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第385話 F級の僕は、捜索隊から結果を聞く
第385話 F級の僕は、捜索隊から結果を聞く
6月16日 火曜日16
部屋の中に戻ったタイミングで、右耳に囁きが届いた。
『相合傘、確かに二人で並んでただ腕を組むだけっていうのとはまた違った風情が……』
「ティーナ!」
『今夜は、私の前ではなかなか見せてくれない
「でも関谷さんに知らせないまま盗み聞きするのは、ちょっと悪趣味かな」
ティーナさんの声音が少し
『……Takashiが悪いんじゃない』
「僕が? なんで?」
『Sekiya-sanにpasta作ってもらったりするから……』
「それのどこが……」
言いかけて途中で言葉を飲み込んだ。
ティーナさんは、明確な好意を僕に向けてくれている。
と言うより僕の勘違い?で、どうやら自分の事を僕の彼女だと認識してしまっている。
そんな彼女にとって、意図していなかったとはいえ、僕の振る舞い自体が思わせぶりに映り、結果的に彼女を傷付けた可能性は否定出来ない。
僕は慌てて言葉を変えた。
「まあ悪かったよ」
『あら? 意外と素直に謝ってくれるのね?』
正直こういう状況で、他にどんな言葉を掛けてあげたらいいのか思いつかなかっただけなんだけど。
「明日はこっちに戻ってきたら出来るだけ早く連絡するよ」
『OK! 連絡待っているわ。それと、Takashiが言う盗み聞きの件だけど……』
ティーナさんは、僕と関谷さんが『ティーナの無線機』を装着している場合に限り、自身のもつ親機に当たる無線機を通じて、僕等の
そしてそれを関谷さんは気付いていない可能性が高い。
『私からちゃんと説明しておくから安心して。やっぱりこういうのはfairじゃないとね』
ティーナさんとの無線機を通じた会話を終えた僕は、【異世界転移】のスキルを発動した。
僕が戻って来た時、客室の窓からは西日が部屋に射し込んできていた。
時刻は午後4時過ぎ。
日本やルーメルとは真逆、冬の季節を迎えているここトゥマの街は、あと1時間程度で日没を迎えるはずだ。
僕は一人留守番をしてくれていたララノアにたずねてみた。
「変わった事は無かった?」
「特に……何も……」
夕食は午後7時からと聞いている。
つまりあと3時間弱、自由に出来る時間があるけれど……何しよう?
そこまで考えて僕は苦笑した。
ここ数日、これでもかという位、色々な出来事が立て続けに起きたせいか、何もする事が無いという今の状況、かえってとても居心地悪く感じてしまっている。
せっかくだし、ララノアと一緒にトゥマの街を散策……いや、行く先々で、“英雄様!”なんて声を掛けられて、のんびり散歩なんて出来そうに無いから却下。
じゃあもう一度地球に戻って、均衡調整課に行って魔石を換金して魔導電磁投射銃を買いに……いや、よく考えたら魔導電磁投射銃に400億円も出すのはもったいない気もする。
昨日の感じだと、本当に必要な時は、頼み込めば四方木さん、また普通に貸してくれそうな気もするし。
そんな事を考えていると、ララノアと目が合った。
「どうか……され……ました……か?」
ララノアが小首を傾げた。
「どうもしてないよ。そうだ! ララノアは何かしたい事は無い?」
「したい……事……?」
「うん。ほら、夕食までまだ時間あるでしょ? 暇だから、ララノアがしたい事あれば一緒に付き合おうかなって」
ララノアは少し考える素振りを見せた後、おずおずと言葉を返してきた。
「そ……それでは……ご主人様の……世界の話を……」
そういえばララノアと二人っきりになる機会なんて、久し振りかも。
たまには彼女とお喋りして過ごすのもいいかもしれない。
僕はシードルさんの執事、ドナートさんに頼んで紅茶とお菓子を部屋まで持って来てもらった。
それから2時間弱、ララノアとソファに並んで腰かけて、取り留めも無いお喋りを楽しんでいると、扉がノックされた。
―――コンコン
そして扉の外からドナートさんの声が聞こえた。
「タカシ様、捜索隊が戻って参りました」
捜索隊!
ユーリヤさんが、連絡のつかなくなっているアリアとクリスさんの手掛かりを探る為に組織してくれた捜索隊が帰還した!
