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第280話 F級の僕は、帝国軍の中隊長から取り調べを受ける
第280話 F級の僕は、帝国軍の中隊長から取り調べを受ける
6月8日 月曜日10
「この者達を捕えよ! 連行するのだ!」
壮年の男性の叫びに応じるように、周囲の兵士達が一斉に身構えた。
仕方ない……
「【かげ……」
スキルを発動しようとした僕をターリ・ナハが手でそっと制した。
そして彼女は周囲の兵士達に呼びかけた。
「お待ち下さい!」
もちろんターリ・ナハが使用したのは、ルーメル近辺の言語のはず。
しかし言葉の意味は分からずとも、その凛とした
ターリ・ナハが僕に
「この方達の指揮官の所に連れて行ってもらいましょう。そこで私達が置かれている状況を説明しましょう」
「だけど……」
そのまま拘束されてしまうかもしれない。
ならばいっそ今の内に……
焦る僕の気持ちを
「とにかく、彼等の指揮官に会わせてくれるよう話して下さい。何か行動を起こすのならば、話し合いが決裂してからでも遅くはありません」
「……分かった」
僕は改めて壮年の男性に声を掛けた。
「あなた方の指揮官に会わせて下さい。そこで僕達の事情を説明します」
壮年の男性は、厳しい表情のまましばらく考えている様子であったが、やがて口を開いた。
「いいだろう。付いて来い。ただしおかしな真似はするなよ? 我等はいつでもお前達の命を奪える状態にある事を忘れるな」
僕はオロバスをメダルに戻した。
そしてターリ・ナハと共に、槍を構えた兵士達に囲まれたまま、前方の木柵の中に“連行”された。
木柵内には複数の櫓や幕舎が建ち並び、大勢の兵士達が立ち働いていた。
「おいあの獣人、えらく上玉だな」
「首輪も付けてないし、大方、逃亡奴隷か何かじゃねぇのか」
彼等から、主にターリ・ナハに向けられる好奇の目に、僕としては気が気では無かったけれど、ターリ・ナハ本人はどこ吹く風と言った感じで、まるで気にする様子も見せない。
そのまま僕等は、一番大きな幕舎の前へと連れて行かれた。
「中隊長にお前達の事を報告してくる。ここで少し待て」
そう告げると、壮年の男性は一人で幕舎の中へと入って行った。
僕等を取り囲むように立つ兵士達と共に待つ事数分で、壮年の男性が戻って来た。
「中隊長がお会いになる。入れ!」
10畳程の広さの幕舎の中には、大きなテーブルが一つ置かれていた。
テーブルの上には、この近辺の地図と思われる物が広げられ、銀色の鎧に身を固めた数人の男達が、その地図を覗き込んで何かを相談していた。
彼等の内の一人、
2m近くありそうなその赤毛の偉丈夫は、立ち上がると、僕等を見下ろすようにして声を掛けてきた。
「俺はこの中隊を率いるゴルジェイだ。俺直々に取り調べされたいって言うのは、お前達か?」
取り調べ“されたい”わけじゃないんだけど……
そんな事を考えながら、僕は言葉を返した。
「初めまして。僕はルーメルの冒険者でタカシと言います。彼女は、僕の
僕は簡単に、ルーメルの魔法屋でジャンク品の魔道具に魔力を込めたらこの地に転移させられた、と説明した。
ゴルジェイさんは、僕の話を聞き終えると口を開いた。
「なるほど……お前の話が本当であれば、お前だけが冒険者登録証を持っていて、そこの獣人は何も身分証を持っていない事にも説明はつくな」
あれ?
もしかして、意外と話が通じる相手?
ゴルジェイさんはしばらく目を閉じて考える素振りを見せた後、言葉を続けた。
「ではこうしよう。お前は、経緯はどうあれ身分証を所持しているから、ここで無罪放免だ。しかしそこの獣人は、そういうわけにはいかん。戦闘奴隷として徴用する。ただし、お前達の事情を
!?
前言撤回。
これはかなり乱暴な申し出だ。
「ちょっと待って下さい。彼女は僕の所有物じゃ無いです。勝手にあなた方に引き渡しますってわけにはいかないんですが」
ゴルジェイさんは、少し不機嫌そうに顔を
「お前の話が本当ならば、帝国の事情に通じていないのも仕方の無い事だから、特別に教えてやるが、作戦行動中の我が軍は、対価無しでそこの獣人を徴用する事も出来るのだぞ?」
「ですが、僕も彼女も元々この国の人間ではありません」
「タカシとやら、忠告しておいてやるが、帝国領内で“人間”と呼んで良いのは、我等ヒューマンのみだ。獣人を人間などと呼ぶと、
ゴルジェイさんの言葉は、僕の価値観からは受け入れられない。
しかし聞いている限りでは、彼には別段悪意は無く、ただ帝国法とやらに従って、僕等の件を処理しようとしているだけのようだ。
会話が少し途切れた所で、僕等が話している間中、ただ静かに
「この方々は、何とおっしゃっていますか?」
僕はゴルジェイさんにチラッと視線を向けてからターリ・ナハに返事をした。
「君を戦闘奴隷として、彼等に引き渡せって言ってきている」
「戦闘奴隷?」
ターリ・ナハが首を傾げた。
そう言えば、戦闘奴隷って何だろう?
僕は話の切り口の転換を図る意図もあって、ゴルジェイさんにたずねてみた。
「先程の話の中に出て来た戦闘奴隷って何ですか?」
「戦闘奴隷を知らんのか? 戦闘奴隷とは文字通り、戦場で尖兵の役目を果たす
やはりゴルジェイさんに悪意は無く、ただ、“
そして
それはともかく……
ゴルジェイさんが“ポペーダ山だ”と指差した先、開け放たれた幕舎の出入り口の向こう側に、頂きの部分が台形になった特徴的な山体が見て取れた。
それは今日、僕等が2体のカースドラゴンを倒した、まさにその山であった。
「ちょっといいですか?」
僕は少し逡巡した後、真実を告げる事にした。
「僕と彼女が今日“転移”してきたばかりっていうのはお話ししましたよね?」
「ああ、そのように話していたな」
「転移した先が、実はあなた方がポペーダ山と呼ぶあの山だったんです」
「ほう……」
ゴルジェイさんの目が細くなった。
「では、あの山のカースドラゴンについて何か知っておるか?」
「知っているというか……」
僕はゴルジェイさんの反応を確かめながら、言葉を続けた。
「僕とターリ・ナハとで2体斃しました。その後、あの山に2時間以上留まっていましたが、それ以上ドラゴンは……」
「待てい!」
僕の言葉を遮ったのは、僕等をここまで連れて来た、あの壮年の男性だった。
「貴様! 虚言を吐いて我が軍の作戦を妨害する気か? 事と次第では、処刑されても文句は言えぬぞ!?」
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