 家につくとみんないた。狂歌はソファーでくつろいでいた。美香とサラはゲームをしていた。


「ただいま」


 リビングに入った時に言う。


「「「おかえりー」」」


 皆からお帰りと言われる。


(何だか賑やかになったな。1人暮らしだった時とは大違いだ。)


 1人暮らしをしていた時は、暗く静かな部屋だった。


 家に帰って「ただいま」と言っても誰からも返事は帰ってこなかった。


 でも今は違う。みんながいる。共に支えあう大切な仲間がいるんだ。


 そのことを実感していると


「あら?あなた。もしかして進化しました?」


 リビングに入った時に、ソファーでくつろいでいたはずの狂歌に抱き着かれ、問われた。


「まぁな。幹部級が現れてな。倒すのに苦労したが、何とかなった。」


「大丈夫かしら?どこか怪我はない?」


 と言いながら体をベタベタ触ってくる狂歌。


 俺は『大丈夫だ。』とだけ告げて皆に話をする。


「みんな聞いてくれ。」


 その一言でみんなこちらを見てきた。


。」


 皆の息を飲む声が聞こえる。


「に、兄さん。それは本当ですか?」


「ああ。そうだ。魔王の命令で征服すると四天王は言っていたんだ。間違いない。」


 驚愕しながら、『それは本当なのか?』と問うてくるサラ。


「じゃあ、最近魔物の出現が増えてるのって...」


「ああ。そうだ。あれは侵略するためだったに違いない。軍勢で固まって総攻撃でも仕掛ければよかった。だがしなかった。そして出現地点もバラバラだった。つまり、魔界から人間界に移動する際に何かしらの制限でもあるんだろう。」


 考察し、美香の回答に答える。


 俺が魔人になる前までは、あまり魔物は出現しなかった。


 でも、俺が魔人となってから日に日に魔物の出現率が多くなり、世界各地で報告されるようになっている。


 


 アルフォースは自らを『七幹部』と言っていた。そして、今回現れた魔物は自らを『四天王』と言っていた。


 つまり、幹部の数が減っている。


 そして、アルフォースから流れてきた記憶には、魔王の名前は『捕食王』だったはずだ。


 だが、四天王は『獅子王』様と言っていた。


 魔王が変わったのだ。つまり、7幹部のうちの誰かが反逆を起こし、魔王になったということになる。


 そして反逆を起こしたのは、1人だけではないはずだ。


 圧倒的強さで幹部を従えていたことから、アルフォース以外が全員裏切ったということになる。


 そして7幹部の内、獅子の魔物と言えば1人しかいない。


『傲慢のゴルダック』だ。


 魔王になっても満足せず、今度は他の世界まで支配しようと考えたに違いない。


「まぁ。つまりだ。人間界に興味を持たれたっていうことだ。」


「迷惑な話ね。」


 狂歌が思っていたことを言ってくれた。


「今回奥の手で、ギリギリなんとか幹部を倒せたからいいが。幹部はあと3人もいるんだ。気を引き締めていくぞ。」


「分かったわ。」


「了解よ。」


「うん。分かった。」


 それぞれ気を引き締めていくことにした。




 ★☆★☆


 一方魔界では


 城の廊下で2人の魔物が歩きながら会話をしていた。


「カルマさんやぁ。ランチュラ見かけてねーかい?」


 人型のカメレオンがローブを纏った骸骨に話しかける。


「かっかっかっか。あやつならもう人間界に行ってしもうたわい。」


 尋ねられたことに対し答える骸骨。


「まじかよ。そりゃーねーぜ。手柄が欲しいからって抜け駆けかよ。」


「まぁ所詮は抜け駆けでもせんとわしらに追い付けんのじゃろうな。かっかっかっか。」


 笑いながらランチュラを馬鹿にしたように話す2人。


「まぁな。どっちかって言ったらあいつはのが向いてるからなぁ。なのにあいつ。討ち漏らしても、遠距離から攻め続ければいいのによぉ。」


「かっかっかっか。そうじゃのう。それにあやつだしのぉ。いい能力を持ってるのに宝の持ち腐れじゃ。かっかっかっか。」


 歩きながら、ランチュラの駄目な所を指摘しあう二人。


「そういえばリーダーは?ダルファーは来ないのか?」


 自分たちのリーダーが来ないことに疑問を持つカメレオン。


「ああ。リーダーなら遅れて来るそうじゃ。なんでも『我が行ってもすぐに終わってしまうだろう。そうなれば貴様らは手柄が取れん。それではつまらんだろう。先に行って手柄を立ててくるんだな。』と言っておったわい。かっかっかっか。」


『憤怒のダルファー』の言っていたことを真似する骸骨。


「優しいこって。流石は黄金世代の1人だな。格が違う。」


「そうじゃのう。異例の7幹部。誰もが魔王としての素質と力を持っておった。

 じゃが、それをまとめていた先代はもっとやばいじゃろうな。」


「ああ。黄金世代を相手に1人で戦い。全滅寸前にまで追い込んだ、先代はもっとやばいだろな。」


 想像し、畏怖する2人。当たり前である。


 黄金世代。それは7人全員が異質な能力を持っていた。


 誰もが魔王として相応しいほどの力と素質を持っていた。


『きっとこの中誰かが魔王になるだろう。』と思われていたのだ。


 しかし、王となったのは全くの別の魔物であった。人型の狼だった。


 彼は更なる異質な能力を持っていた。捕食だ。喰らった相手の能力を奪えたのだ。


 それが、先代の王『捕食王グレイブ』である。


 黄金世代は誰もが魔王並みの力を持っていたのだ。


 その内の6人を相手に1人で戦い半分以上は道ずれにしたのだ。


 それだけで先代の強さを物語っている。


「まぁ。気楽に行こうぜ。おっさん。」


「かっかっかっか。そうじゃのう。では行くとするかの人間界に。」


 2人は魔力を込め、空間を捻じ曲げるのであった。

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