扉を開けると、ドナートさんとユーリヤさんが並んで立っていた。
僕と目が合ったユーリヤさんが、少し残念そうな表情になった。
「タカシ殿、捜索隊が帰還したのですが……」
「手掛かりは見つからなかった?」
ユーリヤさんの言葉の続きを予測した僕の発言に、彼女が頷いた。
「残念ながら……とにかく、捜索隊を率いたボリスと、参加してくれたターリ・ナハ、それにアルラトゥも政庁まで戻って来ています。彼等の所に案内しますので、詳細は直接彼等にたずねて下さい」
「分かりました」
屋敷を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
門の外には、午前中にも乗せてもらった馬車が停まっていた。
ユーリヤさん達と一緒に馬車に乗り込み、そのまま揺られる事数分で政庁に到着した。
政庁の1階奥の執務室に入ると、数人の人々が僕等の到着を待っていた。
彼等の中から、ターリ・ナハとアルラトゥが、僕の方に駆け寄って来た。
「タカシさん、申し訳ありません。アリアさんとクリスさんの手掛かりは……」
「ご主人様。少なくとも本日私達が調べた地域では、お二人の痕跡を見つけ出す事は出来ませんでした」
残念そうにそう口にする二人に、僕は声を掛けた。
「とにかく二人とも無事戻って来てくれてよかった。それで……」
僕はその場に居たボリスさん――確か今日の捜索隊の隊長を務めてくれたはず――の方に視線を向けた。
「具体的なお話、聞かせてもらってもいいですか?」
ボリスさんの話によると、捜索隊は総勢60名。
昨日、街郊外に帰還した駐屯軍と街の冒険者達の内、探知や索敵系の能力の高い者達が選抜されて参加してくれたそうだ。
朝の9時過ぎに街を出た彼等は、州都リディアに続く街道及びその周囲を3隊に別れて北上しながら捜索に当たってくれた。
しかしながら、異常な魔力の残滓、不審な交戦の痕跡その他、アリアやクリスさんに繋がりそうな手掛かりは、何一つ見つからなかった……
改めて今日の捜索の顛末を聞かせてもらった僕は、気分が急速に落ち込んで行くのを感じた。
どうやら僕は、あらかじめ思っていた以上に、今日の捜索隊に期待していたようだ。
それが何の成果も無かったという事は、つまり、もはや僕等の方から二人の行方を探る事は不可能になった、と宣告されたのも同じでは無いか?
本当に二人はどこへ行ってしまったのだろうか?
エレンが予想したように、何者かに拉致された?
いや、拉致ならまだしも……
再び思考がネガティブな方向へ沈みそうになった時、ユーリヤさんが声を掛けてきた。
「タカシ殿、これはそんなに悪い結果では無いかも知れませんよ」
「悪い結果では無い?」
二人の手掛かりが見付からなかったというのに?
自分でも顔が強張るのを感じたけれど、ユーリヤさんは構わず言葉を返してきた。
「つまり、今日の捜索範囲内に、ご友人方の痕跡は存在しなかった、という事が判明しただけです。明日は少し捜索範囲を変えますので、また違った結果をお知らせ出来るかもしれません」
「捜索は、今日だけ……では無かったのでしょうか?」
ユーリヤさんが微笑んだ。
「ご友人方は、推測ではこのトゥマの街まで一日行程のいずこかの地点で連絡がつかなくなっているのですよね?」
僕は
最後にアリアと念話を交わした時、彼女は“翌日夕方にはトゥマに到着する”と
アリアとクリスさんは、昼間はネルガル大陸を馬車で移動して、夜はルーメルのあるイシュタル大陸に戻って就寝していた。
という事は、僕と念話を交わした翌日、アリアとクリスさんがネルガル大陸内でトゥマの街を目指す旅路を再開したのは、“その日の夕方にはトゥマの街に到着出来るいずこかの場所”であるはずだ。
ユーリヤさんが言葉を続けた。
「トゥマから馬車で一日行程の範囲の捜索には、少なくとも数日は必要です。ですから捜索隊は明日もご友人方の捜索を行う予定です。ご友人方が本当にネルガルで消息を絶ったのだとしたら、いずれ必ずその痕跡を見つけ出す事ができるはずです」
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