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第407話 F級の僕は、謎の“精霊”と会話を交わす
第407話 F級の僕は、謎の“精霊”と会話を交わす
6月17日 水曜日21
ティーナさんと関谷さんに合流した僕は、改めて二人の様子を観察してみた。
二人に特に憔悴した雰囲気は感じられない。
つまり二人のHPなりMPなりが、撤退を考えないといけなくなるほど実は僕の知らない間に損耗していた、なんて事態になっている訳では無さそうだ。
「違和感有るから撤退しようって言っていたけど?」
僕の問い掛けにティーナさんが口を開いた。
「アレを見て下サイ」
ティーナさんの指さす先、ブエル(?)は炎の残像を引き摺りながら目にも止まらない速度で縦横無尽に転げ回っている。
因みに【影】3体の召喚は、二人と合流した時に停止した。
「確かにちょっと奇妙だけど……」
一見奇妙で意図不明に見えても、あれが実はブエル(?)の攻撃準備かもしれない。
例えば隙を見て強烈な体当たりを仕掛けてくるつもり……とか。
いずれにせよ、撤退を考えなければならなくなる程違和感がある状態とは思えない。
あ!
もしかして……!?
僕は心の中でスキルを発動した。
「【看破】……」
しかし周囲の情景に変化は生じない。
別段、僕が幻惑の檻に捕らわれて、一人逃げ出そうとしているという滑稽な状況に陥っている訳では無いようだ。
「とニカク、一度ここから出マショウ。私が抱いた違和感にツイテも後で説明しマスカら」
ティーナさんの言葉を聞きながら、僕は再びブエル(?)に視線を向けた。
僕等の会話中も、ブエル(?)は僕等そっちのけで、少し離れた場所を出鱈目に転がり続けている。
つまり今の状態では、ブエル(?)に対して干渉出来る何か有効な手段を、少なくとも僕は持ち合わせていない、という事だ。
そしてティーナさんと関谷さんの二人ともが、撤退するべきと考えている。
仕方ない。
仕切り直すしかないかな。
「それじゃあワームホールを……」
……宜しく、と言いかけて苦笑した。
関谷さんが一緒に居る今、ここからの
僕は改めてインベントリから黒い立方体、『ティーナの重力波発生装置』を取り出した。
そしてそこにMPを込めようとした時、ふいに声が聞こえた。
―――困っているようじゃな……
「!?」
僕は思わず周囲に視線を向けた。
僕等以外――ブエル(?)を除いて――他には誰も居ない。
「どうしたの?」
僕の挙動が若干不審に見えたのだろう。
関谷さんが心配そうにたずねてきた。
「いや、今声が……」
「声?」
改めて二人に視線を向けてみたけれど、変わった様子は見られない。
「ごめん。空耳だったみたいだ」
謎の空間と奇妙な動きを続けるブエル(?)といった組み合わせが、僕の精神状態に何らかの影響を与えているのかもしれない。
やっぱり撤退して仕切り直すのが、最良の選択って事だろう。
―――聞こえておるなら、返事位したらどうじゃ?
「!!?」
自分の眉根が大きく跳ね上がるのが分かった。
「大丈夫デスか?」
ティーナさんが怪訝そうな顔で声を掛けて来た。
しかし彼女に言葉を返す心の余裕も無いまま、僕は今連続して聞こえた声を思い返してみた。
年齢はおろか、性別すら判別不能な不思議な声。
―――おお~い! まさか聞こえておらぬのか?
