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第275話 F級の僕は、殺してくれと頼んでみる
第275話 F級の僕は、殺してくれと頼んでみる
6月8日 月曜日5
数分後、着替えを終えた僕が【異世界転移】で洞窟に戻って来ると、そこに待っているはずのターリ・ナハの姿が見当たらない。
「ターリ・ナハ!?」
僕の呼びかけに、少し離れた、あのカースドラゴンがいた場所から返事があった。
「タカシさん、こっちです!」
手招きする方向に歩いて行くと、そこは天井が高くなった広間のような場所になっていた。
辺り一面柔らかそうな針葉樹の枝が敷きつめられている。
さらに上を見上げると、はるか頭上にぽっかりと大きな穴が開いており、そこから青空が見えていた。
「どうやらここはカースドラゴンの巣だったようです。恐らく、天井のあの大穴を通って外と行き来していたと思われます」
「そっか……」
やはりヘレン婆さんの魔法屋で、僕が
「とにかく、まずは外に出よう」
僕はターリ・ナハを
2,3分後、僕等は洞窟の出口に辿り着いた。
洞窟の中はそれほどでも無かったのに、外に出た瞬間、一気に鳥肌が立った。
「寒い!」
確かルーメル周辺は日本同様、初夏の頃合いだったはず。
しかしこの場所は一転、初冬のような木枯らしが吹いている。
標高が高いのであろうか?
洞窟を出たすぐの場所は、まばらに草が生える以外は赤茶けた地面が剥き出しの、開けた空き地になっていた。
さらにその空き地は、遠くに行くに従って、緩やかに傾斜して低くなり、まばらな森林地帯へと続いていた。
振り返ると、洞窟を内包していたのは、台地のような山体である事が確認出来た。
どうやら僕等はどこかの山の中腹にいるようであった。
と、聞き覚えのある咆哮が、辺りの空気を震わせた。
―――グオオオオォォ!
見上げると僕等の頭上を、先程戦ったのと酷似した灰色のドラゴンが1頭、旋回していた。
先程のドラゴンの仲間であろうか?
僕はターリ・ナハに囁いた。
「洞窟の中に避難して」
「タカシさんはどうするのですか?」
「ここであいつを迎え撃つよ」
「ですがタカシさんは魔法を使用できないですよね? 飛行する相手をどうやって攻撃するのですか?」
僕はインベントリを呼び出した。
そして『強壮の小瓶』と『アルクスの指輪』とを取り出した。
『強壮の小瓶』はHPとMPを一時的に倍加する『強壮の秘薬』を作り出す事が出来る、錬金術師カロンの遺産の一つだ。
『強壮の小瓶』を握り締めると、たちまち内部が
それを一気に飲み干した僕のMPは、エレンの祝福と『月の指輪』による補正を含めて270まで上昇した。
最後に僕は、富士第一96層のゲートキーパー、レラジェのドロップアイテム『アルクスの指輪』を指に
オロバスを召喚するのと同じように念じてみればいいのかな?
「フェイルノート召喚……」
僕の手の中に、緑色に輝く弓、フェイルノートが出現した。
ターリ・ナハが目を見張った。
「召喚弓……」
「そういうわけだから、ここは任せて」
「あのドラゴンが先程のドラゴンと同じ能力を持っているとしたら、死に際に『奪命の呪い』を受ける可能性が有ります」
「それについても、ちょっと考えが有るんだ」
「分かりました。御武運を」
ターリ・ナハが洞窟の方に退避するのを確認した僕は、弓を引き絞りながら、再び念じてみた。
「死の矢……」
とたんにMPを100消費して、黒いオーラが
これでMP残り170。
僕はそのまま、飛行するドラゴンに狙いを定めると、
僕が所持する【弓術】スキルのお陰であろうか?
矢はくるくると回転しながら正確にドラゴンの脇腹に命中した。
―――ギェェェェ!
死の矢の特殊効果で、HPの9割を失ったドラゴンが、悲鳴を上げながら地面に落下してきた。
そこに追い打ちを掛けるように、スキルを発動した。
「【影分身】……」
僕の影の中から出現した10体の【影】は、地面でのたうつドラゴン目掛けて一斉に飛び掛かった。
そして僕の残りMPが20を切った時……
―――ピロン♪
【影C】が、カースドラゴンを倒しました。
経験値156,675,396,063,179,000を獲得しました。
Sランクの魔石が1個ドロップしました。
反呪の指輪が1個ドロップしました。
よし!
