第115話 F級の僕は、ゲートキーパーと戦ってみようと思う


5月24日 日曜日6



結果的には、このガーゴイル狩りは、かなりうまくいった。

1時間ほどで、アリアは、僕と【影】で弱らせたガーゴイル6体にとどめを刺す事に成功していた。

そして、レベルも65まで上昇した。


「おめでとう」

「ありがとう。でも、こんな戦い方ばっかりしてると、絶対に戦闘の勘が狂うよね」

「僕がいない時は、相変わらず一人で戦ってるんでしょ?」

「そうだけど。ウサギ狩りしてるけど。こんなにレベル上がっちゃうと、小石投げつけてもウサギ倒せちゃうし、高ランクの魔石がこんなに簡単に手に入っちゃうと、もうウサギ狩ってるのがなんだか馬鹿らしくなるというか……」


アリアが少し浮かない顔になった。


「その内、ゲートキーパーとかと戦う機会もあるだろうし、それまでは英気を養ってるって事で……そうだ、今度、神樹関係なしで、アリアの受けたいクエスト、手伝ってあげるよ」


僕の言葉を聞いたアリアの表情がパッと明るくなった。


「ホント?」

「ホントもホント」

「じゃあ、明日、朝から付き合ってくれる?」

「いいよ。って、なんかアテがあるの?」

「うん。ルーメルからは少し離れてるんだけど、『カロンの墳墓』って場所があるんだ。そこ、噂ではすっごいお宝が眠ってるらしいんだけど、レベル50ないと、生きて帰れないって」


推奨レベル50以上の、お宝が眠るダンジョン。

うん、なんだかとっても正統派な感じの冒険だ。

それなりに装備を固めたレベル77の僕と、レベル65のアリアなら、そんなに危険でも無いだろうし。


「いいよ、明日付き合うよ」


アリアには、今までにも色々お世話になっている。

明日は、朝から大学には休講届け出して、こっちに来れば良いだろう。


「明日から頑張るぞ~!」


すっかり機嫌が良くなっているアリアを見ていると、僕まで心がほっこりしてきた。

そんな僕等に、エレンが話しかけてきた。


「次のガーゴイル、呼んでくる?」


アリアとの会話に夢中になっていたが、ここは神樹第81層。

今日、僕はまだ一度もモンスターにとどめを刺していない。


「お願いするよ。ここからは、僕のレベルを上げないと、だね」



エレンが消えて行った暗がりの向こうから、ガーゴイルが、こちらに接近して来るのが見えた。

僕は、ガーゴイルに肉薄すると、石像を思わせるガーゴイルの硬い外皮に、ヴェノムの小剣を突き立てながらスキルを発動した。


「【影分身】……」


僕は、桧山と戦った時同様、1度に30体の【影】を呼び出してみた。


―――ガキキキン!


耳をつんざくような凄まじい金属音と共に、ガーゴイルが文字通り一瞬で粉砕された。

粉々になった破片が光の粒子になって空中に溶け込んでいくと同時に、耳慣れた効果音が響いた。



―――ピロン♪



ガーゴイルを倒しました。

経験値8,150,973,203,713,600を獲得しました。

Aランクの魔石が1個ドロップしました。

ガーゴイルの彫像が1個ドロップしました。



【影分身】の発動を停止し、ガーゴイルのドロップした魔石と彫像を拾い上げながら、僕の心は少なからず高揚していた。


この戦法、ガーゴイルのような敵には、もしかしてかなり有効なのでは?

難点は、一度発動すると、殆どMPがゼロになってしまう点だけど……


今、僕のMPは、98。

MPがゼロになってしまった場合、女神の雫を飲まなければ、そして自然回復無視すれば、1秒ごとにMPを1自動回復してくれるエレンのバンダナの効果で、MPが満タンまで回復するには、理論上、1分38秒かかる計算だ。

言い換えれば、約2分置きにガーゴイルを1体、確実に屠れるという事だ。

それに、もしかしたら、【影】を30体も呼び出さなくても、ガーゴイルを粉砕出来るかも?

それなら、MPゼロになる前にガーゴイル倒せて、結果的に自動回復にかかる時間も短縮できるな……


その後もさらにエレンにガーゴイルを呼んでもらい、戦い続けるうちに、大体、【影】15体呼び出せば、ガーゴイルを一瞬にして粉砕できる事が判明した。

そのまま戦い続ける事2時間……

僕は、ガーゴイルを50体倒し、同数のAランクの魔石とガーゴイルの彫像とを手に入れていた。

そして……



Lv.82

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+81、+16)

知恵 1 (+81、+16)

耐久 1 (+81、+16)

魔防 0 (+81、+16)

会心 0 (+81、+16)

回避 0 (+81、+16)

HP 10 (+810、+162)

MP 0 (+81、+16、+8)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】【スリ】【弓術】【置換】

装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)

   エレンのバンダナ (防御+50)

   エレンの衣 (防御+500)

   インベントリの指輪

   月の指輪

効果 1秒ごとにMP1自動回復 (エレンのバンダナ)

   物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   ステータス常に20%上昇 (エレンの加護)

   MP10%上昇 (月の指輪)



呼び出したステータスを僕と並んで覗き込んでいたエレンが、笑顔になった。


「レベル82」

「うん。今夜もエレンのお陰でレベルを上げれたよ」

「えっ!? タカシ、レベル82になったの?」


僕とエレンの会話に、アリアも参加してきた。


「うん」

「凄いじゃない。もしかして、この階層のゲートキーパー、倒せちゃうんじゃないの?」


どうだろう?

