第270話


 警察沙汰になり、ノーネームは更に警戒されることになった。

 俺は腹部を撃たれて入院したが、銃弾が貫通していたこともあり大事には至らなかった。

 高弥も頭を切っただけで大した怪我ではなかった。

 町では相変らずノーネームの奴らがデカい顔で歩いているらしい。


「かなり大事になって来てるな」


「あぁ、まさか拳銃を持ってるなんて思わないからな」


 警察署長の息子である高弥はそんな事を言いながら、頭に巻かれた包帯を取っていた。

 今日は俺達の退院の日だ。

 あの日、初白から俺は散々頬を叩かれリスのように腫れあがった。

 そんな場面に不運に両親が到着し、初白と一緒になって俺を叱るので精神的にかなり来るものがあった。

 

「そういえばあの子は大丈夫なのか?」


「あの子って?」


「お前の家に今いる倉敷さんだよ」


「父さんは問題ないって言ってるよ。流石に僕たちの事があったからかなり警察も警戒してるみたい」


「そうか……しっかし、お前がまさか女子の為に一人で突っ込むなんて……一体どういう風の吹き回しだ?」


「誰かさんの悪い癖がうつっちゃったのかな?」


「誰だよ、そんな馬鹿居るか?」


「そうだね、確かに馬鹿かもね、自分の事を言われてるのに気が付かないし」


「え?」


「なんでもないよ。なんか彼女はさ……放っておけないんだよ」


 そう言いながら高弥は包帯を外し、着替えを始めた。

 放っておけないか……昔のあいつからは考えられない言葉だな。

 俺がそんな事を考えていると、病室の扉が二回ノックされゆっくり開いた。

 噂をすればなんとやらとは良く言ったものだ、そこに居たのは今話題に上がっていた倉敷だった。


「アンタ……もう良いの?」


「え? あぁ、うん。僕は頭を切っただけだから、いやぁ~それにしてもカッコ悪いよね。君を助けたくて乗り込んだのに……」


「………馬鹿じゃないの……なんで私なんかの為にこんなことするのよ!!」


「困ってる人を助けるのに理由なんている?」


「度合いを考えなさいよ! アンタには関係ない事でしょ! 何もしなければアンタが痛い目に合うことなんて……」


「そうだよね……昔僕もそう言ったよ」


 二人でなんだか揉めているので、俺は少しその場に居ずらくなりそっと病室を後にした飲み物を買いに向かった。

 まだ脇腹は痛むがそこまでではない。

 

「また学校休んじまったし、そろそろ勉強も遅れそうだな……」


 なんて事を考えながら歩いていると、曲がり角から誰かが飛び出してきた。

 俺は急な事で驚き思わず声を上げてしまった。


「うぉっ!」


「あ、す…すいませ……って島並さん!?」


「え? あぁ、城埼さん」


 角であったのは城埼さんだった。

 恐らく俺のお見舞いに来てくれたのだろう。


「大丈夫なんですか!? 撃たれたって聞きましたけど!?」


「あぁ、大丈夫だよ。俺人より頑丈だから」


「……でも…心配です」


「あぁ……」


 初白に言われて考えてはいたが……やっぱり城埼さんも相当心配したみたいだ。

 いつもの元気な様子じゃないし、それに気のせいだか顔が少し疲れている気がする。

 やっぱり俺のせいだよなぁ……。


「ごめんね、心配掛けて」


「……あまりその……危険なことはしないで欲しいです」


「うん……出来るだけそうするよ」


 俺は城埼さんを連れて談話室に向かった。

 病室ではまだ高弥が倉敷と話しているだろうと思ったからだ。

 飲み物を買い、俺は談話室で久しぶりに城崎さんとちゃんと話しをした。


「私の気持ち……もう知ってますよね?」


「……うん」


「じゃぁ、今回どれくらい私が心配したかも……想像できますよね?」


「もちろん。本当にごめん」


 好きな人が怪我をしたと知ったら誰だって心配になる。

 それは男も女も同じだ。




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