【コミカライズ版】最底辺であがく僕は、異世界で希望に出会う~自分だけゲームのような異世界に行けるようになったので、レベルを上げて、みんなを見返します【発売中】
第165話 F級の僕は、無事元の世界へと帰還する
第165話 F級の僕は、無事元の世界へと帰還する
5月28日 木曜日3
第4日目――8
「{封神の雷}……」
生まれて初めて、アイテムに頼らず使用した魔法。
魔法でありながら、
魔法を心の中で念じた瞬間、空中庭園中央に浮遊する黒い結晶を包み込むように、白い光の柱が天空に向けて立ち上がった。
同時に僕の視界も真っ白に染まっていく……
―――また会いましょう……
…………
……
…………
「……Takashiさん!」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
消えていたはずの意識がぼんやりと戻って来る。
ゆっくりと目を開けた僕は、心配そうにこちらを見下ろす女性の姿に気が付いた。
整った顔に青い瞳。
少しウェーブのかかったブロンドヘアは、背中にかかる位の長さで……
「……ティーナさん?」
「良かった……大丈夫ですか?」
どうやら僕は、仰向けに倒れているらしい。
少し混乱しながらも、僕は状況の確認を試みた。
「{察知}……」
しかし、何も感じ取れない。
僕はゆっくりと上半身を起こすと周囲を見回した。
少し向こうに、あの“エレン”が閉じ込められていた化け物の残骸が見える。
さらに遠くに視線を向けると、どうやら自分が高い天井を支える美しい装飾を施された巨大な柱が整然と並ぶ薄暗い広間のような場所にいるらしい事が認識できた。
白っぽい大理石を思わせる素材で構成された壁や天井が、燐光を
つまり、あの魔王エレシュキガルがいた闇の空中庭園とは似ても似つかぬ場所。
500年前のあの世界に飛ばされる直前までいた場所だ。
戻って来たのであろうか?
しかし僕の記憶が確かなら、僕はあの世界で4日間を過ごしたはず。
「今はいつですか?」
僕の問い掛けに、ティーナさんが少し表情を強張らせた。
「もしかして、記憶が飛んでいますか?」
「記憶……」
確かこの場所での最後の記憶は……
「化け物の中から女性を救い出して……白い光が爆発? したような?」
ティーナさんがホッとしたような顔になった。
「そうです」
僕は再び周囲を見回した。
“エレン”の姿は無い。
「あの女性はどうなりました?」
「白い閃光が走った瞬間、消滅しました。そしてあなたは、床に倒れてしまいました」
「それはいつですか?」
まさか、4日間、僕はこうしてここに倒れていたのだろうか?
「いつって……ですから、つい今しがた、です」
「という事は……」
僕は記憶を辿ってみた。
富士第一ダンジョンの調査は、5月27日 (水)と28日 (木)の二日間の日程だったはず。
そして“今日”は……
「今日は5月28日?」
「そうです」
「僕等がここへ来て、どのくらい経過しました?」
「時間ですか? 恐らく10分程と思います」
「10分!?」
「……どうしました?」
ティーナさんは怪訝そうな顔をしている。
ティーナさんの話通りだと、僕は一瞬の間に、500年前の異世界に飛ばされて、4日間を過ごして、魔王エレシュキガルを封印して、またこの世界に戻って来た?
「本当に大丈夫ですか?」
ティーナさんが、心配そうな表情で、僕の右手を取ろうとしてきた。
彼女の右の手の平が僕の右の手の平に合わされた瞬間……
―――バチン!
強い静電気で弾かれるような音がした。
一瞬、ティーナさんが驚いたような顔をして手を引っ込めた。
しかしすぐに表情を戻した彼女は、僕に微笑みかけて来た。
「そろそろ戻りましょうか?」
立ち上がった僕は、違和感を抱いた。
さっきまで、あの魔王エレシュキガルと対峙した闇の空中庭園では、僕は光の武具一式を装備していたはず。
ところが今、僕はエレンの衣を羽織り、腰にはヴェノムの小剣 (風)を差している?
