第229話 妹から兄へ

「ガキが大人の事情に首をツッコむんじゃねぇよ!」


「つっこませてんのはてめぇら大人だろうが!!」


 殴り合う俺と佐久間。

 体格は薬のせいで佐久間の方が良い、パワーも元々俺の方が負けてる。

 そんな佐久間と正面から殴り合って無事で済むわけない。

 実際殴られた左頬に感じた痛みは相当だった。

 だが、おかげで佐久間の懐に入れた。


「ふんっ!!」


「んがっ!? あ……て、てめぇ……」


「がはっ……」


 俺は殴られた瞬間、素早く喉仏に拳を食らわせる。

 喉仏は何度も衝撃を加えられると呼吸困難に陥ると言われるほど危険な箇所だ。

 一回の攻撃でも息を詰まらせることが出来る。


「かはっ! かはっ!!」


「今だ高弥!!」


「あぁ!!」


 俺がそう言った瞬間、中庭から高弥が屋敷の中に戻って来た。

 佐久間の背後に回り大きく木刀を振りかぶる。


「はぁぁぁぁっ!!」


「ぐあっ!」


 高弥は飛び上がり、佐久間の頭をに叩きつけるように木刀を振り下ろした。

 その衝撃に佐久間は一瞬ふらりと足をふらつかせる。


「平斗!」


「分かってる!」


 佐久間が体制を立て直す前に今度は俺が佐久間の顎目掛けて拳を振るう。

 

「なっ………」


 俺の拳は佐久間の顎に当たった。

 その瞬間、まるで糸が切れたように佐久間はその場に倒れ込んだ。

 

「はぁ……はぁ……な、なんとかなった……」


「顎の骨が折れたかな?」


「いや、身体を強化していると考えるとそれはないだろう。恐らくしばらくしたら起きちまう」


「じゃぁ、とっとと済ませようか」


「あぁ」


 俺と高弥は倒れた佐久間を横目に柳健三に近付く。


「まさか、あの薬を使った佐久間をこうも簡単に」


「簡単では無かったよ」


「僕は吹っ飛ばされたしね」


「さて……今度はアンタの番だ」


「ふっ……子供が一体何をする気だ? 佐久間同様に私をボコボコにでもするか? それとも警察に突き出すか?」


 柳を見る限り柳本人に戦闘出来るだけの力はない。

 警察に突き出すのも簡単だが、いろいろと俺は高柳家と柳の事情を知ってしまった。

 だから、俺はこいつに合ったら絶対に言おうと決めていた。


「アンタ……妹さんが死んだ時、アンタも病気だったんだってな」


「……そうだが? それと現在の状況の何が関係あるというんだ?」


「アンタも死にかけて居たと聞いたが?」


「あぁ、臓器移植が必要なレベルだったが運良くドナーが見つかってね」


「……そのドナーが誰なのかは聞いて居るのか?」


「いや、ただ女性であったということだけを……ま、まさか……いや、そんな馬鹿な………」


 俺が途中まで話すと柳は何かを察したらしく、わなわなと方を振るわせて一人言を呟き始めた。


「ありえない! そんな馬鹿な話し!!」


「……アンタが思っている通りだよ……ドナーになったのは同じく病気で死にそうだったお前の妹だ」


「嘘だ! ありえない! ならなぜそのことを親族の私に伝えない!!」


「妹さんの最後の願いだったらしい……きっと真実を知れば、お前が自分のせいで妹を殺したと自分を責めてしまうからと……高柳家の当主や当時の主治医はお前にだけこの事実を隠蔽したんだ」


「嘘をつくな!! 妹を殺したのはあの男だ! 高柳の男が!! 全てを奪ったんだ!」


 俺が聞いた話しはこうだった。

 当時、久しぶり兄妹で会食をしていた柳兄妹は会食後原因不明の病に倒れた。

 病名は不明で全くの未知のウイルスに意思も頭を悩ませた。

 しかも症状の出方も個人によって差があり、ウイルスによって内臓を破壊されていた柳健三はかなりの重症だった。

 このままでは命が危なく、直ぐに臓器移植が必要だった。

 しかし、そんな都合よく直ぐに都合よく健康な臓器が見つかるはずもなく、このままでは柳健三は死を待つ他なかった。

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