第7話 華明凛
「翠嵐の字でしょうか」
任せていた仕事は三日ほどかかると考えていたがもう終わったらしい。優秀な二人には後でなにか褒美を用意しようと心に誓い、玉鈴は椅子に腰掛け、紙の束を読み始めた。
***
王都、
毒殺された華宝林は西市生まれ。本名は
待望の娘である明凛が生まれてからはお妃教育として
そして、入宮計画は白紙になったと思われたが顧客である貴族の華氏が明凛の器量の良さ、気立ての良さを気に入り、義理の娘として迎え入れたいと申し出たことで状況は一変した。貴族の娘として姓を変えた明凛はとんとん拍子に入宮が決まり、末席ではあるが宝林の位を与えられた。
続いて玉鈴は親族の欄に目を走らせた。まずは朱家の方である。男系家族というのか三頭親に至るまで男ばかり生まれており、明凛は六十年ぶりに生誕した女児だった。両親は今も健在しているらしく西市の一角に店を構えていると記されている。明凛との仲も悪くはなく、時折、書簡を交わしていたようだ。
続いて華氏を見た。現在当主の席に腰を下ろしている
「やはり、違いました」
両家の親族の生存の有無、死没場所を指でなぞり、彼女がいないことに玉鈴は悲しげに睫毛を伏せた。
明凛は似ていた。母として育ててくれた女性に。清廉な美貌もそうだが時折見せる仕草があまりにも彼女と重なったので血縁関係ではないかと疑ったが資料を見る限り、それはないと確信を持って言える。
——高舜様の言っていたことは本当でした。やはり、彼はいつも正しい。
玉鈴が柳貴妃として召し上げられたその日、高舜は「特定の妃嬪や官を
玉鈴自身、自分の立場を理解し、友人の頼みだから従っていた。けれど一人、華明凛だけはそれとなく気にかけていた。直接話しをしたことはないがいつも影ながら見守っていた。動物の死骸を放置した犯人が明凛であると知った時も怒りや悲しみより、明鳳から
しかし、今になって思えば高舜のいう通り、贔屓しなければよかった。そうすれば彼女は死なずにすんだ。
——僕が邪魔だった?
ふと、そんな考えが巡る。蠱毒を操る犯人の目的は自分の廃妃なのではないだろうか。罪のない妃嬪を殺害し、その罪を自分に着せれば廃妃は
——そんなに僕が憎いのでしょうか……。
追放された柳家の末裔が今、どれだけ生き残っているのか分からないがどんな目に遭っているかは簡単に想像につく。黒髪黒目が多い亜国内において龍の身体的特徴はとても目立つ。蛇男と蔑まれた自分がそうだったように、きっと彼らも苦しんでいるに違いない。
そんな彼らからして見れば龍の子として担ぎ上げられ、後宮で悠々自適に贅沢三昧の生活を送る自分は嫌悪の対象に十分なりえるだろう。
——けど、それは憶測です。憶測で決めつけるのはよくありません。
「……一体、何が目的なんですかね」
重々しいため息を吐きながら玉鈴は卓に突っ伏した。
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