第273話

「監視します、先輩達は何をしでかすか分からないので」


「それはご苦労様」


 この時俺は監視なんて言ってもどうせ直ぐに飽きてどこかに行くだろうとそう思っていた。

 しかし実際そうでは無かった。

 朝はもちろん、昼も下校の時間も初白は俺の前に現れた。


「お前さぁ暇なの?」


「先輩達が悪いんじゃないですか」


「いや……まぁそうだけど……」


 確かにそうだが、ここまで四六時中付きまとわれるとは思っても見なかった。

 まぁこいつも俺達を心配してこんな事をしているんだろうが……。


「初白、悪いがそんなことをされても俺も高弥も決着は付けに行くぞ。あんな勝負で俺達は負けたとは思ってないからな」


「ダメです」


「いや、でも……」


「ダメです!」


「うっ……」


 いくら説得しても初白はダメの一点張り。

 このまま殴り込みに行ったらついてきそうな勢いだ。

 しかし、初白以外にも問題はある。

 コッチの戦力だ。

 今日はそのことで一心に相談に向かっているのだが、それに初白までついて来て大変だ。


「いらっしゃ……あ、島並さん」


「よっ」


「お疲れ様です、もう傷の方は?」


「あぁ、なんとかな……悪かったな役にたたなくて」


「いえ、全然そんな事は! こっちこそすいません……俺達が貴方を巻き込んだばっかりに……」


「行くって決めたのは俺だ、お前のせいじゃない。それに悪いな……大事な特攻服血で汚しちまった」


「仕立て直しましたんで大丈夫です。そんな事よりも……隣の子は島並さんの彼女っすか?」


「あぁ、いやこいつは……」


「監視役です!」


「え?」


「はぁ……悪い詳しく話す」


 俺は一心に初白の事とこれからの事を話した。


「なるほど……確かにあの人数に加えて佐崎の持ってた拳銃、それに晴郎の腕力。確かに兵隊を揃える案には賛成です。問題はその兵隊をどこかたかき集めるかですが……」


「正直俺達にはそんな奴らは居ない。お前らはどうだ?」


「うちの所も集められて数人です。でも、このままじゃ更に被害が出ちまう……」


「俺達でやるしかねぇか……」


「いや、やらせませんよ」


 俺と一心の会話に初白が割って入って来た。

 まぁ、そう言うよな……。


「初白。このままじゃ危ないんだ、分かってくれ」


「だから、警察だって動いてるんです。そっちに任せれば良いでしょ!」


「そうもいかねーんだよ! 警察だって未成年相手にそこまで大きく動くには時間が掛かる。その間も被害は広がるんだぞ!」


「だからって先輩はするべきことじゃないはずです!」


 初白はそう言うと一心の方に向き直り、一心に向かっていう。

 

「先輩は普通の人なんです! だから貴方たちの喧嘩に巻き込まないで下さい!!」


「………」


「おい、初白。これはもう俺に関係ない話じゃ……」


「先輩は黙ってて下さい!」


 初白は本気で怒っていた。

 これ以上俺が危険に足を突っ込まないように必死なのが表情から伝わってきた。

 怒りと不安の入り混じったような表情を見て俺も一心も何も言えなかった。


「すいません」


 沈黙の中最初に声を出したのは一心だった。

 頭を下げ初白に向かって一言そう言った。

 

「謝っても先輩は連れていかせません」


「分かってます。でも俺達にはこの人が必要なんです」


「最近知り合った人に先輩の何が分かるっていうんですか! 先輩は馬鹿なんですよ! 頼まれたらどうでも良い人でも助けに行くような馬鹿なんです! 貴方がそんなお願いを先輩にするから……先輩はまた死にそうになったんです!」


「……初白」


 感情的になりながら話す初白の目には大粒の涙が流れていた。

 なんでいつも俺を馬鹿にしてきて、俺を一番心配してなさそうな感じのこいつが……こんなに一生懸命なんだよ……。

 俺はそんな事を思いながら、初白の頭に手を置いた。


「な、なんですか……」


「ありがとな……心配してくれて」


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