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第388話 F級の僕は、ティーナさんにプレゼントを渡す
第388話 F級の僕は、ティーナさんにプレゼントを渡す
6月17日 水曜日2
「君にアルラトゥの監視をお願いしたいんだ」
僕の言葉を聞いたターリ・ナハの目が細くなった。
「アルラトゥさんを監視……ですか?」
「実はね……」
僕はアルラトゥに対するララノアの懸念について説明した。
「それでユーリヤさんからの提案もあって、今日の捜索で、アルラトゥと君を一緒の隊に配属するから、アルラトゥの様子をそれとなく監視というか、観察しておいて欲しいんだ」
「分かりました」
「あ! でもあくまでも“監視”するだけにしておいて。万が一、アルラトゥが何かをしている事に気付いても、自分で何とかしようとせず、必ずここへ戻って来て、僕やユーリヤさんに報告する事を最優先にして欲しいんだ」
「ふふふ、ご安心下さい。自分の力量をそこまでは過信していないつもりですよ」
まあターリ・ナハは僕よりも年下だけどはるかにしっかりしているし、彼女に任せておけば、心配ないだろう。
そもそもアルラトゥが何か――例えば魔法的な痕跡を拭い去った、とか――に関与している可能性の方が低いだろうし。
「それじゃあ僕はまた
「はい。それではお気を付けて」
【異世界転移】で地球のボロアパートの部屋の中に戻って来た時、時刻は午前8時40分になっていた。
僕はインベントリから『ティーナの無線機』を取り出すと右耳に装着した。
「ティーナ……」
待ち構えていたようにティーナさんの囁きが戻って来た。
『Takashi、おかえり。今は部屋?』
「そうだよ」
『そっちに行っても大丈夫?』
「もちろん」
言葉を返すとすぐに、部屋の一角の空間が渦を巻きながら歪みだした。
そして生成したワームホールを潜り抜けて、ティーナさんが僕の部屋へとやって来た。
今日の彼女は銀色の戦闘服を身に付け、白い立方体――
「おはようティーナ……って、どうしてその格好?」
なんだか今から富士第一へ行きそうな格好だけど?
僕の疑問をティーナさんがそのまま肯定してくれた。
「もちろん富士第一のgatekeeper達を斃しに行くからよ」
「昨日は富士第一に行く前に、僕に誰かを会わせたいって話して無かったっけ?」
「会わせたい人物がいるのは本当よ。だけどよく考えたら時間がちょっとね」
「時間? もしかして凄く忙しい人?」
ティーナさんが笑顔で首を振った。
「今はまだ寝ていると思うのよね」
寝ている?
もしかして……
「ちなみにどこの国の人?」
「Indiaよ」
「インディアって……インド!?」
「そうよ。で、Indiaは日本よりさらに3時間半遅れているから、今向こうは……」
ティーナさんが、チラッと机の上の目覚まし時計に視線を向けてから言葉を続けた。
「5時過ぎでしょ? 早朝に押しかけて起こすのも可哀そうだから、行くのは1時間位後の方がいいと思うのよね。その間、二人でお洒落なcafeでお喋りするのも魅力的だけど、せっかくだから富士第一に行ってみない?」
時間つぶしの選択肢に、お洒落なカフェはともかく、富士第一が並んで提示されている事に、僕は思わず苦笑してしまった。
「まあいいけど」
「Takashiは何時までに
「一応、
「OK! なら全然大丈夫ね」
「それじゃあどうしようか……って、そうそう、ティーナに……」
僕は話しながらインベントリを呼び出した。
そして中から昨日の戦功に対する報酬としてもらった『センチピードの外殻』14個と『ガーゴイルの彫像』15個を取り出した。
「これ、昨日話していたティーナへのプレゼント」
ティーナさんの目が輝いた。
「これ、“今の”isdifuiで入手してきたのよね?」
「そうだよ。まあ正確には一昨日だけど」
ティーナさんが、『センチピードの外殻』を1個手に取り
「見た感じも魔力の帯び方も、富士第一で入手した物と全く同じね。あとは……compare the existence ratio of radioactive isotopes……」
これは自分の世界に入り込んでいるな?
