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第61話 F級の僕は、闇に光を助けるように頼んでみる
第61話 F級の僕は、闇に光を助けるように頼んでみる
5月19日 火曜日6
二日ぶりのアパートの部屋は、特に変わり無さそうであった。
時刻は、午後7時53分。
まず郵便受けを覗いて……
特に目を引く郵便物は届いていない。
スマホの電源を入れて……
チャットアプリの新着メッセージが何件か届いているようだ。
ただし、僕は今、スマホの電波が届かない所に旅行している事になっている。
確認して既読にしてしまえば、特に僕を荷物持ちとして駆り出したい連中から、後で色々
未読のメッセージは、週末、
僕は、一旦、スマホの電源を落としかけて、途中で気が変わった。
そういや、最近のニュースって全然見てないな……
僕は、ニュースサイトを開いてみた。
目ぼしいニュースは……
「ん?」
ありきたりなニュースの中に、一つだけ、僕の目に止まったモノがあった。
【富士第一ダンジョン、さらに下層が発見される】
5/19 (火) 18:30 配信
世界最大の超巨大ダンジョンとして知られる富士第一ダンジョンにて、S級の
均衡調整課は、明日会見を開き、正式に92層の発見を宣言する見通しである。
富士第一ダンジョンは、富士山頂火口部分に、その入り口となる空間の歪みが存在するダンジョンだ。
通常、僕等の世界との境界に当たる、空間の歪みを超えた向こう側には、一つのダンジョンしか存在しない。
富士第一ダンジョンも、当初は普通のダンジョン、それもE級のダンジョンとして登録されていた。
ところが、内部の特定の場所に、非常に強力なモンスターが存在する事が判明した。
そのモンスターは、その特定の場所に留まり続け、ダンジョン内部を徘徊しなかった。
やがて、その強力なモンスターが倒された。
すると、その場に、ダンジョンの出入り口にしか存在しないはずの空間の歪みが発生した。
その空間の歪みは、手前の階層より少しだけ強いモンスターが徘徊する、新たなダンジョンに繋がっていた。
それが繰り返され、富士第一ダンジョンが、特殊なダンジョンである事が、次第に明らかになっていった。
特定の場所に留まり続けるモンスターは、非常に強力ではあるが、一度倒されると、二度と復活しない事。
空間の歪みを挟んで、下層に行くに従って、次第に出現するモンスターの強さが上昇する事。
特定の場所に留まり続ける強力なモンスターは、ゲートキーパー、それが倒された後に発生する空間の歪みは、ゲートと呼ばれるようになった。
今まで、大勢の人々が富士第一ダンジョンに潜り、ゲートキーパーを倒してきた。
そのたびに新しいゲートが発生し、その向こう側に続くさらなる下層のダンジョンが出現した。
そして今夜、富士第一ダンジョンの最下層は、91層から92層へと変更される事になったらしい。
ちなみに、均衡調整課の分類では、富士第一ダンジョン1層~29層がE級、30層~44層がD級、45層~59層がC級、60層~74層がB級、75層~89層がA級。
そして……90層より下層は、世界的にも稀な、S級ダンジョンに分類されている。
巨大な複合ダンジョンか……
僕は、アールヴ神樹王国中心部に
ノエミちゃんによれば、神樹内部の階層もゲートで接続されており、やはりゲートキーパーに守られていたはず。
富士第一ダンジョンと異なり、ゲートは、ゲートキーパーを倒さなくても、最初からそこに存在するみたいだけど。
まあ、神樹はともかく、僕が富士第一ダンジョンに潜る日は、永遠に来ないだろうな……
僕は、今度こそスマホの電源を落とすと、充電器に繋いだ。
そして、【異世界転移】のスキルを発動した。
「おかえり」
ウストの村の宿の自分の部屋に戻って来た僕は、エレンがベッドの端に腰かけているのに気が付いた。
「ただいま……って、もしかして、わざと?」
「何が?」
ゲンダの村でもそうだったけど、僕が【異世界転移】して帰ってくると、狙いすましたようにエレンがいる。
しかし、エレンは、僕の言葉の意味が分からないようで、小首を傾げた。
そして……
―――ゴォォォ……
一陣の風と共に、ノエミちゃんも僕の部屋の中に現れた。
「闇を統べる者よ、やっぱり現れましたね」
エレンは、ノエミちゃんを見ると、少しうんざりしたような顔になった。
「やっぱり来た」
「当然です。あなたとタカシ様を、二人っきりで行かせるわけにはいきませんからね」
「ノエミちゃん」
僕は、彼女に声を掛けた。
「はい、タカシ様」
「ノエミちゃんが、このタイミングでここに来られるって事は、前に話していた僕を見張っている精霊、まだここにいるの?」
「見張っているのでは無く、見守っている、と
「そうだね……」
まあ、僕にはさっぱり認識出来ない謎の精霊さん。
どうか、あまり僕のプライバシーを
そんな事を願いながら、僕は、エレンに聞いてみた。
「ここに来たって事は、今夜もレベル上げに行くって事だよね?」
「そう、昨日行けなかったから」
ノエミちゃんが、エレンに話しかけた。
「闇を統べる者よ、あなたは知らないのかもですが、昨夜、私達は大変だったのです」
「知ってる」
「知ってる?」
「光の巫女が、麻袋に詰められて、引き
「な、な、な!?」
ノエミちゃんが、これ以上無い位大きく目を見開いた。
「まさか、あなたが
「見てただけ」
ノエミちゃんの顔が険しくなった。
「闇を統べる者よ、とうとう本性を現しましたね? タカシ様に手を出せないと見て、私を……」
「ノエミちゃん」
僕は、ノエミちゃんに声を掛けた。
「エレンは、本当に関わってないと思うよ。もし、エレンが僕等をどうこうしたいなら、例えば、いきなり神樹の第80層とかに転移して、モンスターをけしかけたりも出来るはずだ。だけど、エレンは、そういう事をしないでしょ?」
「ですが……」
僕は、エレンに向き直った。
「エレン、君と僕とノエミちゃんは、神樹の110層を目指す、いわば仲間だ」
「仲間?」
「そう。だから、エレンも、これからは、ノエミちゃんがピンチになっているのに気が付いたら、見ているだけじゃ無くて、助けてあげて欲しい」
ノエミちゃんが、若干抗議するような声を上げた。
「タカシ様! 私は、闇を統べる者の手助けなど……」
「ノエミちゃん」
僕は、ノエミちゃんに語りかけた。
「僕が言うのも何だけどさ。一人で出来る事って、限界があると思うんだ。だから、助けてくれそうな人には、頼ってみようよ」
「……頼った相手に裏切られる位なら、一人で何とかした方が、ましです」
そう答えたノエミちゃんの表情は、なぜかとても寂しそうに見えた。
エレンが、口を開いた。
「じゃあ、今度からは、光の巫女が麻袋に詰められていたら、助ける事にする」
「麻袋に詰められた時限定じゃ無くて、助けてあげてね」
話が一段落した所で、僕は、二人に聞いてみた。
「MPを回復させることが出来るポーションとか、MPの上限上げたり、自動的にMP回復してくれたりするアイテムとかって、この世界には存在するのかな?」
ちなみに、地球には、そうしたアイテムは、一切、存在しない。
MPは、時間経過で自然回復するのを待つしかない。
モンスターのMPを奪ったりして補充出来るスキルがあるって話は聞いた事あるけれど。
「MPを、ですか? タカシ様、魔法をお使いになるのですか?」
「魔法は、まだ使えないんだけど、MP消費しながら発動するスキル覚えたからさ。今後、MP足りなくなる場面も出て来るかな~と」
「MPを回復させるポーションや、MPの上限を上げる兜やティアラ、MPを自動回復させる装飾品等があります」
「そうなんだ。じゃあ、今夜は、そういったアイテムが手に入りそうな場所でモンスターと戦いたいかな」
その時、僕等の話を黙って聞いていたエレンが、口を開いた。
「MPを自動回復させるバンダナなら作れる」
「ほんと?」
「ただし、素材を集めないといけない」
「僕でも集められそうかな?」
「大丈夫。光の巫女もいるし」
こうして、今夜の僕等の目的地が決定された。
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