第230話
「だから妹さんは、もう臓器提供を受けても無駄と分かった自分の身体から生きている臓器をお前に移植しようと提案したんだ」
「そんな話しを信じるものか! それに妹だった臓器移植を受ければ助かったと!!」
「そんな都合よく臓器が準備できると思うか?」
そう言うと柳は膝から崩れ落ち、涙を流しながら俺に尋ねた。
「じゃぁ…なんだ……私は十数年間も勘違いであの男を恨んでいたのか……なんであの男は本当の事を言わず! 私を放って置いたのだ!!」
「……そんなの愛してたからだろ……アンタの妹さんを……」
「私は裏の人間まで雇ってあいつを殺そうとした事もあった! なのに……なのになぜだ!!」
「……ここに来る前、俺は高柳家の当主と話をしてきた……言ってたぜ……あの時奥さんを救えなかったのは自分だって……だから、アンタに何も言うことが出来ないって……」
きっと高柳家の当主は奥さんの死が自分にも責任があると重く受け止めているんだろう。
「アンタら兄妹が病気に感染した時の食事会は、そもそも高柳家と柳家にある昔からの関係を良い方に持っていこうとして開かれたものだって聞いたぞ……」
「そうだ……高柳のあの男が妹を嫁に取り、両家のパワーバランスを均等にしようとしたんだ……だが、その会食の席で妹は死んだ……当然、両家の仲は以前に増して悪くなった」
「アンタは高柳家の誰かが料理に毒を盛ったと思っていたんだってな……」
「あぁ……しかし、調べて行くうちにあの会食が失敗することで高柳の当主には何のメリットもない、むしろ不利になる状況しかなかった……」
きっと、この男は愛する妹を失った責任を誰かに押し付けたかったのかもしれない。
だから高柳家の当主に責任を押し付け、恨むことによって生きる意味を見いだしていたのかもしれない。
「……お前のやったことは謝って許される事じゃない……しっかり罪を償ってくれ」
「……あぁ、お前の話しが……本当ならな」
「なっ! お、お前!!」
「平斗、構えろ!」
柳はそう言いながら先ほど佐久間が使用したのと同じ注射器を取り出し首元に持っていく。
「お前の言ったことなど全て嘘だ! 信じない! いや、信じちゃいけない! もう戻れない、私はもう戻れない!!」
「よせっ! まだ戻れる!」
「うるさい! あの男が殺したんだ! あの男を殺すんだ!!」
柳はそう言いながら首に注射器を打ち込んだ。
すると柳の身体は見る見る膨らみ、佐久間以上の大男になった。
予想するに薬の効果が佐久間よりも聞いているのだろう。
「お前たちも殺す……そして、あの子だけは……妹が残した子だけは私が……」
「何馬鹿言ってんだ! それでお前の妹さんが喜ぶとでも思ってるのか!!」
「平斗!!」
そう言った瞬間、俺の横腹に重たい衝撃が走る。
俺はそのまま倒れ込んだ。
「かはっ! な、なんだ……この力……」
衝撃の正体は柳の蹴りだった。
佐久間よりも素早く俺に近付き、佐久間以上のパワーで俺を蹴り飛ばしたのだ。
「次は……仕留めるぞ」
「くっ……平斗、やるしかない! なんとか柳を気絶させよう!」
「わ、分かってる……」
だがどうする?
パワーもスピードも佐久間以上だ。
しかもこっちはさっきの佐久間との戦いで体力だって消耗している。
だけど……。
「仕方ない……高弥タイミングを合わせられるか?」
「合わせるよ、何年一緒だと思ってるんだい?」
「確かにな……じゃぁ行くぞ!」
「あぁ、いつでも!」
高弥の言葉と同時俺たちは駆け出した。
そして……。
「平斗!」
「サンキュー借りるぜ!」
俺は高弥から木刀を受け取る。
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