【コミカライズ版】最底辺であがく僕は、異世界で希望に出会う~自分だけゲームのような異世界に行けるようになったので、レベルを上げて、みんなを見返します【発売中】
第56話 F級の僕は、カイスになじられる
第56話 F級の僕は、カイスになじられる
5月19日 火曜日1
何者かに脇腹を斬られた!?
僕は血が流れ出る脇腹を押さえ、激痛をこらえながら、立ち上がった。
そして、腰に差していた鋼鉄の剣を抜いて、身構えた。
周囲に目をこらすが、焚火に照らし出される範囲内に、襲撃者の影らしきものは見当たらなかった。
僕は、周囲に向けて、呼びかけてみた。
「誰かいるのか?」
その瞬間、悪寒が走り、再び、風を斬るような音がした。
―――シュバッ!
そして、今度は、右足首に激痛が走った。
また斬られた!?
それとも、風属性の魔法で攻撃されている?
僕は、バランスを崩して地面に倒れ込みながらも、インベントリを呼び出した。
震える手で、神樹の雫とエレンの衣、魔族の小剣を取り出した。
そして、鎧を着替えながら、周囲に向けて思いっきり叫ぼうとした。
またも、悪寒と共に、風を斬る音がした。
―――シュバッ!
「か……は……」
まずい!
喉を斬られた!
声が出ない!
痛みに耐えながら、僕は不思議な感覚に陥っていた。
この襲撃者は、なぜこんなちまちました攻撃をしてくるのだろうか?
まさか、僕を
僕は、この攻撃の出所を全く知覚できない。
つまり、この襲撃者は、その気になれば、僕の首を一撃で飛ばす事だって出来るんじゃ……
首を一撃で……
死……
僕の心の中が、突如恐怖で一杯になった。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……あれ?」
僕は、咄嗟に【異世界転移】のスキルを発動した。
次の瞬間、僕は、見慣れたアパートの自分の部屋に転移していた。
心臓がまだバクバク言っている。
声も出ないし、斬り裂かれた傷もそのままだ。
ふと、横に目をやると、先程インベントリから取り出した神樹の雫と、魔族の小剣、そして、エレンの衣を着る時脱いだ銀の鎖帷子が転がっていた。
僕は、神樹の雫のアンプルの首を折って、中身を飲み干した。
すぐに傷が塞がり、痛みも消え去った。
「アーアー」
よし、声も出る。
僕は、改めてインベントリを呼び出し、銀の鎖帷子と鋼鉄の小剣をその中に放り込んだ。
そして、神樹の雫を10本取り出し、腰のベルトに差した。
既に着替えていたエレンの衣を再確認し、魔族の小剣を右手に構えた僕は、再び【異世界転移】のスキルを発動した。
僕が戻ってくるまでに、数分しか経過してないはずの今夜の野営地は、先程とはうって変わって、大騒ぎになっていた。
「敵襲だ!」
「きゃああ!?」
カイスやその仲間達、そして、アリアもテントから出てきているのが見えた。
少し離れた場所にテントを張っていた、あの冒険者達も皆、武器を構えて出てきているようであった。
先程よりは落ち着きを取り戻した僕は、目を凝らしてみたが、肝心の襲撃者の姿が見えない。
しかし、時々、悲鳴が上がる所を見ると、やはり、何者かに襲撃されている、と考えて間違いなさそうであった。
僕は、自分達のテントの方に駆け寄った。
僕の姿に気付いたアリアが、声を掛けてきた。
「タカシ、無事だった?」
「うん、他の皆は?」
「それが……ノエミがいないのよ」
「えっ?」
「急に何者かに襲撃されて、足を斬られて、気が付いたら、ノエミがいなくなってたの」
「足!? 大丈夫?」
「うん。タカシのくれた神樹の雫使ったから」
見た所、アリアの足に傷は残ってなさそうであった。
「分かった。僕は、ノエミちゃんを探してくる! アリアは、このテントの傍にいて!」
アリアにそう言い置くと、僕は、ノエミちゃんの姿を求めて、野営地中を走り回った。
たまにすれ違う人々が、全身黒ずくめの僕の姿に、ぎょっとしている感じだったが、今は、構っていられない。
しかし、ノエミちゃんの姿は、どこにも見当たらなかった。
もしかして、拉致された!?
ノエミちゃんは、詳細な経緯は不明だが、一度、山賊達に拉致され、閉じ込められていた。
あれが、何かの大きな陰謀の中の一幕に過ぎなかったのなら、再び拉致される可能性もあるはずだ。
僕の中で、猛烈に嫌な予感が膨れ上がってきた。
僕は、野営地の出入り口に向かって急いだ。
と、ふいに、違和感を抱いた。
揺らめく陽炎のような何かが、野営地の外に向かって移動していくような気がしたのだ。
何か見えない影のような存在が、見えない袋を引きずっている!?