なにはともあれ、思った以上に喜んでくれているようだ。
「どう? 役に立ちそう?」
僕の声掛けに、ハッとしたように顔を上げたティーナさんが、はにかんだような笑顔になった。
「もちろんよ。さすがは私のboyfriendね。出来る男性って素敵よ」
「……それで、こっちはどう?」
ティーナさんが身を寄せて来るのをさりげなく
ティーナさんは、その中の一つを手に取ると、色々いじり始めた。
「これって、念じればガーゴイルが召喚出来るの?」
僕は頷いた。
「MP不要で召喚して、敵と戦わせる事が出来るよ。ただし、斃されなくても10分で自動的に消滅するけど」
「凄いじゃない」
ティーナさんは、僕が床に並べた『ガーゴイルの彫像』15個にもう一度視線を向けた。
「コレ、何個もらっていいの?」
「欲しかったら全部上げるよ」
まあ召喚出来るのは高々レベル81のガーゴイルだ。
有れば便利だけど、無くても全然困らない。
ティーナさんが嬉しそうな表情になった。
「全部は悪いから……とりあえず5個もらってもいい? 1個は実際に召喚してみて分析、1個は破壊して分析、1個は放射線照射による影響分析、1個はlaser光照射による分析、1個は重力子を透過させて分析するから」
……うん、何するのかよく分からないけれど、目を輝かせているティーナさんを見ていると、僕までなんとなく嬉しくなってきたから良しとしよう。
「いいよ。多分、実戦ではそんなに使わないと思うから、足りなくなったらまた言って」
「ありがとう!」
ティーナさんが笑顔で僕に抱き付いて来た。
服越しとはいえ、彼女の柔らかさを全身で感じる結果になった僕は、図らずも狼狽してしまった。
僕は彼女をやんわり押し返しながら、言葉を返した。
「と、とにかく行くなら早く行こうか? のんびりしていたら、時間、もったいないよ」
ティーナさんが上目遣いで若干、拗ねたような表情になった。
「もう、hug位で照れちゃって……そんなんだと、いつまで経っても何も出来ないわよ?」
「いや、今の所、何もする予定無いからっ!」
ティーナさんは軽く嘆息してから、部屋の隅のワームホールに右手を向けた。
途端にワームホールの向こう側の景色が切り替わるのが見えた。
「向こうは富士第一98層?」
「そうよ。98層はどうやら砂漠地帯みたいね」
言われてみれば、ワームホールの向こう側の魚眼レンズを通したように見えている情景、黄土色一色に染め上げられている。
「それじゃあ行きましょうか?」
ワームホールの向こう側は、ティーナさんの言葉通り、見渡す限り黄土色の砂漠が広がっていた。
足元をサラサラと細かい砂が微風に流されて行く。
僕等が降り立ったのは、白亜の巨大ドーム、ゲートキーパーの間の目の前だった。
昨日訪れた97層のゲートキーパーの間と全く同じ造りに見えるけれど、昨日とは違って、僕等以外の人影は見当たらない。
僕は試しに聞いてみた。
「98層のゲートキーパーに関しては、さすがに何の情報も無いよね?」
ティーナさんが首を
「無いわよ。だって、私達が初めてですもの。ここに来るの。あ、少なくとも地球ではって条件付きだけど」
「とりあえず、ティーナにゲートキーパーを拘束してもらって、僕が攻撃……でいいのかな?」
「そうね。それで行きましょ。戦闘中の情報交換は……」
ティーナさんが自分の右耳を指差した。
そこには僕の右耳に装着されているのと見た目が同じ無線機が装着されていた。
「……コレで。あと、万一危なくなったらwormhole開くから安心して」
「了解」
僕はインベントリから必要と思われる装備を取り出して身に付けた。
ヴェノムの小剣にアルクスの指輪、神樹の雫に女神の雫、等々。
ちなみに防具は身に付けていない。
というより、持っていないと言った方がより正確だけど。
愛用していたエレンの衣は、エレンの腕輪と一緒にルーメルに置いてきてしまっているし、最近の実戦の中で、相手の攻撃を直接食らう瞬間がほぼ無かったので、新調もしていなかったからだ。
そういうわけで、銀色の戦闘服を身に付けたティーナさんと一緒に、普段着姿の僕は、ゲートキーパーの間内部に通じる巨大な扉を押し開けた。
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