首を傾げる僕に、ティーナさんが、黒く細長いケースを差し出してきた。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
僕はそのケースを受け取り、中身を確認してみた。
魔導電磁投射銃が入っている。
それを背負った僕は、ティーナさんと一緒にここへ来る時使用したゲートに向かって歩き出した。
あの“500年前のイスディフイ”は、現実だったのだろうか?
ひんやりとした空気の中、ティーナさんと並んでゲートに向かって歩いていると、4日間に渡る壮大な幻想を見させられていたような気分になってきた。
歩きながら、僕はそっとステータスウインドウを呼び出した。
―――ピロン♪
Lv.105
名前
性別 男性
年齢 20歳
筋力 1 (+104、+52)
知恵 1 (+104、+52)
耐久 1 (+104、+52)
魔防 0 (+104、+52)
会心 0 (+104、+52)
回避 0 (+104、+52)
HP 10 (+1040、+520)
MP 0 (+104、+52、+10)
使用可能な魔法 無し
スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】【弓術】【置換】
装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)
エレンのバンダナ (防御+50)
エレンの衣 (防御+500)
インベントリの指輪
月の指輪
効果 1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)
物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)
魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)
ステータス常に50%上昇 (エレンの祝福)
即死無効 (エレンの祝福)
MP10%上昇 (月の指輪)
500年前の
しかし、105まで上がった僕のレベル。
そして、エレンの祝福。
やはり、あの500年前の
向こうで4日間過ごしたはずが、ここでは一瞬って、なんだか逆浦島太郎の気分だけど。
やがて僕等の行く手に壁が見えて来た。
しかし、そこにあるはずの銀色に揺らめく空間の歪みが見当たらない。
代わりに、あの神樹第1層や富士第一ダンジョン1層で見たのと酷似した、転移の魔法陣のようなものが出現していた。
「ティーナさん、あれ」
僕は、魔法陣を指差した。
「僕等が入って来る時使ったゲートは消えてしまってますけど、あれ使ったら、ここからは出られるんじゃないでしょうか?」
ティーナさんは、その魔法陣のそばでしゃがみ込んで、なにやらじっと考え込む素振りを見せてぶつぶつ何かを呟き出した。
「This is maybe a Gate of transfer, but……」
やがて立ち上がるとにっこり微笑んだ。
「それではとにかく乗ってみましょう」
僕とティーナさんは、並んでその魔法陣の真ん中に立ってみた。
しかし、何も起こらない。
あれ?
もしかして、ここに閉じ込められてない?
いざとなったら、【異世界転移】試すしか……
少し不安になってきた僕は、横に立つティーナさんの様子をそっと窺ってみた。
意外と彼女は落ち着いて見えた。
「Oh well……make a wormhole and escape……」
「何ですか?」
「何でも無いです。でも、困りましたね」
ティーナさんは、なぜかあまり困ってない様子でそう口にした。
しかしこの魔法陣、乗っただけだと作動しないけれど……
そう言えば……
僕は、正規の方法で神樹に入った時の事を思い出した。
―――転移ゲートの上で使用すれば、魔法陣の操作に習熟していなくても、第1層の転移ゲートへと転移する事が可能になります
そう言って、ヒューマンの神官、マイヤさんが僕にくれたアイテムがあったっけ?
僕はティーナさんから見て死角になる位置に、インベントリを呼び出した。
そして、その中から、薄紫に輝く宝石のような半透明の石、『転移石』を取り出した。
これって使えないかな?
僕はティーナさんに呼びかけた。
「もう一度あの魔法陣に乗ってみましょう」
ティーナさんが少し怪訝そうな顔になった。
「ですが、先程は何も起こりませんでしたよ?」
「ちょっと試したい事があるので」
「? 分かりました」
僕は怪訝そうな表情のティーナさんと一緒に、魔法陣の中心に立った。
そして手の中に握りしめた『転移石』の使用を念じてみた。
―――ユラリ……
視界が歪み、次の瞬間、僕等の視界は切り替わっていた。
やや明るい大広間。
少し向こうに灰色の二階建ての建物が建っている。
間違いない。
ここは……
「サンダース女史!?」
僕等の突然の出現に驚いたらしい均衡調整課の職員達が、僕等の方に駆け寄ってきた。
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