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第447話 F級の僕は、ユーリヤさんと再び月下に語り合う
第447話 F級の僕は、ユーリヤさんと再び月下に語り合う
6月17日 水曜日61
ネルガル大陸中央部を東西に横断する6,000m級の山々、通称
魔の森とは、この大森林地帯の一角、未だ解明されていない未知の要因により、妖樹と呼ばれる巨木が
この地のモンスター達は、古来より何度もスタンピードを引き起こしてきた。
そしてその
500年前、魔王軍を駆逐し、ネルガル大陸を制覇して建国された帝国は、当然ながら、魔の森の完全制圧も目指して何度もこの地に攻め込み、入植地を築こうと試みた。
しかしその試みは
出席者達が次々と発言していく。
「彼の地が魔の森のいずこかであると仮定して、アルラトゥはなぜ、彼の地に転移門を二つ設置したのでしょうか?」
「奴は“エレシュキガル”を名乗り、
「しかし魔力に秀でた人モドキ共といえど、魔の森に恒常的に拠点を構えるのは難しいはず」
「そうとも言い切れぬ。確か20年ほど前だったか……魔の森奥深くに攻め入った帝国英雄、イヴァン将軍閣下が、隠れ住んでいたダークエルフ共を滅ぼした事例もある。それに、モエシアの地で殿下の御一行を襲撃してきた
街の商業ギルドの会頭だという、やや肥えた初老の男性が、
しかし僕の方は、それどころではなくなっていた。
イヴァン……
滅ぼされたダークエルフ達……
彼の言葉の一つ一つが、僕の心を凄まじい激痛を伴って突き刺していく。
表情が引きつり、込み上げて来る得体の知れない感情で、全身が震え出そうとするのを必死で抑え込みながら、僕は無理矢理作った笑顔でその場の人々に告げた。
「すみません。ちょっと……お手洗いに行かせてもらってもいいですか?」
シードルさんが立ち上がり、政庁の職員に案内するよう告げるのを無理矢理固辞した僕は、一人で廊下に出た。
執務室で有力者達による会議が行われているからであろう。
遅い時間帯であるにも関わらず、廊下には、何人かの守衛達の姿が有った。
僕は彼等に軽く会釈した後、
そして途中、人影が途絶えた時点で、その場にしゃがみ込んでしまった。
頭では理解していたとはいえ、商業ギルドの会頭の発言は、改めてあの惨劇が、確かにこの地で起こった現実だった事を、
あの惨劇で人生を狂わされたメルは……
大切な人々の命を奪った憎むべき敵にすら優しさを向けていたはずのあのメルは、“エレシュキガル”を名乗り、この大陸に混乱を
にもかかわらず、あの惨劇を引き起こした張本人とも言えるイヴァンは、帝国英雄等と尊称を受け、今もここ帝国のどこかで、のうのうと生きているらしい。
イヴァンにとっては20年以上前の話なのかもしれない。
だけど今の僕にとっては、ほんの数時間前に体験させられたばかりであるあの惨劇!
……だめだ。
これ以上ここに留まっていても、このままでは、僕は一歩も前に進めない。
僕はインベントリを呼び出した。
そしてそこから、収納していた『追想の琥珀』を取り出した。
確かこれを手にして念じたら……
僕は今すぐ州都モエシアに向かいたい、と願ってみた。
しかし、僕が期待したようなメッセージウインドウはポップアップしない。
もしかすると、この『追想の琥珀』による【転移】は、あの世界限定だったのかもしれない。
仕方ない。
オロバスを召喚して、今から昼夜兼行で駆けさせれば、明後日あたりには……
「タカシ殿?」
ふいに声を掛けられた僕は、慌てて立ち上がった。
振り返った先には、心配そうな表情のユーリヤさんが一人で立っていた。
「す、すみません。ちょっと体調が悪くなって……休んでいました。もう大丈夫なので……」
取り
そして彼女はそのままスタスタ、僕を引き
「ユ、ユーリヤさん?」
しかし彼女は言葉を返す事無く、そのまま執務室の前まで歩いて行くと、扉の傍に立つ守衛に声を掛けた。
「申し訳ないのですが、私とタカシ殿は、少し休憩を取らせて頂きます。その旨、出席者の皆さんに伝えて下さい。私達が居ない間、出席者の方々も
「かしこまりました」
姿勢を正す守衛が扉を開け、執務室に入って行くのを確かめる
そのまま扉を開け、慌てて駆け寄って来る政庁の職員達をやんわりといなしつつ、彼女は僕を政庁の庭の片隅まで連れて行った。
手入れの行き届いた植栽に囲まれたその場所に、他の人影は無く、ただ二つの月が僕等を照らし出していた。
彼女は僕の手を離すと、やおら語り始めた。
「前にもお話しましたが、私の母エミリアは
彼女は手近の植栽にそっと手を伸ばしながら、言葉を続けた。
「
ユーリヤさんの表情が寂しげな物へと変わって行く。
「でもこれは仕方がない事です。私がハーフエルフであり、皇帝の長女であり、その後継者に指名されている事は、私自身の力ではどうしようもない事ですから。あ、皇太女を辞める事だけは、私が望めば、かなってしまうかもしれませんけれど」
ユーリヤさんは一瞬寂しげな笑みを浮かべた後、僕に優しい視線を向けて来た。
「でもあなたは違った」
「……違った、とは?」
「あなたは私が素性を明かした後も、ずっと変わらず、私をユーリヤという一人の人間……あ、これはあくまでも用語であって、種族としての
確かに僕は彼女と接する時、彼女がハーフエルフだとか、皇太女だとか、そんな事をいちいち気にはしていなかったけれど。
だけどそれはきっと、僕自身が20年間生きてきた環境に起因しているはず。
人類はホモサピエンス一種類しか存在しない地球という世界。
厳格な身分制とは無縁な日本という国家。
「それは買いかぶりですよ。もし僕がこの国で生まれ育っていたら、皇太女としてのユーリヤさんを意識しない訳にはいかなかったと思いますよ」
ユーリヤさんが悪戯っぽい笑顔になった。
「あら? やっぱり私の事、皇太女扱いしてくれてなかったんですね?」
ここは一応、謝っておくべきところなのだろうか?
ユーリヤさんの真意を測りかねていると、彼女が吹き出した。
「そんな顔しないで下さい。まあ一つ言えるのは、私はあなたと話す時、とてもリラックス出来て楽しかったという事です」
「……ありがとうございます」
「ですが……」
彼女の表情が曇った。
「今のあなたからは……悲しい事ですが、大きな壁を感じます。あなたにとって、いきなり……私を含めて“帝国”という看板を背負った存在そのものが、大きな心理的負担に変わってしまったような……」
「それは……」
しかしそれに続けるべき否定の言葉が上手く出てこない。
それはつまり、彼女の言葉が核心をついている事を意味するわけで……
「タカシさん!」
ユーリヤさんが僕にずいっとにじり寄ってきた。
思わず
「最初の転移門を
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