少なくとも幻聴では無いようだ。
かといって、アリアやエレンと交わす念話とも異なる不思議な聞こえ方の声。
この声の主について、僕の心の中で“ある疑念”が急速に膨れ上がって来た。
まさか、この声……
「エレシュキガルか!?」
僕の視界の中、僕の言葉を聞いたティーナさんと関谷さんの顔に緊張が走るのが見えた。
―――なんじゃ、ちゃんと聞こえておるでは無いか。ちと心配したぞ。
「何の用だ? どこから僕に呼びかけている!?」
「中村サン……」
ティーナさんが緊張した面持ちのまま、僕に顔を寄せて来た。
「マサか、エレシュキガルからコンタクトを受けテイマすか?」
ティーナさんの言葉に被せるように、謎の声が聞こえてきた。
―――えらく好戦的な態度じゃのう。
僕は目を閉じて一度深呼吸した。
そして少し心を落ち着けてから、ティーナさんと関谷さんにたずねてみた。
「今、正体不明の存在から呼びかけられているみたいだ。
二人がほぼ同時に首を横に振った。
ティーナさんが周囲を
「中村サンに届いテイる“声”、私には聞こエマセンが、エレシュキガルの可能性がある、とイウ理解で合っていマスカ?」
僕は
「可能性は有ると思う。もう少し会話してみるよ」
謎の声が僕の言葉に反応した。
―――可能性とは何の話じゃ? 他にも誰かそこにおるのか?
僕はティーナさんと関谷さん、二人に聞こえるような声で言葉を返した。
「お前は何者だ? どこから僕に呼びかけている?」
―――その好戦的な態度、どうにかならぬか?
「正体不明の相手に呼びかけられて、にこにこ愛想は振り
特にこいつがエレシュキガル、或いはその代弁者的立ち位置の相手なら、馴れ合う事は絶対に不可能だ。
―――まあ、それはその通りじゃな。
あれ?
なんか意外と物分かりが良い?
―――では改めて自己紹介しよう。
「精霊?」
精霊……光の巫女を始めとしたアールヴの王族達、そしてエレンが心を通わせる事の出来る存在。
かつて僕も500年前のあの世界で、期間限定的に付与されていた{
―――そうじゃ。付け加えれば、さっきからおぬしが口にしておるエレシュキガルとは無関係じゃ。というか、あんなやつの関係者と思われるのは迷惑千万な話じゃ。
僕は傍に居る二人に囁いた。
「謎の声の相手、自分はエレシュキガルとは無関係な精霊だって言って……」
謎の声が聞こえていないらしい二人に会話の内容を説明しようとした矢先、謎の声が
―――ちと確認しておきたいのじゃが、おぬし、そばに誰かおるのか?
?
そばに?
さっきも同じ事聞いてこなかったっけ?
そばには当然、ティーナさんと関谷さんがいるわけで……
答えようとして、僕は不思議な事に気が付いた。
僕と会話が成立している謎の声の主――精霊?――には、どうやら僕の周囲の状況は見えていないようだ。
そして、エレンなんかと交わす念話と違って、心の中の考えは、相手には伝わらず、声に出した言葉のみが純粋に相手に伝わっている感じだ。
それはすなわち、“精霊”が盲目でない限り、“精霊”は僕、或いは僕の仲間達の姿を直接視認せず、だけど僕の声だけは聞こえて、かつ僕だけに声を届けている事になる。
これはどういう状況だろうか?
「あなたからは僕の姿は見えていない……って事で合っていますか?」
―――そうじゃ。
「ではどこから、どうやって僕に話しかけていますか?」
―――うむ。よくぞ聞いてくれた。
どうでもいいけど、いちいちなんだか尊大だ。
まあ、精霊と実際会話――相手が本当に“精霊”だとしたら、だけど――を交わすのは初めてだし、元々種族的にこういう話し方、なのかもしれないけれど。
―――
『精霊の鏡』に封じられた精霊!?
『精霊の鏡』は、僕が富士第一100層を目指す最大の動機となったアイテムだ。
エレンからは、『精霊の鏡』に封じられた精霊と契約出来れば、『エレンの腕輪』の性能を飛躍的に向上させる事が可能だと
謎の声の主がその精霊自身だと語るのを聞いて、僕の心臓の鼓動が知らず早くなっていく。
そんな僕の心の動きを知る由も無いであろう“精霊”が言葉を続けた。
―――で、話を戻すが、おぬしのそばに、他に誰かおるのか?
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