突然、あの効果音が聞こえた。
―――ピロン♪
スキル【看破】を取得しました。
様々なスキルや魔法により隠されてしまった真実を、見破る事が出来るようになります。
このスキルを使用中は、10秒ごとにMP1消費します。
え?
このタイミングで、いきなりスキルが取得された。
しかし、今までの経験上、僕が取得するスキルは、なぜか、すぐにその場で役に立つ事が多かった。
と言う事は……
僕は、【看破】を念じながら、再びあの陽炎のような何かに視線を向けた。
今度は、相手をはっきりと認識できた。
全身黒装束を着込んだ細身の人物が、麻袋のような物を引き
僕は、その人物に素早く走り寄ると、スキル【威圧】の発動を試みた。
「おい!」
―――ピロン!
【威圧】が抵抗されました。
う~ん、もしかして、【威圧】って、成功率低いのかな?
それとも、相手がそれなりにレベルもステータスも高い?
全身黒装束の人物は、僕に気付くと、手にしていた麻袋を地面に置き、滑るようにこちらに接近してきた。
そして、無造作に、手に持った小剣で僕の身体を斬り裂こうとした。
―――ガキン!
僕は、相手の小剣を右手の魔族の小剣で弾いた。
黒装束の相手は、後ろに飛び退いた。
「……何者だ?」
黒装束の相手が、くぐもった声で問いかけて来た。
相手は、目元以外、全身、忍者のような黒装束に身を固めていた。
細身の人物と言う以外、年齢も男女の別も推し量れそうになかった。
まあ、相手からすれば、エレンの衣を身に
僕は、相手に問いかけた。
「お前こそ、何者だ? なぜ、襲ってきた?」
相手の目元が、僅かに細くなった。
「私が見えるのか? 面白い」
僕は、黒装束の相手に魔族の小剣で斬りつけた。
―――ガキキキン!
数合打ち合う内に、背後から声が聞こえて来た。
「おい! あそこに誰かいるぞ!」
カイス達であろうか?
同時に、複数の足音が、こちらに近付いて来る。
黒装束の相手は、身を
「待て!」
僕は、慌ててその後を追いかけた。
しかし、野営地の外に出ると、周囲は、漆黒の闇の中であった。
木々が
【看破】のスキルは、あくまでも、スキルか何かで身を隠している人物の姿を見えるようにするだけで、暗視効果みたいなのは無いらしい。
仕方ない。
僕は、【看破】の発動を停止した。
そして、追跡を諦め、再び野営地の方に戻ろうとして、ふと足を止めた。
一応、皆の元に戻る前に、カイスと見張りを交代した時の装備に戻しておいた方が良い。
こんな全身黒ずくめのローブ姿で戻れば、下手すれば、僕が不審者扱いだ……
インベントリを呼び出し、再度、装備を鋼鉄の小剣と銀の鎖帷子に戻した僕は、野営地の中に戻った。
野営地の中は、まだ騒然としていた。
そして、皆が集まっている場所の中心に、ノエミちゃんが立っているのが見えた。
僕は、思わずそこへ駆け寄った。
「ノエミちゃん!」
ノエミちゃんが、僕の声に気付いて顔を上げた。
しかし、次の瞬間、僕の前にカイスが立ち塞がった。
カイスは、いきなり殴りかかってきた。
「なっ!?」
僕が、その拳を避けると、カイスが、僕を睨みつけて叫んだ。
「おい! お前が見張りを放棄して逃げ出したせいで、僕達がどんな目に合ったのか、分かってるのか!?」
「見張りを放棄したりしてない。皆に知らせようとしたけど、喉を斬られて、声が……」
「喉を斬られた? じゃあ、なんで、今喋れてるんだ? お前は」
「それは、ポーションを使って……」
「お前程度の駆け出しが買えるポーションで治る傷なら、声が出ない程斬られたりしてないはずだ。すぐバレる嘘は止めろ!」
僕等の口論に、アリアが、口を挟んだ。
「タカシは、見張りを放棄したりしてない!」
カイスは、アリアに諭すように語り掛けた。
「アリア、君が優しい心の持ち主だって事は、僕もよく承知している。だけど、現実、こいつは、僕達が襲撃された時、あの焚火の傍にいなかった。そして今、こうして無傷で僕達の前に現れた。つまり、こいつは、見張りを放棄して、どこかでブルブル震えながら隠れてやがったんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます