第88話 F級の僕は、4人の冒険者達と一緒にモンスターと戦う


5月21日 木曜日10



第81層も、第80層と同じく、黒く磨き上げられた御影石のような素材で構成されていた。

ゲートから続く長い回廊をしばらく進むと、広間に出た。

広間の真ん中には、一頭のドラゴンがうずくまっていた。

体長10mはありそうな銀色のそのドラゴンは、僕等に気付くと身を起こした。


「グォォォォ!」


力強い咆哮が、あたりの大気を震わせた。


「シルバードラゴン!」


4人の冒険者達は、直ちに散開し、戦闘態勢に入った。

メティスさんが何かを詠唱すると、シルバードラゴンの頭上に複数の魔法陣が出現した。

そして、強力な魔力の奔流が、シルバードラゴンに襲いかかった。

魔力の直撃を受けたシルバードラゴンの動きが、目に見えて悪くなった。

そのシルバードラゴンに対して、ネイ・カーンさんが、魔力の込められた矢を、目にも止まらないスピードで連射していく。

ガルベルさんも、巨大な戦斧を振り上げ、雄叫びを上げながら、シルバードラゴンに突進した。


僕は、邪魔にならないよう、少し後ろに下がった場所で、彼等4人の戦いぶりを観察していた。


ここが第81層と言う事は、あのシルバードラゴンのレベルも81と言う事だろう。

しかし、見た感じ、第80層での戦い同様、そんなに苦労しているようには感じられない。

寧ろ、戦いは、こちらが押し気味に推移しているように見えた。


と、その時、広間の奥、僕等がやってきたのと反対側の回廊の方から、何かが複数、この広間に入ってきた。

それは、体長3m程の黒い身体にコウモリの翼を生やした……


「気を付けて下さい! ガーゴイルです!」


マイヤさんの鋭い声に、4人の冒険者達の空気が変わるのが感じられた。

シルバードラゴンにとっては、増援の形でやってきたガーゴイルは、全部で5体。

どれもがレベル81ならば、4人の冒険者にとって、決して楽観視出来ない状況になっているに違いない。


僕も戦いに参加しようか……?

でも、レベル63の僕が加われば、返って、足手まといにならないかな?


逡巡している内に、2体のガーゴイルが、同時にマイヤさんに襲い掛かるのが見えた。


「マイヤ!」


叫び声を上げたネイ・カーンさんが、そのガーゴイル達に対して、凄まじい速度で矢を連射した。

背後から攻撃を受ける形になった1体のガーゴイルは、向きを変えてネイ・カーンさんの方に襲い掛かって行った。

しかし、残った1体のガーゴイルは、そのままマイヤさんに飛び掛かり、彼女を押し倒した。

メティスさんとガルベルさんも、それぞれシルバードラゴンとガーゴイル達にかかりきりで、マイヤさんの援護に入れ無さそうであった。


これは、レベルがどうとか言ってる場合じゃないな。


僕は、剣と盾を手に、マイヤさんにかっているガーゴイルに、背後から肉薄した。

そして、右手に持った光の剣で思いっきり斬りつけた。


―――ガキッ!


生物と言うより、寧ろ岩を斬りつけたような音を立てて、光の剣が、ガーゴイルの背中に食い込んだ。


「ギェェェェ!」


ガーゴイルは、絶叫を上げ、背中の翼を使って空中に舞い上がった。

そして、今度は、僕の方に襲い掛かってきた。


―――ガン!


ガーゴイルの鋭い爪による攻撃を盾で受け止めた僕は、心の中で、スキルを複数回発動するように念じた。


「……【影分身】……」


僕の影が盛り上がり、【影】が4体同時に出現した。

そして、僕に襲い掛かっているガーゴイル目掛けて飛び掛かった。


―――ガキキキン!


「ギェェェェェ!」


四方から攻撃を受けたガーゴイルは、悲鳴を上げながら、僕から離れようとした。

すかさず、僕自身もガーゴイルを光の剣で突いた。


―――ガキン!


今の僕のMPは、エレンの加護や、光の兜の補正を受けて174。

エレンのバンダナと光の兜を同時に着用出来ない今の状態で、4体の【影】を維持し続けるのは、40秒強が限界という事になる。

ただし、MPを全く補充出来ないと仮定した場合だけど。

僕は、月の雫を適時飲み干しながら、【影】達と共に、目の前のガーゴイルを攻撃し続けた。

そして、数分後……


―――ガキ!


僕の一撃が止めになり、ガーゴイルは、光の粒子となって消え去った。



―――ピロン♪



ガーゴイルを倒しました。

経験値8,150,973,203,713,600を獲得しました。

Aランクの魔石が1個ドロップしました。

ガーゴイルの彫像が1個ドロップしました。

レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



―――ピロン♪



レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



―――ピロン♪



…………

……



今ので、数レベル上昇したのであろう。

ポップアップが、複数回立ち上がった。

僕は、魔石と、ガーゴイルをかたどった禍々しい雰囲気を漂わせた彫像を拾い上げると、インベントリを呼び出し、素早くそれらを放り込んだ。

そして、そのままマイヤさんの元に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


見た所、マイヤさんは、羽織っているローブにやや汚れが見られるものの、身体に目立った怪我はしてなさそうだった。

マイヤさんは、僕の言葉ににっこり微笑んだ。


「お気遣いありがとうございます。ですが私は神官。少々の傷はあっというまにいやせてしまいますので」


僕はマイヤさんと話しながら、周囲の状況を確認した。

シルバードラゴンはいまだ健在で、ガーゴイルもまだ4体残っていた。

他の3人は、懸命にモンスター達と交戦している。


僕は、マイヤさんの元を離れると、手近な位置にいたガーゴイルに飛び掛かった。


「……【影分身】……」


…………

……


10数分後、月の雫は使い切ってしまったけれど、僕は、ガーゴイルをもう1体倒す事に成功していた。

そしてその間に、他の4人も、シルバードラゴンとガーゴイル3体を倒していた。


最後のモンスター、シルバードラゴンが光の粒子となって消え去った直後、ガルベルさんが、声を掛けてきた。


「なかなかやるな? 本当にレベル63か?」

「さっきの戦いで74になりました。皆さんのお陰です」

「74!? 格上をたおしたとは言え、勇者ってのは、尋常じゃないスピードでレベル上がるって噂は、本当だったんだな……」


ガルベルさんが、若干複雑そうな表情で苦笑した。

マイヤさんも、改めて僕に頭を下げてきた。


「勇者様のお陰で命拾いしました。神樹を昇りきるには、私もまだまだ力不足ですね」


ネイ・カーンさんが、皆に声を掛けた。


「それじゃあ、今日はこの辺にして帰るか。明日からは、勇者殿にも、本格的に戦闘に加わってもらう事にしようじゃないか」


4人の冒険者達は、笑顔になった。


う~ん、僕は一応、明日から20日間程、ルーメルまで往復してくるって口実で、一旦アールヴを離れる予定だ。

先に話しておこう。


「すみません、ちょっと所用で、明日から20日程、皆さんとご一緒出来ないんですよ」

「それは残念です。では、お留守の間に、私達でもう少し第81層の探索進めておきましょう。勇者様が戻って来られた時、より効率的にレベルを上げるお手伝いさせて頂けるよう、準備しておきますね」


マイヤさんが少し寂しそうな顔でそう言葉を返してきた。


帰路は、特に大きな事件は起こらなかった。

途中、第80層に戻ってから、キラーマンティスというカマキリの化け物のようなモンスターと2体遭遇したが、いずれも皆が弱らせた後、僕にとどめを譲ってくれた。

その戦いの中で、僕のレベルはさらに上がり、75になっていた。

キラーマンティスは、Aランクの魔石とマンティスの鎌という武器をドロップした。

僕は、それらのアイテムを、彼等にお礼として手渡した。


彼等4人は、僕にとっては、ノエル様からいきなり紹介された存在だ。

しかし、短時間ではあるが、こうして一緒に行動してみて、彼等が、能力・性格ともに、非常に優れた冒険者達である事が、よく理解できた。


ノエル様の思惑はともかく、これからも機会があれば、彼等と一緒に冒険するのも悪くないかもしれない。



僕等が神樹の外に出た時、日は既に暮れ、空には星々が輝いていた。


神樹の前の広場には、僕をここまで送ってくれた瀟洒な馬車が、そのまま待っていた。

僕は、4人の冒険者達に別れを告げ、その馬車に乗り込んだ。

馬車に同乗するメイド姿のエルフの女官が、僕に一礼した。


「タカシ様、お疲れ様でございました。お帰りになられましたら、夕食の御準備が整っております」

「ありがとうございます」


僕等を乗せた馬車は、王宮目指してゆっくりと動き出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る