今夜はタイミング失した感じで誘ってないけれど、ノエミちゃんがいれば、或いは……?


「エレン、この階層のゲートキーパーってどんなやつか知ってる?」

「アスタロト」

「アスタロト? 能力とか特徴って分かる?」

「翼を持つ悪魔。猛毒の霧と闇の魔法の使い手。ドラゴンを召喚する」


なんだか聞いてるだけで、強そうだ。

しかし……

猛毒の霧なら、ノエミちゃんの精霊魔法で防げるのでは?

召喚されたドラゴンも、アスタロトなるゲートキーパーも、今手持ちのガーゴイルの彫像50本と【影分身】駆使すれば、なんとかなってしまうのでは?

しかし、“なんとかなってしまうのでは?”というのは、あくまでも僕の想像だ。

そんな戦いに、まだレベル65のアリアを巻き込むのはまずいだろう。


僕は、エレンとアリアに話しかけた。


「今夜は遅いし、この辺にしとこう」

「分かった」



僕等は、エレンの転移魔法で『暴れる巨人亭』2階の僕の部屋に戻って来た。

日付が変わるまでは、まだ1時間以上ある時間帯。


「じゃあね」


エレンが、いつものようにどこかへ転移して去って行った。


「タカシ、おやすみ。明日は、朝から『カロンの墳墓』だからね? 約束だからね?」

「分かってるよ。ちょっと地球向こうで済ませなきゃいけない用事あるから、朝10時にアリアの部屋でいいかな?」

「いいよ。じゃあね!」

「おやすみ、アリア」


アリアを送り出した僕は、改めてエレンに念話で呼びかけた。


『エレン、いいかな?』


しばらくしてエレンから返事があった。


『どうしたの?』

『もう一回、神樹に行かない?』


次の瞬間、エレンが僕の部屋の中に姿を現した。


「もしかして、アスタロトと戦う?」

「うん、まあそんなとこ」


エレンが早速、僕の手を取ってきた。


「エレン、ノエミちゃんも連れて行きたいんだ。彼女の支援があれば、より確実にアスタロトを倒せるかなって」

「分かった」


僕の手を取ったまま、エレンが何かを呟いた。

次の瞬間、僕等は、あのアールヴ西の塔の物陰に転移していた。

そして、前回同様、袋詰めにしたノエミちゃんを【隠密】状態で連れ出して……


1時間後、僕、エレン、ノエミちゃんの3人は、巨大な扉の前に立っていた。

壮麗な装飾が施された、高さ10mはありそうなその扉をエレンが指さした。


「この向こうにアスタロトがいる」



通常、ゲートキーパーの元に辿たどり着くのは、困難を極めるそうだ。

まず、ゲートキーパーがどこにいるのかを探る所から始めなければいけない。

神樹もこの辺りまで登って来ると、ダンジョン内はトラップだらけ。

隠された通路、触れると何らかの属性魔法が発動する設置式の仕掛け、同じ階層や別の階層へ転移させられる罠、モンスターが無限に湧き出してくる小部屋等々。

それらを見極め、階層全体を踏破して初めて、ゲートキーパーの元に辿り着けるのだという。

事実、第80層の探索が開始され、ゲートキーパーのバアルがあの4人の冒険者達に倒されるまで、半年近くかかっている。


ところが僕等の場合、アスタロトのいる場所とそこに至るためにはどう行動すれば良いか、なぜかエレンが最初から全てを知っていた。

そして、その最短経路上に存在する罠の数々は、ノエミちゃんの精霊魔法により、全て無力化された。

さらに、エレンが一緒にいるせいか、モンスターと一度も遭遇しないまま、あっけなく僕等はここまで辿り着いてしまった。


う~ん、なんだか第80層以下、ちゃんと探索してきたこの世界の冒険者の皆さんに、激しく申し訳ないような……


そんな感慨にふける僕に、ノエミちゃんが緊張した面持ちで話しかけて来た。


「本当に行かれますか?」

「うん。ノエミちゃんに、相手の猛毒攻撃を無効にするバフかけてもらったしね。あとは、戦闘中、相手の詠唱妨害宜しく」

「それは全力で支援させて頂きますが、それでも危なくなれば、躊躇なく撤退を御決断下さい」

「分かってるよ」


僕は、目の前に聳え立つ、装飾が施された重厚な扉を押し開けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る