これで、ヘンな呪いを受けるとすれば、それは、【影C】のはず。
そして案の定、別のポップアップも立ちあがった。
―――ピロン♪
カースドラゴンが残した【奪命の呪い】が、あなたを対象に発動しました。
残り240秒……
よし……じゃない!?
呪われた?
【影C】が斃しても、その召喚者である僕が斃した、と見なされている!?
途端に身体が鉛のように重くなり、僕はその場で膝をついてしまった。
戦いの行方を洞窟の入り口付近で見守っていたらしいターリ・ナハが、叫びながら駆け寄ってくるのが聞こえた。
「タカシさん!」
まずい……
身体を思うように動かせない。
【奪命の呪い】解呪の実績がある『賢者の小瓶』は、再使用まであと20時間近くかかる。
そうだ……
カースドラゴンが落としたアイテムに、『反呪の指輪』っていうのがあった。
あれは使えないだろうか?
「まさか呪いを受けてしまったのですか!?」
ターリ・ナハが引きつったような声で問いかけてきた。
「どうもそうみたいだ」
「そんな……」
僕は、言葉を詰まらせるターリ・ナハに声を掛けた。
「そこにカースドラゴンのドロップアイテム、落ちてない?」
「落ちています。魔石と指輪が」
「指輪、僕の指に
すぐに僕の右手の人差し指に、指輪が嵌められた。
しかしカウントダウンは止まらない。
『反呪の指輪』の効果が不明だけど、一度受けた【奪命の呪い】には効果が無いようだ。
仕方ない。
次に試すのは……
「ターリ・ナハ、君の剣技で僕を一撃で殺せないかな?」
「タカシさん! まだ何か方法が……」
どうやら僕が
「違うんだ。ほら、僕ってエレンの祝福の効果で即死無効でしょ? だから一遍死んでみれば、呪いも解除されるかな、と」
我ながら強引な方法だとは思うけれど、HP全損するはずの魔法を使っても、普通の人間なら即死するはずの猛毒を口にしても、僕は死ななかった。
試してみる価値はあるはず。
と言うか、呪いで身体が重いし、目も霞んできたし、頭も上手く働かなくなってきている。
時間も無いし、試せる事はどんどん試さないと、本当に死んでしまうかもしれない。
「分かりました」
ターリ・ナハが鞘から無銘刀を抜く音が聞こえた。
そして次の瞬間、僕は意識を失った。
…………
……
…………
どれ位の時間が経過したのだろうか?
誰かが優しく僕の髪を撫でている。
頭の下には柔らかい物が敷かれている。
そして急速に意識が覚醒した僕が目を開くと、真上に目を大きく見開いたターリ・ナハの顔があった。
「タカシさん!」
彼女の琥珀色の大きな目が見る見るうちに潤んでいく。
そして僕は彼女に抱きすくめられていた。
「……良かった……」
しばらくして落ち着いたらしいターリ・ナハが、恥ずかしそうに僕からそっと身を離した。
「すみません」
「謝る事無いよ。僕の方こそ心配かけたみたいでごめん」
僕はターリ・ナハに背中を支えてもらいながら、上半身を起こした。
あの【奪命の呪い】のカウントダウンを告げるポップアップウインドウは消えていた。
ターリ・ナハが、不安そうに問いかけて来た。
「呪いは……」
「こうして生きているって事は、どうやら上手く行ったみたいだ」
ターリ・ナハがホッとしたような表情を見せた。
「あれから別のドラゴンは現れなかった?」
「はい、今の所は。周辺に危険な他のモンスターもいないようです」
まあ、あんなはた迷惑な呪いを死に際に押し付けてくるドラゴンがそこら中うようよいたら、いくつあっても命が足りない。
そんな事を考えながら、改めて僕は周囲の状況を確認してみた。
今いる場所は、先程と同じく、どこかの山の中腹。
吹き渡る風は木枯らしのように冷たいけれど、太陽は随分高い位置に……
太陽が高い?
僕がイスディフイに【異世界転移】してきたのは、午後5時過ぎ。
経験上、ルーメルと日本の間に時差は無い。
て事は……
僕の疑問に答えるようにターリ・ナハが口を開いた。
「恐らくここは、ルーメルから相当程度離れた場所のようです」
「やっぱり?」
「太陽の位置と動きから推測すると、少なくともルーメルとの時差は数時間。加えて、南半球にいる可能性があります」
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