第201話 F級の僕は、S級二人に力の差を見せつける


5月31日 日曜日12



突如出現した十数体のエンシャントドラゴン達は、上空へと舞い上がった。

伝田さんが、僕に呼びかけて来た。


「どうだい? S級モンスター16体だ。君のスキル、せいぜい人間位の重さの物しか持ち上げられないんだろ?」


僕は隣に居るティーナさんに囁きかけた。


「どうなんですか?」

「重さと言うよりは、生物の場合、純粋に相手のstatus値によります。Ancient Dragonなら、1度に1体ずつなら地面に叩き落とせます。但し、今はMr. Tanakaの周囲の重力場を操っているので、Dragonまでは手が回せません」


僕等の会話に気付くすべを持っていないらしい伝田さんが言葉を続けた。


「人間を持ち上げたり落としたり、手品みたいなショボいスキルで、16体のエンシャントドラゴンにどう立ち向かうつもりだい? こいつらの総攻撃を受けて、君の魔法結界がいつまで維持できるのか見物みものだね」


僕は、ティーナさんに再び囁いた。


「田中さんはもういいです。地面に下ろしてあげて下さい。その代わり、合図をしたらエンシャントドラゴンを1体ずつ地面に落として下さい」


僕の返事が無いのを、僕が震えあがっていると勘違いしているらしい伝田さんが、勝ち誇ったように言葉を投げかけて来た。


「今ならまだ間に合うよ? 土下座して僕を侮辱した事を謝罪すれば、特別に君を僕のクランに入れてあげようじゃないか」


僕は伝田さんに言葉を返した。


「たかがエンシャントドラゴン16体ごときで、僕をどうにか出来ると思っているのなら、それこそおめでたいって事、今から教えてあげるよ」

「お前! 自分の言ってる言葉の意味、分かってるのか!?」


さすがに冷静だった伝田さんも少しキレてしまったのかもしれない。

今まで“きみ”だったのが、とうとう“お前”になってしまった。

それはともかく、僕は障壁シールドの展開を停止した。

『エレンの腕輪』は、攻撃を自動的に防御してくれる機能がついている。

ティーナさんは、“時空間を捻じ曲げて”僕と同じような障壁シールドで身を護れると言っていた。

だとすれば、僕一人の防御の為に、障壁シールドを展開し続ける必要は無い。

僕は右腕を振り上げて、ゆっくり振り下ろす動作をした。

その動きに合わせるように、上空の田中さんが、ゆっくりと降りて来た。

地面にふわりと降り立った田中さんは、少し呆然としていたものの、すぐに僕に怒りの表情を向けて来た。


「よくもコケにしやがって!」


田中さんはS級。

正確なステータスは分からないけれど、イスディフイ風に言えば、レベル100を超えているはず。

だけど今の僕は、カロンの小瓶の効果で、ステータス的にはレベル200を超えている。


もしかしたらいけるんじゃないかな?

少し試してみよう……


僕は田中さんに視線を向けて、スキル【威圧】を試みる事にした。

スキルの発動には、何らかの発声が要求される。


「誰に向かってすごんでいる?」



―――ピロン!



【威圧】が発動しました。田中彰浩は、【恐怖】しています。

残り60秒……



田中さんは、引きつった表情を浮かべてガタガタ震え出した。

異変に気付いた伝田さんが、田中さんに声を掛けた。


「田中? どうした?」


しかし【恐怖】状態の田中さんは、言葉を発する事が出来ない。

伝田さんが、僕の方を見た。

彼の顔に、動揺の色が浮かんでいるのが見えた。


僕は出来るだけ低い静かな声で宣言した。


「伝田さん、今からあなたが“テイムした”エンシャントドラゴン、全滅させるんで、よく見ておいて下さい」


僕は右腕を振り上げて、勢いよく振り下ろす動作をした。

それに合わせて、一体のエンシャントドラゴンが上空から地面に叩き落された。

もちろん、S級モンスターがその程度で致命傷を負うはずが無いけれど……


僕は突然地面に落とされ、やや戸惑っているらしいエンシャントドラゴンに素早く近付くと、スキルを発動した。


「【影分身】……」


相手は“ほんの”レベル91。

呼び出す【影】は、5体位で良いんじゃないかな?



―――ズシャシャシャシャシャシャ……!



肉が切り刻まれる音が数秒続いた後、エンシャントドラゴンは、光の粒子となって消えていった。



―――ピロン♪



エンシャントドラゴンを倒しました。

経験値470,026,188,189,538,000を獲得しました。

Sランクの魔石が1個ドロップしました。

ドラゴンの鱗が1個ドロップしました。



僕は伝田さんに視線を向けた。


「まるで歯ごたえが無い。もっと強いの呼んでこないと、僕に土下座させるの無理っぽいですよ?」


伝田さんは、大きく目を見開いた。


「馬鹿な……有り得ない!」


そして、上空を舞うエンシャントドラゴン達に向かって叫んだ。


「こいつを殺せ!」



―――オオオオオン!



残りの15体のエンシャントドラゴンが僕に向かって総攻撃を開始した。


魔法で、ブレスで、そして物理的に凶悪な牙と爪で。


しかし、彼等の攻撃は、自動的に発動される障壁シールドに阻まれ、僕には一切届かない。

僕は一体、また一体と、確実にエンシャントドラゴン達をほふっていった。

最初16体いたエンシャントドラゴン達は、数分後には、全て魔石とアイテムへとその姿を変えていた。

僕は“アイテムのみ”拾い上げ、インベントリに放り込みながら、ゆっくりと伝田さんに近付いた。

伝田さん、それに隣に立つ【恐怖】状態から脱した田中さんが、怯えたような視線を向けて来た。


「お、お前は一体、何者なんだ!?」

「何者? ちょっと特殊なスキルを持ってるF級ですよ」

「嘘つけ! お前……QZZか!?」


孫浩然ハオラン=スン率いる『七宗罪QZZ』、僕が知らなかっただけで、結構、有名な存在なのだろうか?


「あんなのと一緒にしてもらいたくないですね。実は昨夜僕を襲撃してきたのが、そのQZZでした。勿論、全員返り討ちにしましたが」


本当は、ティーナさんに色々助けてもらったけれど、今は出来るだけ、伝田さんと田中さんに、“力の差”を印象付けなければならない。


「お、俺達をどうする気だ?」

「どうする? どうもしないですよ」


僕はずいっと一歩、彼等の方に足を踏み出した。

伝田さんと田中さんが、後退あとずさった。


「お二人に提案があります」

「提案?」

「何だ? 金でも強請ゆすろうってのか?」


僕は苦笑した。


「この辺で止めときませんか? あなた達にも体裁ってモノがあるでしょ? あそこで見ている皆さんの前で、これ以上僕に圧倒される姿をさらし続けるのは、大分まずいんじゃないでしょうか?」


僕は遠くでこちらの成り行きを見守っているらしいA級や均衡調整課のポーター荷物持ち達に、視線を向けた。

僕の問い掛けに、伝田さんが言葉を返してきた。


「……分かった。しかしこの騒ぎ、どう決着つけるんだ?」

「決着?」


僕は出来るだけ“悪そうな顔”をしてみた。

上手くできているだろうか?

こちらを見守るティーナさんが、少し噴き出しそうになっている気がするけれど、きっと気のせいだろう。


「決着も何も、初めから騒ぎなんか起こらなかった。でしょ?」


伝田さんが僕に試すような視線を向けて来た。


「……いいだろう。お互い、今日は何も無かったという事にしよう。ゲートキーパーの間に向かう途中、事故でA級2名が死亡した。しかしその悲しみを乗り越え、クラン『白き邦アルビオン』とクラン『百人隊ケントゥリア』は、力を合わせて92層のゲートキーパー、バティンを打倒した」

「待て! それじゃあ、俺の腹の虫が収まらない!」


せっかく決着がつきかけた話に、田中さんが異議を唱えた。


「こいつの異常な能力、やっぱりこいつが、成松と舘林が死ぬ事になったあの異常なモンスターの出現に関わってるんじゃねぇのか?」


どうしよう?

直情径行型だけど仲間想いらしい田中さん、今日の仲間の死の原因がうやむやになるのは我慢ならないようだ。

実は今日の異常なモンスターの出現、僕的にはある推理があるんだけど……


僕は田中さんに向き直った。


「断っておきますが、誓って僕は今日の“事件”に関与していません」

「なら、斎原が何かしやがったってのか?」

「田中さん的には、今日出現したモンスター達は、誰かに操られていた、と感じてるんですよね?」

「そうだ。あの出現の仕方、あの動き、どう考えても不自然だ」

「でも、“召喚された”モンスターは魔石を残さない。そうでしたよね?」


田中さんが苦虫を噛み潰したような顔になった。


「……そうだ」


僕は、エンシャントドラゴン達を倒した場所を指差した。


「“召喚された”モンスターは魔石を残さないみたいですが、“テイムされた”モンスターは魔石を残すみたいですよ?」


僕の指さした先には、“伝田さんが操っていたエンシャントドラゴン”が残したSランクの魔石が16個転がっていた。

それを目にした田中さんが、伝田さんに焼けつくような視線を向けた。


「テイムだと? 伝田……これは一体、どういう事だ?」

「田中、落ち着け。いちいち人の言葉に惑わされるんじゃない!」


……やれやれ、早く帰って寝たいんだけど……


僕は言い争うS級二人をその場に残して、米田さん達の方に足を向けた。


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